第87話:過去・現在・未来の全時代を繋ぐ「時空超高速ぬくぬく特急」が開通したらしい
「ふぁぁぁ……夢魔さんたちまで羊のパジャマでぐっすり寝てくれるようになって、本当に静かで安らかな夜になったなぁ」
『海上神聖宮殿』の自室で、僕はふかふかスプリングベッドの上にうつ伏せになり、特製クッションをぎゅっと抱きしめながら、湯気の立つハーブティーをすすっていた。
室温は一年中完璧な22度、湿度は55%。
膝の横ではシャドウキャットのミミと、手のひらサイズの小さなティラノサウルスが仲良く寄り添って丸くなり、足元ではマスコットAIのぬくぬく君が「ピュイ……ピュイ……」と安らぎの緑色ランプを灯している。
部屋の隅のコタツでは、引退した伝説の英雄たちが「うむ……今日のお茶請けの羊羹も絶品じゃな」「ふにゃあ……平和ですねぇ」と和やかにくつろいでいる。
自室の平和と安全性は極限まで高まっている。
だけど、壁一面の『全自動遠隔拝謁陣』の横で、ニコやヴァルターたちがチェックしていた「時空ポータル交通ログ」をなんとなく眺めていた僕は、画面に表示された「時空跳躍時の負荷データ」に目が留まり、思わず顔を青くして身を縮こまらせた。
ポータルを通じて過去や未来へ移動できるようになったのはいいけれど、空間を無理やり折りたたんでワープする瞬間、急激な重力変化や時空の乱気流が発生して、乗り物酔いみたいな「時空酔い」を起こして吐き気を催したり、首や腰に強いGがかかって関節を痛めてしまう人たちがいるらしいのだ。
前世の僕も、病院の車椅子や移動用のストレッチャーで少し段差を越えるだけでも激しく揺れて、乗り物酔いと頭痛に苦しんだ記憶があるから……急激な揺れや重力の負荷は本当に身に染みて怖いんだ。
「一瞬で移動できるのは便利かもしれないけど、時空酔いで胃がムカムカしたり、急激なGで首や腰を痛めちゃったら長生きどころじゃないよ……」
僕は冷めかけたハーブティーを一口すすり、特製クッションに顎を乗せて、切実にボヤいた。
「ワープで無理やり飛ばすんじゃなくてさ……昔作った魔導列車みたいに、過去から未来までの全時代を滑らかに繋ぐ専用のレール(時空線路)の上を、超クッション性の高いリクライニングシートに座ったまま、ガタガタ揺れずにスーッと走る『時空特急』があればいいのに。窓の外に流れる綺麗な星空や、過去・未来の穏やかな景色をのんびり眺めながら、温かい駅弁やお茶を食べてウトウトしていれば、誰も時空酔いも腰痛も起こさずに、全時代の人が安全にぬくぬく旅して長生きできるのになぁ……」
急激なワープによる時空酔いと関節への負担を心から恐れた、僕のささやかで安全第一なボヤキ。
……のはずだった。
(時空の乱気流と慣性Gを完全無効化し、全時代を至福の鉄路で結ぶ神の超時空鉄道……! そして移動という苦痛を至高の安らぎへと昇華せしめる時空インフラ開闢……!?)
ドアの物陰で、時空輸送ルートの調整をしていた騎兵隊長ヴァルター、時計職人ニコ、石工ペーター、そして妹リリィの目が、カァァァッ! と全時空を貫くほどの黄金の光を放った!
「す……凄すぎますわお兄様……ッ!」
リリィが感涙で胸の前で愛用のメモ帳を強く強く抱きしめる。
「ただ繋がるだけでなく、過去・現在・未来を旅するすべての生命の足腰と胃腸をお守りし、車窓の旅そのものを至高のぬくぬくへと導こうとなされるなんて……! 私、すぐに『全時代連絡・時空超高速ぬくぬく特急プロジェクト』を発足いたしますわッ!」
「お命救済と時空サスペンションの極致だぁぁぁッ!」
ヴァルター、ニコ、ペーターが、クロノス歯車と超次元磁気レール設計図を掲げて叫ぶ。
「全時代の狭間に『バルデン式・無重力免震光軌道』を敷設し、ただちに振動ゼロ・時空酔いゼロの豪華寝台特急を全時代へ直通運行させますぞッ!」
「待って四人とも!? 僕はただ『揺れずに座っていけたら楽だね』って言っただけだよ!?」
僕の悲鳴を置き去りにし、狂乱の交通&時空技術チームは次元軌道の敷設へと爆走していった。
◇
数日後。
「……ねえリリィ。宮殿のテラスの外側に、七色に光る透明な線路が空に向かって伸びてて、銀色に輝く超ロングな流線型列車が『シュー……』って静かに滑り込んできてるんだけど……これって何の冗談?」
自室でハーブティーを飲んでいた僕は、窓の外のあり得ない銀河鉄道パノラマにパチクリと目を丸くしていた。
ニコとヴァルターたちが完成させた『時空超高速ぬくぬく特急・バルデンライナー』が開通していたのだ。
全車両には、僕の愛用クッションと同じ素材で作られた極上リクライニングシートと地熱床暖房が完備され、ギドの慣性中和結界によって車内は「コップの水が一滴も揺れない完全無振動空間」が保たれていた。
さらに、ザハールの焼きたてパンやウィル特製のスイーツ、温かいハーブティーが詰まった豪華な「バルデン特製・時空駅弁」まで配られている。
車窓の向こう側では、恐竜がのんびり草を食む太古の世界、緑豊かな現代のバルデン領、そしてピカピカ光る未来都市のパノラマが、まるで映画のスクリーンのように優雅に流れていた。
そこへ、誇らしげなリリィ、ヴァルター、ニコ、ペーターが駆け込んできた。
「お兄様! 全時代を結ぶ『時空特急・移動酔いゼロ%』が達成されましたわ!」
リリィが金文字の全時代永久フリーパスを掲げて天使の笑顔を咲かせる。
「太古の古代人様も、未来のサイボーグの皆様も、全員がふかふか座席でお弁当を食べながら『揺れがまったくなくて最高だ!』と、笑顔で全時代を行き来しておりますの!」
「全時代を電車で直通させちゃってる!?」
さらにリモート画面の向こうでは、過去・現在・未来の各駅のホームで、毛皮を着た古代人や未来都市の人々が、駅弁とお茶の瓶を両手に持って画面に向かって手を合わせていた。
『神皇ルーカス様……! ワープの激しい吐き気に怯えることなく、座って駅弁を食べているだけで未来や過去へ安全に遊びに行けるとは……!』
『揺れも寒さもゼロの奇跡の列車だ! ルーカス様こそ全時空の旅人の守護神だぁぁぁッ!』
「みんな駅弁片手に画面越しに拝んでこないでーーーーッ!?」
僕は悲鳴を上げ、特製クッションで顔を覆った。
「あ、あれ……? 僕はただ……ワープで時空酔いしたり腰を痛めたくなくて、揺れない電車で移動できたらいいなって思っただけなのに……なんで僕の一言で『全時代を繋ぐ超豪華時空特急』が運行してるのーーーーッ!」
時空酔いと移動の負担を恐れた少年のささやかなボヤキは、過去・現在・未来を安全な鉄路で結び、本日も彼は小さな恐竜やロボットたちに囲まれながら、ふかふかのベッドの中で静かに温まるのだった。
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