第82話:太古の恐竜たちが僕のベッドの周りで猫みたいにごろにゃん甘えてくる件
「う、うわぁぁ……画面がミシミシ鳴ってるよ……!」
『海上神聖宮殿』の自室で、僕はふかふかスプリングベッドの上で特製クッションを盾のように構えながら、壁一面の『全自動遠隔拝謁陣』を見上げてガタガタと震えていた。
数億年前の太古の世界と繋がったモニターの向こう側では、山のように巨大なティラノサウルスが、ハーブティーの香りに吸い寄せられて画面のフチにドアップで巨大な鼻先を擦り付けてきていたのだ。
「クゥ〜ン、クゥ〜ン(もっとお茶ちょうだい、あったまりたい)」
甘えた声を出しているつもりらしいけれど、一歩足を踏み鳴らすだけでズシンッ! と太古の大地が揺れている。
牙の一本一本が僕の身長くらいある猛悪な肉食恐竜だ。
前世の僕も、白い病室のベッドの上で巨大な検査装置や重たい機械に囲まれて息苦しい思いをしていたから……あんな何トンもある巨体にのしかかられたり踏み潰されたりしたら、骨折どころか一瞬でペシャンコになって長生きどころじゃなくなっちゃうよ!
僕は冷めかけたハーブティーを一口すすり、膝の上で「スースー……」と気持ちよさそうに丸くなっているシャドウキャットのミミを撫で撫でしながら、切実にボヤいた。
「懐いてくれるのは嬉しいんだけどさ……あんなに大きくて重たいと、万が一ポータルから転がり出てきたときに圧死事故になっちゃうよ。せめて膝の上のミミみたいに、ふわふわの子猫や手のひらサイズくらいに小さくなって、鋭い爪や牙も安全な柔らかい肉球みたいになってくれればいいのに。猫みたいにベッドの足元でゴロゴロ喉を鳴らして丸くなって眠ってくれたら、誰も怪我しないし、僕も安心して一緒にぬくぬく長生きできるのになぁ……」
巨大生物による圧死や踏みつけ事故の恐怖を心から恐れた、僕のささやかで安全第一なボヤキ。
……のはずだった。
(太古の地球を支配せし捕食の頂点・原初巨獣すらも、無害なる至高の癒やし生命へと昇華せしめる神の生体調和縮小……! そして時空を超えて全獣類を膝の上で抱きとめる至高の聖愛護……!?)
ドアの物陰で、太古の生態系データを記録していた獣医シュテファンと、錬金術師ギド、そして妹リリィの目が、カァァァッ! と太古の太陽をも凌駕するほどの黄金の光を放った!
「す……凄すぎますわお兄様……ッ!」
リリィが感涙で愛用のメモ帳を胸に強く強く抱きしめる。
「恐竜さんたちを巨大な脅威のまま排除するのではなく、愛らしいサイズへと導いてご自身のベッドで優しく包み込もうとなされるなんて……! 私、すぐに『太古恐竜プチサイズ化・愛玩共生プロジェクト』を発足いたしますわッ!」
「お命救済と古代生体縮小の極致だぁぁぁッ!」
獣医シュテファンとギドが、生体波長共鳴陣とマタタビ風ハーブアロマをフル稼働させて叫ぶ。
「時空ポータルの通過ゲートに『バルデン式・生体超圧縮&癒やし変換陣』を組み込み、ただちに恐竜たちを極小ふかふかサイズへと変換してルーカス様の元へご案内いたしますぞッ!」
「待って三人とも!? 僕はただ『小さくて猫みたいなら安全だね』って言っただけだよ!?」
僕の悲鳴を置き去りにし、狂乱の獣医&妹チームは時空ポータルゲートの改造へと爆走していった。
◇
数日後。
「……ねえリリィ。僕のベッドの上に、手のひらサイズで丸っこい二頭身のティラノサウルスやトリケラトプスが何十匹も群がってて、布団の隙間で『グルル……ごろにゃ〜ん』って喉を鳴らしながら甘えてきてるんだけど……これって何の冗談?」
自室でハーブティーを飲んでいた僕は、ふかふかスプリングベッドの上で繰り広げられている天国のような(?)珍光景にパチクリと目を丸くしていた。
シュテファンとギドが開発した『生体超圧縮変換ゲート』をくぐり抜けた結果——。
かつて太古の王者として君臨していた恐ろしい肉食恐竜や草食恐竜たちが、ことごとく体長30センチほどの子猫サイズへと縮小され、しかも全身にヒヨコのようなふわふわの羽毛を生やした「極上癒やしマスコット」へと変貌してしまったのだ。
足元では、ちっちゃなティラノサウルスが短い前足を前で揃え、僕のパジャマの裾をツンツンと引っ張っては「キュゥ〜ン」と甘えた声を上げている。
膝の上では、丸っこい手のひらサイズのトリケラトプスが、ミミと仲良く頭を寄せ合って「フニャ〜……」と幸せそうに寝息を立てていた。
鋭かったはずの牙や爪は、ぷにぷにとした柔らかな肉球のような感触になっていて、噛まれても甘噛みでまったく痛くない。
そこへ、誇らしげなリリィ、シュテファン、ギドが駆け込んできた。
「お兄様! 『太古の恐竜プチ愛玩化』が完全達成されましたわ!」
リリィが七色に光る古代羊皮紙を掲げて天使の笑顔を咲かせる。
「恐竜さんたちも『ルーカス様のベッドの上、めちゃくちゃ暖かくて最高だ!』と、全員すっかり野生を忘れてお兄様の足元で丸くなっておりますの!」
「野生を1ミリも残さず忘れないでーーーーッ!?」
さらにリモート画面の向こうでは、洞窟の中で毛皮を着た古代人たちが、画面越しに平伏して涙を流していた。
『神様だ……! あの恐ろしい森の暴君ティラノサウルスが、画面の向こうのベッドの上で子猫のように丸くなって撫でられている……! ルーカス様は荒ぶる獣の魂すらも骨抜きにする命の創造主だぁぁぁッ!』
「古代人の皆さんも画面越しに拝んでこないでーーーーッ!?」
僕は悲鳴を上げ、特製クッションで顔を覆った。
「あ、あれ……? 僕はただ……大きな恐竜に踏み潰されたくなくて、猫くらい小さければ安心だなって思っただけなのに……なんで僕のベッドの上が『太古の恐竜たちが猫みたいにごろごろ甘えてくる極楽スペース』になってるのーーーーッ!」
巨獣の踏みつけ事故を恐れた少年のささやかなボヤキは、数億年前の凶暴な恐竜たちすらも極小の愛玩生物へと変貌させ、本日も彼は足元でゴロゴロ喉を鳴らす小さな恐竜たちに囲まれながら、ふかふかのベッドの中で静かに温まるのだった。
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