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『追放された【犬のお巡りさん】、辺境駐在所でチート犯罪者を凍結検挙する〜訳あり美少女4人と回すポポロ村事件簿〜』  作者: 月神世一


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EP 7

タローマンでの母マリアとの再会と、忍び寄るアルディス伯爵家の影

 帝都中央銀行の強盗事件を解決した翌日、からりと晴れ渡った青空の下、俺たち一行は帝都南西部に広がる巨大商業区画へと足を運んでいた。

 目指す場所は、街道沿いにそびえ立つ見慣れた巨大な緑と黄色の看板。

『なんでも揃う職人と庶民の味方! 大型総合ホームセンター・タローマン 帝都南店』

 百年前、伝説の転生者・佐藤太郎がもたらした概念を具現化した、帝都屈指の超巨大ホームセンターである。

 木材や魔導工具、配管パイプといった本職のガテン系職人が通う本格資材売り場から、日用品、園芸用品、果てには格安の魔導具や軽装備品まで、文字通り生活のすべてを呑み込んだ巨大施設だ。

「ふおおおぉぉ……! なんという威容、なんという圧倒的な物量ですの! 帝都のホームセンター、初めて足を踏み入れましたわ!」

 臙脂色の芋ジャージの袖をパタパタさせながら、目を輝かせるのは人魚姫リーザ。

 手には昨日銀行強盗を捕まえた際にちゃっかり確保したタローマンの特売チラシをぎゅっと握りしめている。

「リーザちゃん、迷子にならないでくださいね。……リオン様、今日はお招きいただき光栄ですわ♡ 今日こそリオン様のお母様にご挨拶をして、『将来のお嫁さん候補』として満点のご評価をいただいてみせます……!」

「重い! 挨拶はいいけどお嫁さん候補とか言い出すなよ!? ただの日常の買い出しと、昨日のお礼を兼ねた顔見せだからな!」

 隣でぎゅっと俺の制服の腕にしがみつき、プラチナブロンドの長い兎耳をピクピクさせて心音を聴き取ろうとしてくるキャルルにツッコミを入れる。

 彼女の足元からは、カチリ、カチリと鋼鉄の先芯が入ったタローマン特注・重作業用安全靴の頼もしい足音が響いていた。

「あらあら、ふふふ。リオン様のお母様、とてもお優しい方だと伺っておりますわ♡ 職人街の資材コーナーにいらっしゃるのでしたら、エルフの秘薬で作った『絶対に腐敗しない世界樹の肥料』と『一晩で骨を接合する栄養ドリンク』をプレゼントしましょうか?♡」

 純白のエルフローブを優雅に翻す次期女王候補ルナが、物騒極まりない小瓶を袖口からチラつかせる。

「いや、世界樹の肥料はともかく骨接合ドリンクは普通に薬機法違反だからしまえ。母さんはただのパート店員なんだよ」

「おはよーございま〜す! 本日のゴッドチューブ生配信は【美少女天使が帝都最大のホームセンターでお買い物してみた☆】でお送りしまーす! リスナーのみんな、リオンっちのママに投げ銭でスパチャ飛ばす準備はOK〜?」

 上空数メートルをホバリングしながら、魔導スマホと自律ドローンを器用に操って配信を回す月給二億円天使キュララ。

 頭上の光輪がぴかぴかと点滅し、コメント欄にはすでに『ママ公認配信キタコレ!』『タローマンの資材館すげえええ』『とりあえず赤スパ10万投下!』と狂乱の文字列が滝のように流れていた。

「おいキュララ、母さんを変な配信のオモチャにするなよ。……はぁ、本当にこのカルテットを連れて外を歩くだけでMPが削れる……」

 俺——アルディス外れ交番の巡査長、リオン・フォン・アルディスは深々とため息をついた。

 とはいえ、今日の目的は交番の消耗品(トイレットペーパー、洗剤、給湯室用の緑茶パック)の調達と、母マリアへの顔見せだ。

 昨日、アルディス伯爵家の私兵の匂いを感じ取って以来、どうしても母さんの身の回りが気になっていたのだ。

 自動ドアをくぐり、広大な店内へ足を踏み入れる。

 フロア全体に漂う真新しい木材の芳香と、油の混ざった独特の金属臭。

 奥の資材館へ進むと、緑色の『タローマン』ロゴ入りエプロンをきっちりと着こなした母マリアが、テキパキと巨大な魔導角材の寸法を測り、職人の客と笑顔で言葉を交わしていた。

「はい、毎度あり! こちらの防腐処理済みの檜材、十本で銀貨十五枚になります。いつもタローマンをご利用いただきありがとうございます!」

 小気味よい声で見送った母さんが、ふとこちらに視線を向け、ぱっと表情を明るくした。

「あら、リオン! 来てくれたのね。……まあ、そちらの可愛らしいお嬢さんたちは?」

「母さん、お疲れ様。……ええと、こいつらは最近知り合った近所の……まあ、訳ありの友人たちだよ」

 俺が紹介しようとした瞬間、四人が一斉に動き出した。

「お初にお目にかかります、お母様! キャルル・ムーンハートと申しますわ! リオン様には日頃から大変温かいご指導と……深い愛をいただいておりますの♡」

「語弊がある言い方をするな!」

「リオン様のお母様……! いつもリオン様から交番の支給品カツ丼という命の恵みを恵んでいただいている、極貧地下アイドルのリーザですわ! お母様、このタローマンの試食コーナーはどのあたりにありますの!?」

「ホームセンターに試食コーナーはない! パンの耳感覚で木屑を食おうとするな!」

「エルフの森から参りましたルナと申します♡ お母様、もしお仕事で腰や膝がお辛いようでしたら、いつでも仰ってくださいね。余分な筋肉を一度切除して、世界樹の若枝をインプラントすれば軽やかに跳躍できるようになりますから♡」

「だから笑顔で違法サイボーグ手術を提案するなァッ!!」

「どーもー! 天界から降臨中のキュララで〜す! ママ、めっちゃ美人じゃん! 今リスナーからママ宛てに『お茶代』としてルナPayに五百万円届いたから、あとで山分けしよ〜☆」

「人の母親を怪しい資金洗浄に巻き込むな!!」

 ツッコミの四連撃を放ち、俺は肩で息をした。

 母マリアは目を丸くしてポカンとしていたが、やがてくすくすと楽しそうに笑い声をあげた。

「ふふっ……あはは! 賑やかでいいわねぇ。リオンは昔から真面目すぎて一人で抱え込みがちだったから、こんなに素敵な……ふふ、ちょっと個性的なお友達がたくさんできて、母さん安心したわ」

「母さん、笑い事じゃないよ……。ほら、これ、差し入れ。ルナキンのテイクアウトで買ってきた、出来立てのハンバーグ弁当とホットコーヒー」

「まあ、ありがとう。ちょうどお昼の休憩に入るところだったのよ。みんなも奥の休憩スペースでお茶でも飲んでいかない?」

 母さんの案内で、資材館のバックヤード近くにある従業員・職人向けの休憩ラウンジへ向かった。

 木造の素朴なテーブルに腰掛け、母さんが包みを解く。

 ふわりと広がるデミグラスソースの甘く香ばしい匂い。肉厚のハンバーグの上にぽってりと乗った半熟の目玉焼きが、湯気とともに食欲をそそる。

「ん〜、やっぱりルナキンのハンバーグは美味しいわね。リオンが伯爵家を出てからもう十年……あの頃は、二人でプレハブの交番の片隅で、冷たいパンを分け合って泣いたこともあったけれど……」

「……母さん」

「今こうして、リオンが立派に帝都を守るお巡りさんになって、私は大好きなタローマンで働けて……毎日が本当に幸せよ」

 穏やかに目を細める母マリア。

 その言葉に、キャルルがルビーの瞳を潤ませ、胸の前で両手をぎゅっと握りしめた。

「お母様……なんて尊い親子の絆なのでしょう……! 私の心音が、お母様の深い慈愛に共鳴して激しく脈打っておりますわ……っ! リオン様、私、必ずやお母様を幸せにする良き嫁になってみせます!」

「だから話の着地点をそこにするなって」

「ぐぬぬ……ハンバーグの肉汁の香りが鼻腔を貫きますわ……! 私もいつか、タローマンの資材館でバイトをして自力でカツ丼を勝ち取る生活力を身につけねば……!」

 リーザが悔しそうに拳を握りしめ、ルナはお茶を優雅に啜りながら「ふふ、人間界の家族愛というのも興味深いサンプルですね♡」と微笑んでいる。

 そんな、どこまでも平和で穏やかな昼下がりのひとときだった。

 ——だが、その平穏は、突如として破られた。

 ドガァァァァァンッッ!!

 けたたましい破壊音とともに、休憩ラウンジの木製パーテーションが粉々に吹き飛んだ。

 木屑と粉塵が舞い散る中、買い物客の悲鳴が店内に響き渡る。

「ひっ……!? な、何事ですか!?」

 立ち上がった母マリアを、俺は即座に背後へ庇った。

 ピクッ、と俺の『犬のお巡りさん』の嗅覚と聴覚が、最大警戒レベルで跳ね上がる。

 ・ドス黒い暴力と威圧のオーラ

 ・高級な葉巻と、違法魔導薬品特有のツンとするケミカル臭

 ・そして——昨日、帝都の風に乗って漂ってきたあの匂い。アルディス伯爵家の私兵の匂いだ。

「けっ、しけた休憩室だな。おいおい、パートのオバハンが色気付いてガキどもとピクニックごっこかよ?」

 粉塵を払って現れたのは、三人の男たちだった。

 先頭に立つのは、全身を黒革のライダースーツで包み、両肩に禍々しいスパイクをあしらった巨漢の男。

 首筋には帝都の裏ギルドが使う刺青が刻まれ、その右手には、青白い不穏な魔導電流をバチバチと放つ巨大な『電磁スタンバット』が握られている。

 そして男の背後には、アルディス伯爵家の家紋が刺繍された黒マントを羽織った私兵が二名、冷酷な笑みを浮かべて控えていた。

「あ、貴方たちは……!?」

 母マリアが息を呑み、顔から血の気を引かせる。

「……アルディス伯爵家の紋章だな」

 俺は冷徹に言い放ち、男の眉間を射抜くように見据えた。

 男——電磁バットを肩に担いだ巨漢は、下卑た笑みを浮かべて唾を吐き捨てた。

「へへっ、察しがいいじゃねえか、出来損ないの三男坊・リオン巡査長殿よぉ。俺の名はバラン。伯爵閣下から直々に『清掃業務』を請け負った、フリーの転生者用心棒だ」

「バラン……転生者か」

「そうだ。グレゴール伯爵閣下から伝言だぜ? 『アルディス家の名折れであるゴミスキル持ちの三男と平民の側室が、帝都の外れでいつまでもチョロチョロと目障りな交番なんぞ開いてんじゃねえ』ってよ」

 バランは電磁バットでガチリと床を叩いた。

 魔導タイルの床がパキンと音を立ててひび割れる。

「要件は一つだ。今日中にその薄汚い交番を畳んで、母子揃って帝都から永久に立ち退け。ついでに、このタローマンのパートも今日限りで辞めてもらおうか。伯爵家の元側室がホームセンターでエプロン着て角材運んでるなんざ、家の恥なんだよ!」

「……っ! 私がどこでどう働こうと、グレゴール様には関係ないはずです! 私は十年前、正式に離縁されて平民に戻ったのですから!」

 母マリアが凛とした声で抗議する。

 だが、バランは鼻で笑うと、懐から分厚い立ち退き承諾書を取り出し、無造作に放り投げた。

「関係あんだよ、貴族様のメンツってやつにはな! おい、大人しくサインしねえと……この店ごと、ちょっとした『火災事故』に見舞われることになるぜ? ちょうど俺のユニークスキルは、引火性の高い物を弄るのが得意でねぇ」

 バランの全身から、ギラギラとした凶悪な赤黒い魔力が陽炎のように立ち上った。

 その手には、怪しげなガラスアンプル——高純度濃縮された違法魔導薬品『陽薬草の過剰濃縮液』が握られている。

 一滴でも床に零れれば、周囲の木材や揮発油に引火し、タローマンの資材館全体が一瞬で火の海と化す危険物だ。

「ひ、店を燃やす気……!?」

「へへっ、分かったらさっさとサインしな! さもなくば、まずそのオバハンの顔面をこの電磁バットでミンチにして——」

 バランが母マリアに向けて電磁バットを振り上げた、その刹那だった。

 ガッッッッッ!!

 地響きのような衝撃音とともに、バランの巨体が数センチ後退した。

 バランが振り下ろそうとしたバットの先端を、横合いから割り込んだ白銀の靴底が——寸分の狂いもなく踏み落として床に縫い付けていたのだ。

 タローマン特注・重作業用安全靴。

 踏み抜いたのは、キャルルだった。

「な……ッ!? 誰だテメエは!?」

「……よくも」

 キャルルの声は、氷点下よりも冷たかった。

 普段の穏やかで可愛らしい聖母の面影は微塵もない。

 ルビーの瞳はドス黒いまでの真紅に染まり、長い兎耳が殺気で鋭く尖っている。

 その全身から噴き出す凄まじい闘気の圧力に、後ろの私兵二人が「ひっ……!?」と息を呑んで後ずさった。

「よくも……リオン様の大切なお母様に……暴力を振るおうとしましたわね……? リオン様の温かい心音を乱す害虫が……この私を前にして、無事に帰れると思って……?」

「ひ、ヒィィッ……!? なんだこのアマ、気迫がヤバすぎる……ッ!」

「ふふふ……あらあら。タローマンを全焼させるおつもりでしたの?♡」

 ルナがふわりと歩み寄り、エメラルドの瞳を妖しく細めた。

 その袖口からは、棘のついた毒々しい蔓草が蛇のように鎌首をもたげている。

「木材が燃えてしまうのはエルフとして見過ごせませんわ♡ 貴方たちの両手両足を切り落として、資材館の腐葉土の堆肥にして差し上げましょうか?♡」

「ひ、悲鳴を上げたら即配信で全世界に特定班を動員しちゃうかんね〜! 伯爵家の悪事、全部ネットに晒してやるから!」

 上空からキュララがドローンを急降下させ、至近距離からバランたちの顔面をズーム撮影する。

 リーザも背後でお賽銭掃除機のノズルを構え、「懐の金目の物、全部吸い込んでやりますわ!」と牙を剥いていた。

「お、おいおい……なんだコイツら……!?」

 予期せぬ美少女怪異カルテットの威圧に、バランは額に冷や汗を流しながらも、逆上して電磁バットに渾身の魔力を込めた。

「舐めるんじゃねえぞクソアマどもがああッ! 俺のユニークスキル【爆裂火薬付与】を食らって、この店ごと消し飛びやがれえええッ!!」

 バランの身体から、爆発的な紅蓮の炎が膨れ上がる!

 周囲の資材が熱波でジジジと焦げ始めた、その時——。

「——そこまでだ」

 静かに、だが店内の熱狂を一瞬で氷結させるような通る声が響いた。

 前に進み出たのは、俺だ。

 右手を懐へ差し入れ、黒革の警察手帳をパチンと開く。

 金文字の紋章が、炎の照り返しを受けて冷徹に輝いた。

「職務質問を行う。アルディス伯爵家雇まれ用心棒・バラン。……公道および店舗内における脅迫、威力業務妨害、ならびに違法薬物所持の現行犯だ」

「はっ! ハズレスキル『犬のお巡りさん』の三男坊が、偉そうに手帳なんぞ見せてんじゃねえよ! 貴族の力も使えねえ落ちこぼれが、俺の爆発を止められるわけが——」

 吠えるバランに対し、俺の『犬のお巡りさん』の嗅覚レーダーが、薬品の成分と男の悪意を完全にスキャンし終えた。

 俺の目は、すでに完全に据わっていた。

 前世のブラック社畜時代、理不尽に店や同僚を荒らすクレーマーを冷徹に叩き潰してきたあの覚悟と、天使長ヴァルキュリアから叩き込まれた執行官としての冷徹な怒りが、静かに臨界点を突破する。

「母さんと……このタローマンに手を出そうとしたこと、後悔させてやる」

 俺は警察手帳をバランの鼻先に突きつけ、大宇宙の最高法規の名を呼んだ。

「——大宇宙管理局・カスハラ部・執行部の権限により、貴様のチート能力を強制凍結する!」

読んでいただきありがとうございます。

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