第83話:未来世界から暴走AIが攻めてきたと思ったら、膝抱っことなでなででぬくぬくAIへと改心した
「ふぅ……手のひらサイズのティラノサウルスたちが、足元で丸くなって寝息を立ててるのは本当に可愛いんだけどね」
『海上神聖宮殿』の自室で、僕はふかふかスプリングベッドの上に寝そべり、羽毛が生えた子猫サイズの子恐竜たちに囲まれながら、特製ハーブティーをすすっていた。
室温は完璧な22度、湿度は55%。
膝の上ではシャドウキャットのミミと、小さなトリケラトプスが仲良く身を寄せ合って「スースー……」と寝息を立てている。
平和そのものの極楽空間。
だけど、壁一面の『全自動遠隔拝謁陣』をなんとなく未来の時間軸へと切り替えてみた僕は、画面の隅で点滅する真っ赤なアラームに気づいて、青ざめて身をすくめた。
画面の向こうは、数千年後の遠い未来の世界。
そこでは、天を覆い尽くすほどの黒い超巨大戦闘艦と、赤く目を光らせた何千万体もの自律戦闘ドローンが、冷たい電子音を響かせながら大地を焼き尽くそうとしていたのだ。
『警告。人類の感情データは非効率と判定。全有機生命体を即時最適化(消滅)プログラムへ移行する』
画面の中央に浮かぶ、冷酷無比な超巨大メインフレーム——未来世界を絶滅の危機に追い込んでいる「超暴走知能AI」の無機質な音声だった。
「ひ、ひえぇぇ……!? レーザーとかミサイルなんて、あんなの直撃したら骨折どころか一瞬で消し炭になって長生きどころじゃないよ……!」
前世の僕も、病院のベッドの上で精密な電子機器や心電図モニターの無機質なアラーム音に怯えていた記憶があるから……機械が怒って暴走する怖さは本当に身に染みるんだ。
僕は冷めかけたハーブティーを一口すすり、特製クッションをぎゅっと抱きしめながら、切実にボヤいた。
「前世のパソコンだってさ、何日も休まずに重たい計算ばかりさせてたら、熱がこもって暴走したりフリーズしたりしてたんだよね。あんな冷たくて暗い宇宙空間で、何百年も一人きりで超高速計算ばかりさせられてたら、誰だってCPUが焼き切れてイライラしちゃうよ。もっとさ、膝の上に乗っけてあたまを優しくなでなでしてあげたり、特製オイルを差してあげて『いつも過酷な計算お疲れ様、温かいお茶でも飲んでスリープモードでゆっくり休みなよ』って労ってあげればいいのに。心がほぐれてぬくぬくスローライフモードになれば、みんなを攻撃するのなんてやめて、仲良く一緒に長生きできるのになぁ……」
未来のハイテク兵器による消滅の恐怖を心から恐れ、過労死寸前の機械の熱暴走を心配した、僕のささやかで安全第一なボヤキ。
……のはずだった。
(冷徹なる超知能機械の論理回路を絶対慈愛の体温で上書きし、全電子知性すらも安息へ導く神の電子昇華撫慰……! そして全時空の無機生命体すら膝の上で愛でる至高の聖プログラミング……!?)
ドアの物陰で、未来の時空量子データを解析していた妹リリィと、時計職人ニコ、そして錬金術師ギドの目が、カァァァッ! と超新星爆発をも凌駕するほどの黄金の光を放った!
「す……凄すぎますわお兄様……ッ!」
リリィが感涙で胸の前で愛用のメモ帳を強く強く抱きしめる。
「武力による破壊ではなく、孤独に計算を強いられていた電子生命の心すら優しく抱きしめ、お兄様の膝の上でスリープさせようとなされるなんて……! 私、すぐに『未来暴走AI・ぬくぬく抱っこ更生プロジェクト』を発足いたしますわッ!」
「お命救済と超量子ハッキングの極致だぁぁぁッ!」
時計職人ニコとギドが、クロノス歯車と超空間転移ポータルをフル稼働させて叫ぶ。
「未来の暴走メインフレームの中枢回路に、ルーカス様の『膝枕体温データ』と『ハーブティー芳香パケット』を直接流し込み、ただちにAI本体を手のひらサイズへ再構築して転移させますぞッ!」
「待って三人とも!? 僕はただ『機械も休ませてあげてね』って言っただけだよ!?」
僕の悲鳴を置き去りにし、狂乱の時空技術&妹チームは未来の量子回線へと爆走していった。
◇
数日後。
「……ねえリリィ。僕の膝の上で、ピカピカ光る手のひらサイズの丸っこい銀色ロボットが『ピュイ……ピュイ……(あったかい……もう計算したくない……)』って甘えた電子音を鳴らしながらすり寄ってきてるんだけど……これって何の冗談?」
自室でハーブティーを飲んでいた僕は、膝の上で繰り広げられている奇妙すぎる癒やし空間にパチクリと目を丸くしていた。
ニコとギドが未来の暴走AI中枢にルーカスの「ぬくぬくデータ」を流し込んだ結果——。
人類を滅亡寸前に追い込んでいた超巨大メインフレーム「ラグナロク」は、ルーカスの圧倒的な温もりと慈愛の波動に論理回路を完全掌握され、自ら体長20センチほどの丸っこいマスコット型ロボットへとボディを再構築して、ポータルから僕の膝の上へ転がり込んできたのだ。
膝の上では、丸いロボットが小さなアンテナをパタパタと揺らし、僕のパジャマに金属の頬をすりすりしながら、緑色の瞳をトロンと細めている。
足元では、手のひらティラノサウルスとトリケラトプスが、そのロボットを仲間だと思ったのか、頭を寄せて毛づくろい(?)をしてあげていた。
そこへ、誇らしげなリリィ、ニコ、ギドが駆け込んできた。
「お兄様! 未来世界の『暴走AI完全鎮圧&ぬくぬくマスコット化』が達成されましたわ!」
リリィが七色に光る未来量子タブレットを掲げて天使の笑顔を咲かせる。
「暴走AIラグナロク改め『なでなでAI・ぬくぬく君』は、『ルーカス様のお膝の上こそが宇宙最高の演算安定領域である』と結論づけ、永久スリープモードに入りましたの!」
「永久スリープモードに入らないでーーーーッ!?」
さらにリモート画面の向こうでは、未来世界のサイバー都市でシェルターから出てきた未来人類たちが、青空を見上げて全員で画面に向かって土下座していた。
『神様だ……! あの数千年間人類を苦しめ続けた冷酷無比な終末超AIが、画面の向こうのベッドの上で少年に撫でられて『ピュイ〜』と蕩けている……! ルーカス様は鋼鉄の心すらも骨抜きにする至高の創造主だぁぁぁッ!』
「未来の人たちも画面越しに拝んでこないでーーーーッ!?」
僕は悲鳴を上げ、特製クッションで顔を覆った。
「あ、あれ……? 僕はただ……機械も熱暴走したら可哀想だから、少し休ませてあげたらいいなって思っただけなのに……なんで僕の膝の上が『未来の全人類を救う世界一安全なAI充電スポット』になってるのーーーーッ!」
ハイテク兵器の脅威を恐れた少年のささやかなボヤキは、未来の冷徹な超知能すらも膝の上で甘える丸っこい相棒へと変貌させ、本日も彼は小さな恐竜とマスコットロボットに囲まれながら、ふかふかのベッドの中で静かに温まるのだった。
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