❪後編❫
❪前回までのあらすじ❫
本小学校でシャープペンシルの使用が禁止されているのには、きちんとした理由があります。
まず、シャープペンシルは芯が折れやすく、字も薄くなる為、筆記をまだ習っている最中の皆様には、筆圧が均一になる鉛筆の方が望ましいということです。
また、授業中、不必要にシャープペンシルをノックし、周りの子の集中を妨げるばかりか、パーツを分解して遊んでしまう児童もいます。キャラクターものが禁止なのは、他の文房具のルールと同じですので、ここでは割愛させていただきます。
加えて昨今のシャープペンシルには高額なものも多く、盗まれたり、友達との貸し借りによるトラブルがあることが、他校では数多く報告されています。
よって本校では、授業中のシャープペンシルの利用、持ち込みは禁止となっています。
きちんと学校のルールを守って登校するようお願いいたします。
――――――――――――――――
転生小学生、東条寺 呉亜は、
休み時間に3階の廊下の窓から、中庭を見つめていた。
木田 可里朱は一体どこへ行ってしまったのだろう。
呉亜は中庭の中央にある銀杏の木を見ながら、
……その枝の向こうに透ける保健室の入り口から、今まさに体操着を着た木田 可里朱が出てくるところを目撃していた。
居た!
呉亜の心臓がドキドキと鼓動を早める。
……リアル男おんな、木田 可里朱がとぼとぼと肩を落としながら歩いている。彼女はまだ下校時刻でもないのに、ランドセルを背負い、昇降口の方へ向かっているようだった。
待て!逃がさないぞ!
呉亜は、グレーのパーカーのフードを目深に被り、ダッ!と廊下を走り出した。
悪行がバレることに危機感を感じたのだろうか?早速学校からエスケープしようとする犯罪者を、呉亜は、はぁはぁ言いながら追いかけていった。
「ま、ま、待ちなさい!!」
勇気を振り絞って東条寺 呉亜は、ポケットに手を突っ込んだまま大きな声を出した。
体操着姿のショートヘアの少女が振り返る。
ベージュ色のランドセルの側面でピンク色の巾着袋が揺れた。
可里朱は、ぼんやりとしたような表情でこちらを見ると、また黙って下駄箱に手を入れた。
「待ちなさい!」とパーカーの少女が再び怒鳴る。その声は裏返り震えていた。
「木田 可里朱!!逃げるな!!私はお前の秘密を知っているぞ!」
「……あなた、誰?」と可里朱が力無く言う。
全く元気のない様子のいじめっ子に、呉亜は少し勢いを削がれながら「……こ、これあなたのでしょ?」と言ってポケットから赤いヘアピンを取り出した。
可里朱は一瞬目を見開き…、「ありがと。どこに落ちてたの……?」と言って近付いてくると、呉亜の正面に立った。
「ど、どこって……その、あの、……だ、だ、だ、段シート入れよ!!バ、バレてるんだからね??!あなた、本当は……」と呉亜が言ったところで、
木田 可里朱は虚ろなフードの洞穴を覗き込み「……あなた……、○○○(前世の名前)ね……最近1組に転生したって聞いたわよ……」と言った。「え……」と絶句した呉亜の手のひらから、彼女は赤いヘアピンを摘まみ上げる。そして、それを自分の前髪に差すと「私は……アナタとは違う。私は……転生を考えたりしない。」と呟いた。「……それは逃げよ。……私は逃げたりしない。すでに3組の男子達の間で、私は『おもしろ文具女子』の称号を得たわ。明日から私の防災頭巾はおべんきょの雑巾よ……」可里朱はフッ……と自嘲気味に笑う。
「?……何のこと言ってるの……あなたは文具女子ではないでしょ?」
「は?」と可里朱は微かに覇気を取り戻したような声で返事をした。
「私、知ってるのよ……」とフード付きの少女が言う。
すると「アナタこそもうバレているんだから顔を見せないよ。」と、可里朱の長い腕が伸びてきて、東条寺 呉亜の変装をガバッ!と剥ぎ取った。
下から現れた七三でこっぱち少女の顔を見て、ボーイッシュ女子は「……お久しぶりぶり…」と呟いた。
呉亜は真っ赤になって睨み返しながら「あ、あなたこそ観念しなさい??!全部お見通しなんだからね!あ、あなた、本当は男なんでしょ!!」と叫んだ。
「はあぁぁぁぁぁぁぁ???」と可里朱も叫ぶ。
「ま、まさかのそっち系統の悪口?そっちから来るとは想定していなかったわ!?ほら、違うでしょ?私みたいな凛として人を見下していたタイプの女子が、授業中に押し問答に負けて、男子の前で泣いたのよ??そっちの方が興奮するでしょ!!」
「なに意味分かんないこと言ってるのよ??男の振りして何年間生きてきたの?まあ、黙っていても年齢的に化けの皮が剥ける時なんでしょうけど?!その前にアナタの正体をクラスの子達にバラしてあげるわ!今まで女子と同じ部屋で着替えていたなんておぞましい!!着替える時も男子用を使いなさいよ!」
「なに、なに、なに??は、は~ん、もしかして、アナタも隠れMなのね?“オモかげ探して、よみがえる日は涙そそう”した美少女の座を取られると思って私に喧嘩売りにきたの??おこがましい!現実から逃げたアナタの時代はもう終わったわ!これからは私がこのクラスのシャンペン・バニーガールよ!今後の私の学校生活は、ことあるごとに今日の出来事と結び付けられ、『…でもあいつ5年の時にもらい泣きしたじゃん(笑)』で片付けられる存在になるのよ!」この立場はアナタには渡さない!」
「ちょっとナニ言ってるか全然イミ分かんないんですけど?!とにかく、男おんな木田 可里朱!ミーナンバーカードを見せなさい!今ここで性別を確認させてもらうから!」と呉亜が叫んだ。
誰もいない薄暗い昇降口に少女達の高い声がこだまする。
「は?今日はミーナンバーカードは持ってないわ!そもそも学校に持ってくる子はいないでしょ??て言うか私は女よ!!もし男だったら、今日の『少女らしいおもい出』に炉まんチックな価値が見出だせないでしょ??アンタ、バカなの??」と体操着姿の可里朱が言う。
「まあ、そうね。それならいいわ。……じゃあ直接、女の子の証拠、見、せ、て♡」
「はあ??なんでアンタに見せなきゃいけないのよ!?わ、私はね!アナタと違って、少し生…」
「……私も見たいわ。」
ガバッ!と2人が振り向くと、そこには丸顔の保健委員小荒井 結花理が微笑みながら立っていて、
「おふたりさん?こんな所で不毛な言い争いをするのもなんだから保健室に戻る?こういった話し合いをするには、保健室以上に適切な場所はないわよ?」と言った。
「不毛かどうかは、この際関係なくない?!」と呉亜が耳まで真っ赤になりながら言う。
「とにかく。ここで大騒ぎしていたら誰か来るわよ。来なさい。」そう言うと 結花理は優しく2人の手を握り、そのしっとりとした指で包み込むと、
ショートカット美少女二人組を保健室へ続く渡り廊下に引っ張っていった。
***************
白を基調とした壁紙に、低学年用のクマやウサギのシールが所々貼られている保健室は、清潔感のある白のカーテンに囲われた白のベッドが2つあり、
薬棚を背にした茶色いソファが中央に備え付けられている。
睨み合う2人の少女を座らせ、ふんわりとした髪質をはねさせた保健委員は、「さ、まずは仲直り♡」と言った。
「な、なんで私がこんなやつと!」「わ、私だってこんな男おんなとは御免です!」と少女達は揃って腕を胸の前で組むと、ぷい!と背を向けて、頬を膨らませる。
「息ぴったりじゃない……さすが美少女おもしろシスターズね…」と結花理が満足そうに言った。
「まあ、まずはお互いの言い分から聞きましょうか?」最近目立ってきた胸部に、緩く桃色のカーディガンを羽織り、お臍の上辺りでリボンを結んでいる保健委員が、コップに水を入れて戻ってきながら言う。
「言い分もクソも……」「うわぁ~~ん、クソって言った~」と呉亜が言った。
保健委員小荒井 結花理が「アハハ…確かに前世でのK.Sちゃんは、林間学校のお布団の上でソリッド&リキッドのw役満をしたからねw。」と朗らかに言う。「あ、ちなみにその時の記念オーパーツ、実は私、持ってるわよ?見る?」
「「へ?」」と2人の少女の動きが止まる。
「いやあ……保健委員の私ですら、かなりの入手困難のアイテムだったわ……。あの歴史的瞬間に立ち会えなかった分、これだけはどうしても手に入れたい……とあちこちを奔走したんだけど。で、心無い先生にそのまま処分されてしまうところを、ギリギリなんとか私が救出したの。見る?」
青ざめた2人の少女の目の前で、結花理は立ち上がり、冷蔵庫の方へ歩いていった。
「あ、一緒に今日の可里朱ちゃんの分もしまってあるわよ。………何よその顔は?もちろん転売とかはしないわよ~~。あくまで自分の楽しみの為に集めてるの。
他の人の手に渡るのは私だって嫌よ。」
そう言いながら少女は、冷蔵庫から取り出したプラスチックケースから、ジッパー付きポリ袋に入った何かを彼女達に見せた。
東条寺 呉亜は、何ヵ月か振りに再会した斑に汚れた自分のオーパーツを見て、顔色が青から白になりながら思わず隣に座る可里朱の手を握った。
「私も一度だけ履いてみたけど、これはなかなかの美品よ?本人を前にして言うのもなんだけど……w役満のオーパーツで、ここまで状態のいいものはなかなかお目にかかれないわよ?あ、心配しないで可里朱ちゃんのも綺麗にしまってあるから。今回のは入手が早かったから、匂いとかもそのまま閉じ込められるのように工夫してあるわ。あとで嗅いでみる?飛ぶわよぉ………あ、そうそう、こっちは伊丹 多々良ちゃんて子の2年生の時のものね。今は4年生だけど、文化祭のお化け屋敷でちびっこ大集合しちゃった時のやつよ。……今年の文化祭では現4年生がお化け屋敷をやるみたいだから、楽しみよね?多々良ちゃんトラウマでまたやるかもねー。」
そこまで説明すると、結花理は……何よ?といった顔で、ソファの上で震えながら抱き合う少女達を見下ろしていた。
「…なに?…もう抱き合ってるの?……アナタ達、結局仲良しこよしねぇ………。」
「…………」
「ねえ、アナタ達?……ちょっとキスしてみせてくれない?」
「「え」」
「ああ、構わないで構わないで!私は後でいいから!まずは2人で始めてよ。え?嫌なの?え?アナタ達…私の命令を断れる立場?キスしないとこれの匂い、クラスの男子達に嗅がせるからね?」と言って冷蔵庫の奥からプラスチックの試験管2本を取り出して見せた。
「これ、アナタ達の秘密の検にんショーね。クラスの女子全員分のを少しずつもらっておいたの。保健委員の私だからこそ集められたコレクしょんよ。」
東条寺 呉亜と木田 可里朱は見つめ合い、
小さい方の少女が「可里朱、アナタ本当に女の子なの?信じていい?」と囁くのを聞いた。
「……信じて。…帰ったらミーナンバーカード、裏の12桁のスウジも、ぜーんぶ見せてあげるから……」
「わかった。可里朱ちゃん、信じるわよ……私達は女同士……例えキスしても恋愛的な意味でファーストキッスではないわ。…だからノーカンよ…」
「なにをコソコソと喋っているの?」と、闇の保健体育委員、小荒井 結花理が、手に持った試験管のキャップを一つ外して鼻に近付けながら言う。「早くしなさい。」
2人の少女は怯えながらお互いの肩に手を回し……、
…う、う、う、………む、むり………。
………やはり、唇を合わせることが出来なかった。
「……ふふふ。」と結花理が口に手をあてて笑い、「アナタ達、奥手なのね…カワイイ♡」と言う。
「じゃ、今から3人でお見せ屋さんごっこしましょ。……え~と、可里朱ちゃんはレズ係の人ね(訛り)。そして呉亜ちゃん…だっけ?アナタはsucker(良き発音)ね。レジ台で荷物を詰める人ね。可里朱ちゃんはいわゆる男役だから、呉亜ちゃんがsuckする……と。アハハ。で、私はお客さん役。お客様は神様だから。私の言うことは何でも聞いてね。
はい!始めるよ。位置について!」
呉亜と可里朱はゴクリ……と唾を飲み込み、目を合わせると(今は話を合わせましょう……そしてチャンスを見て脱出しましょう……)と、素早く身振り手振りで合図を送り合うと、黙って配置についた。
「ふ、ふ、ふ。幼稚園の頃以来だよね。お見せ屋さんごっこするのなんて。……あなた達もそうでしょ?」小荒井 結花理はそう言うと、保健室の窓のカーテンを全部閉め、扉の鍵を全部かけたかどうかを何度も確認すると、「女の子は、お見せ屋さんごっことか、着せ替え人形遊びとか、おままんごととか、汁集めとか、大好きだもんね。」と言ってクスクスと肩を揺らして笑う結花理は、
「じゃ、私クレーマーね。……『このお弁当、髪の毛が入ってたんですけどぉ??!』」と急に鬼の形相になって、バン!とレジ台に見立てた机を叩いた。
「え?」と呉亜と可里朱は顔を見合せて、……豹変した保健委員を見つめる。
「食品を扱うのに、お宅のとこの衛生管理、あり得なくないですか??どーしてくれるんですか??!」
「あ、その……、お、お取り替えします……」と可里朱は、結花理のあまりの迫真の演技に気圧されながら小さな声で言った。
「はあ?そういう問題じゃないでしょ?!こっちは危うく、どこの女のものとも知れない不潔な髪の毛を食べるところだったんですよ?」
「で、では……ご返金致します……」と呉亜が怯えながら言う。
「だ、か、ら!!」バン、バン、バン!と机の上に手が打ちつけられる。「そういう問題ですか?」
「へ、弊社のオペレーション上、か、髪の毛が入るはずはありません……」と可里朱が咄嗟に返答した。「えーっと……そう!帽子を被っていますから!」
給食時の配膳を思い出しながら可里朱が説明する。
「はあ?じゃあ、これはなによ?」結花理は、小さなジッパー付きビニール袋に入れた、1本の縮れっ毛をバン!と机に叩きつけた。
「……あ、あり得ない……」と5年生の平均身長より低い東条寺 呉亜が震える声で言った。
「……そ、それは私のではありません……」
「どういうこと?」とクレーム客が苛々とした様子で言う。
小柄な若い女性社員は、背の高い先輩社員に助けを求めるように、彼女のことを見上げた。
背の高い女性の方も「あり得ません。それは、ゼッタイにこの子のものでもないし、私のものとも違います!」と言った。
「どういうこと?」
「つ、つまり、この子は研修中で、その辺りは全く習っていませんし、私もまだ習いたてで、辛うじて確認出来る程度のものでしかありません。……それは私達のものではないのではないのでしょうか?」
先輩の毅然とした態度に、小柄な女性社員の方は尊敬の眼差しで見上げ、心持ち彼女の背中に隠れるように移動した。
「はぁぁぁあ??!」とクレーム客が叫ぶ。
「じゃあ、なに?これは私のものだって言うの??!」
2人のレジ担当は、彼女の良く育った胸と腰回りの丸みを見て、……そうなのでは……。と無言で目で訴える。
その視線に気付きながら結花理は、「こんなことしてても埒があかないわね………じゃ、こうしましょ。いっせーの、せ!で3人で店合いっこしましょ!ウフフ……誰が嘘をついて、誰が本当のことを言ってるか、これで分かるわ……消毒用トレイを用意してあげるから、アナタ達のオペレーション♡もみせてね。なあに、その顔は……?言っときますけどね?5年生にもなって、1年生でも守れるような簡単な社会のモラルも守れないアナタ達に、拒否する権利はないからね?……心配しないで?今は消毒に沁みるヨードチンキは使わないから。……ヨードチンキ……プッ…チンキって………ほら、東条寺さん?アナタも言ってごらんなさい?よ、お、ど、ち、ん、き……」
真っ青な唇をして、呉亜が言葉を繰り返すと、「よく聞こえないわよ?どうしたの?喉にナニか詰まってる?もしかして扁桃腺腫れてない?どれどれ?お口を開けてみなさい?保健委員の私が、のどち●こが腫れてないか見てあげる。プークスクス、いやあ、保健委員ってサイコー!」アハハハハ……とバカ笑いする結花理を見て、
可里朱が首を振って、呉亜に従うよう目で指示を出した。
―――――――――――――――
3つの消毒用の携帯トレイの上に、平たく広がった黄色いアクリノール液が、静かに湖面を湛えている。それぞれの色の濃さは少しずつ微妙に違っていた。ピンセットと一緒に置かれた脱脂綿が、ティッシュの繊維に黄色い液を染み込ませ、所々、白い机の上に飛沫を散らしている。
2人の少女は黙って服の乱れを直し、赤い顔をして上履きを履き直していた。
「お店屋さんごっこ、楽しかったね。」と小荒井 結花理が言い、
「じゃ、後は私、片付けておくから。木田さんは早退するの?東条寺さんはどうする?中休みが終わるけど、久しぶりに3組に寄ってく?」と微笑んだ。
「……いえ、私は1組に帰ります。」
「そ?じゃあ木田さん、また明日ね。今日の授業中のことはホント、気にしなくていいから。なんかクラスで嫌な思いをすることがあったら保健委員たる私に相談してね。あんまし考えたくないけど、念のため3組の男子の身体測定情報などなど、その他色々入手出来る情報は全て持っているから。奴らの弱みは全部把握してるわ。なんなら先生方の情報も持ってるわよ。うちの男性教師はほぼロンリ的な人達だし、女性教師は一生未婚巫女の美白保水狂いばかりだから、何か言われたりしたらユスッてあげるわ。」
保健室の扉を後ろ手で閉め、
ショートヘアのおもしろデコボココンビ、東条寺 呉亜と木田 可里朱は、沈痛な面持ちで薄暗い廊下に出た。
「可里朱ちゃん……」「なあに」「疑ってごめんね。」「え?ああ、そのことはもうどうでもいいわ……」
「…………」「…………」
「……どうする?今日のこと。その……つまり……、小荒井さんのこと……」
「……どうって言ったって……。保健委員に逆らうことは出来ないでしょ………」と可里朱が答えた。
「……そうよね。……誰よ。保健委員にあんなに権限を持たせた奴は………ところで可里朱ちゃん?…さっきから気になってたんだけど……今日授業中ナニかあったの?」と呉亜が言う。
「………大したことじゃないわ…。今日の保健室での出来事に比べれば……」
「そう。」と呉亜は体操着姿の木田 可里朱を見つめながら下駄箱に到着する。
「ねえ、○○○?(前世での名前)」「……もうその名前では呼ばないで。」「あ、ごめん。じゃあ呉亜?」「なあにカリス?」と呉亜は、かつて手下の少女を呼んでいた時のような言い方で彼女を呼び捨てにした。
「……私達……仲直りしない?」と可里朱が視線を斜め下に落としながら言う。
「………いいわよ。」と石ころ色のパーカーの少女が言った。「……ただね、仲直りする代わりにアナタにも協力してほしいの。」と続ける。
「ん、なあに?」と背の高い少女が言った。
「……私の転生スキル、『石ころ化』に勝るとも劣らないアナタの能力、……段シート入れに潜入して落書きしてもバレないその隠密スキル……それを私達の為に役立ててほしいの。」
「な、なんのことを言ってるか、私には分からないわ……」
「誤魔化さないで。」と呉亜がピシャリと言う。「保健室の冷蔵庫の中身、見たでしょ?……あれを回収して証拠も残さず跡形もなく処分するのが、私達の緊急の課題のはずよ。アナタの書いた落書きについてはもう何も言わないわ。あんなの、保健委員の悪行に比べればどうと言うことはないし。」
「ま、まあ、そう…ね……」
「で、泡よくば、彼女がクラスの女子全員から掠め取ったとされるあの検査液セットも盗み出し、保健委員の犯罪を暴露したいわ。」
「ほ、本気で言ってるの??あまりにも危険過ぎない?」と可里朱が言う。
「だからこそ、アタナと私のスキルが役に立つのよ!」と呉亜が強い口調で言った。
「……………でも、私、不安だわ………。実は私、ON蜜行動中、何度か見つかりそうになったことがあるから……」と、徐々にかつて下僕だった時代の表情に戻りながら可里朱が言う。
「ええ。分かるわ。」と呉亜が言った。「私自身、あのお掃除ボーイ小林に『石ころ化』を見破られたし、……なにより可里朱、アナタには瞬時に正体を見抜かれたわ。保健委員に至っては、転生先の私の情報まで握っていたみたいだし。」
「だよね……小荒井に対抗するにはそれなりの覚悟が必要じゃないかしら……」
「それじゃこうしましょう!」と呉亜が明るい声で言う。「アナタと私の『石ころ化』をもっと完璧にする為に、もっともっと練習しましょう!そうね……例えば今後、学校での私達2人は、段シート入れのみを使用することにしましょう!どうしてもうまく入れない時は、我慢するの。次の休み時間には必ず行かなければならないから、これは自分自身を追い詰める練習にもなるしね!まあ、今までの経験からすると、決してそういうことにはならないと思うから心配しないで!」
木田 可里朱は、心臓がドキドキしてくるのを感じ、「……え、それ……ホントにやるの?」とカラカラに乾いた口から、掠れた声で言った。
「ええ。やるわよ。あ、そうだ!ついでに、段シート入れの個室の壁に、小荒井 結花理の真実をサインペンで暴露してやりましょうよ!これは一石二鳥よ!石ころだけに!」と呉亜が言う。「保健委員もそこまでは監視出来ないはず。フ、フ、フ……さあ、可里朱……?今、この瞬間から私達の復讐の始まるわよ!」
「……ところで可里朱ちゃんは何で体操着姿で早引きするの?」
「え………。どうしても私の口から言わせたいのね……」「?」
「わかった!わかった!負けたわ!言えばいいんでしょ言えば!そうよ?お察しの通り私は今日の国語の授業中、5年生にもなって…、みんなの見ている前で、しかも男子にも見られながら、しーちっ禁したわ!」
「えええ???」
「マジで??」と嬉しそうな顔をして呉亜が叫ぶ。
「うっひょ~~~!これでアナタも体臭いしっこう委員ね!」と、踊り出さんばかりに呉亜が、木田 可里朱に抱き付いてきた。
「や、やめてよ……」と背の高い少女がくすぐったそうに身を捩る。
「そうだ!」と呉亜が大声を出した。「私達2人、これから、底辺石っころ少女としてタッグを組みましょうよ!悪の保健委員に立ち向かう、トラウマを抱えた美少女達……。人呼んで『地獄の死刑執行人・クレアトカリス』とは私達のことよ!」
「どこまでアナタは前向きなのよ……。」と可里朱が言った。
実は性格的に『後ろむけ』のカワいい女の子可里朱は、先ほど保健室で見た呉亜の意外なまでの開けっ広げで前むきな性格に、羨ましさを感じていたのだった。
「一粒の石に世界を見、一輪の花に天を見る。手のひらで無限を掴み、一瞬の中に永遠を!底辺石ころ女子を舐めないでよね!」と呉亜が叫び、「そうだ!可里朱ちゃん、私達もっと仲間を増やしましょうよ!4年生の伊丹 多々良ちゃんだっけ?……探せばもっと、いシッコろ仲間がいるはず。」と興奮した様子で続けた。
「学校中のトラウマを抱えた女の子達を集めて、保健委員と戦うのよ!石っころ女子達は皆きっと迫害を怖れ、隠れて孤独に生きているはず。その弱みを保健委員につけ込まれる前に、私達が助け出して仲間にするの!」
「……ア便ジャーズ……」と可里朱がそっと呟いた。
「これはエピソード0だったのね…。」
こうして、あすなろ第2小学校に結成された正義の少女軍団は、学校の平和の為に秘密裏に暗躍することとなった。
ここから始まる、保健委員との世代を越えた100年にわたる戦いについては、また別なお話ということで……。
面白かったですか?
カレイドスコープ先生の巧みなストーリーテリングはいかがでしたでしょうか?
最終話に突然ラスボスが現れる展開に、皆様も驚かれたことかと思います。
次は、短編執筆時から読んでくださっていた方々の為に、ボーナストラックを用意させていただきました。最期までお楽しみください。




