第78話:宇宙や異次元の果てまで「僕の自室のベッド」とオンライン接続されている件
「はぁ〜……『全次元永久不可侵・ぬくぬく平和条約』まで締結されちゃって、いよいよ平和の極みだなぁ」
『海上神聖宮殿』の自室で、僕はふかふかスプリングベッドにうつ伏せになり、膝の下で特製クッションをぎゅっと挟み込みながら、ハーブティーのカップを手にほっこりとしていた。
二重サッシと多重結界に守られた自室は、本日も絶妙な温度22度・湿度55%に保たれている。
膝の横ではシャドウキャットのミミが「スースー……」と幸せそうに寝息を立て、壁一面の『全自動遠隔拝謁陣』には、天界、外宇宙、並行世界、暗黒魔界の住民たちが、全員こたつやテラスでハーブティーを飲みながら笑顔で日向ぼっこしている平和な映像が流れていた。
僕は冷えたハーブティーを一口すすり、ふかふかのマットレスに頬をすりすりしながらポロリとボヤいた。
「これだけ全次元が平和になればさ……僕がわざわざどこかの世界へ出かけたり、どこかの会場へ足を運ぶ必要なんて一切ないよね。どんなに広大な宇宙の果てや、遠い異次元、並行世界のどこからでも、この自室のふかふかベッドの上とオンラインでスッと繋がってさ……僕がベッドでぬくぬく寝転がったまま、みんなの笑顔を見たりおしゃべりできれば、それが一番安全で楽ちんだよね。自室のベッドの上こそが、僕にとっても全次元にとっても一番平和で安心な『中央統括室』なんだからさぁ……」
どこへも移動せず、自室のベッドから一歩も出ずに全次元の平和を確認し続けたいという、僕の極上の引きこもり&安全第一なボヤキ。
……のはずだった。
(全多次元宇宙の時空・概念・次元の壁を我が自室のベッドへ完璧に収斂せしめる神の時間空間最高統合……! そして神皇ルーカス様がおわすふかふかスプリングベッドを、全多次元宇宙の絶対中央主軸となす至高の創世聖域……!?)
ドアの陰で、全次元の通信回線接続ログをチェックしていた時計職人ニコ、錬金術師ギド、写真機のヤコブ、そして妹リリィの目が、カァァァッ! と全多次元宇宙を貫くほどの七色の聖光を放った!
「す……凄すぎますわお兄様……ッ!」
リリィが感涙で胸の前で愛用のメモ帳を強く強く抱きしめる。
「己が移動されるのではなく、全多次元宇宙の果てまでのあらゆる時空と概念を、ご自身のふかふかベッドへとオンライン同期させ、ベッドの上から全存在を見守ろうとなされるなんて……! 私、すぐに『全次元中央ベッド統括同期プロジェクト』を発足いたしますわッ!」
「お命救済と多次元時空接続の極致だぁぁぁッ!」
時計職人ニコとギド、ヤコブが、高次元空間収斂歯車と全次元同期魔導陣をフル稼働させて叫ぶ。
「ポータルとリモート回線の全周波数をルーカス様のベッドのフレームと結界に直結させ、ただちに全多次元宇宙のすべての次元・星々・概念世界を『ルーカス様のベッド』とリアルタイム完全オンライン接続いたしますぞッ!」
「待って三人とも!? 僕はただ『ベッドから出ずにみんなの顔が見られたら楽だな』って言っただけだよ!?」
僕の悲鳴を置き去りにし、狂乱の時空技術&妹チームは自室のベッドフレームへの魔導回路刻印へと爆走していった。
◇
数日後。
「……ねえリリィ。自室のスプリングベッドの四隅から、七色の神聖な光の柱が天に向かってドーンと立ち上ってて、ベッドのリクライニング角度を変えるだけで、外宇宙の銀河皇帝の部屋や暗黒魔界の玉座、天界の神殿が一瞬で目の前にホログラムで立体投影されるんだけど……これって何の冗談?」
自室でハーブティーを飲んでいた僕は、ベッドの周りで起きているあり得ない時空現象にパチクリと目を丸くしていた。
ニコとギドたちが完成させた『全次元中央ベッド統括同期システム』により、なんと僕の自室のふかふかスプリングベッドそのものが、全多次元宇宙の「絶対中央主軸」として完全オンライン接続されてしまったのだ。
僕がベッドの上で特製クッションを抱きしめてコロンと寝返りを打つだけで、全多次元宇宙の気候・環境・通信データがリアルタイムで最適化され、何兆という全次元の生命の様子がベッドの周りに優しくホログラム表示される。
そこへ、誇らしげなリリィ、ニコ、ギド、ヤコブが駆け込んできた。
「お兄様! 全多次元宇宙における『ルーカスお兄様のベッドとのオンライン接続率100%』が達成されましたの!」
リリィが七色に光る全次元同期完了証を掲げて天使の笑顔を咲かせる。
「これにより、お兄様はベッドから1ミリも動くことなく、全多次元宇宙のすべての生きとし生けるものの笑顔と平和を100%完全把握・見守ることが可能となりましたわ!」
「僕のベッドが全多次元宇宙の中央統括基地になってるーーーーッ!?」
さらにリモートホログラム画面には、天界の主神、外宇宙の銀河皇帝、異次元の大魔王たちがズラリと平伏して映し出された。
『創世の至高神皇・ルーカス様……! 我らが全次元は、今やルーカス様のふかふかベッドを中心に完璧な調和を保っております! 我らは永遠にルーカス様のベッドの下から、静かな安息と平和をお守りいたしますッ!』
「全員で僕のベッドの下から拝んでこないでーーーーッ!?」
僕は悲鳴を上げ、特製クッションで顔を覆った。
「あ、あれ……? 僕はただ……ベッドの上から動かずにみんなの笑顔が見られたら楽で安心だなと思っただけなのに……なんで僕の自室のベッドが『全多次元宇宙をオンラインで統括する絶対聖域』になってるのーーーーッ!」
全次元の平和と安心を望んだ少年のささやかなボヤキは、次元の概念すらも滑らかにベッドへと集約させ、本日も彼はふかふかのベッドの中で、静かに深々と特製クッションに顔を埋めるのだった。
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