第76話:天界・外宇宙・並行世界のすべてが「ルーカス様のようにぬくぬく暮らそう」と全次元スローライフ時代に突入した
「はぁ〜……恐ろしい悪意や怨念まで消えちゃって、モニターのニュースも完全に平和そのものだなぁ」
『海上神聖宮殿』の自室で、僕はふかふかスプリングベッドの上で足をパタパタさせながら、特製クッションをぎゅっと抱きしめてリモートモニターを眺めていた。
ポータルや通信回線を通じて映し出される画面の中では、天界の神々も、外宇宙の異星人さんも、並行世界の魔王さんたちも、全員が柔らかな顔でお茶を飲んだり日向ぼっこをしている。
だけど、モニターの隅に映る「全次元労働&修行環境のグラフ」をなんとなく眺めていた僕は、かつて彼らが不眠不休で過酷な修行をしたり、領土拡大や売り上げのために身を削って働いていたというデータを見て、溜息をついてボヤいた。
「昔はどの次元でも、無理な競争や身を削るような生き方が当たり前だったんだねぇ……。でもさ、いくら売り上げを伸ばしたり強い力を手に入れたって、過労で倒れたりストレスで寿命を縮めちゃったら元も子もないよね。天界の人も外宇宙の人も、全次元のみんなが無理な競争をやめて、自分の体を一番に大切にしながら、温かいお部屋で美味しいものを食べて健やかに笑顔でぬくぬく長生き(スローライフ)してくれれば、僕だって安心してぬくぬく暮らせるのになぁ……」
全次元における過労や過酷な身の削り合いを心配した、僕のささやかで健康第一なボヤキ。
……のはずだった。
(己の身体と精神を削る不毛な労働・修行を全多次元宇宙から永久に追放し、全存在が至福の安息を享受する創世の大解放……! そして神皇ルーカス様の尊き生き方こそが全多次元宇宙における唯一絶対の真理……!?)
ドアの陰で、本日分の全次元ヘルスケアデータをまとめていた妹リリィと、医師ガブリエル、そして大商人シルヴィアの目が、カァァァッ! と全次元の暗雲を灼き尽くすかのような神々しい光を放った!
「す……凄すぎますわお兄様……ッ!」
リリィが感涙で胸の前で愛用のメモ帳を強く抱きしめる。
「一部の国家や世界だけでなく、天界・外宇宙・並行世界のすべてに『ぬくぬく長生きする至高の生き方』を提唱され、全存在の生活様式そのものを塗り替えられるなんて……! 私、すぐに『全次元共通・スローライフ大憲章』を発令いたしますわッ!」
「お命救済と全次元ヘルスケアの頂点だぁぁぁッ!」
医師ガブリエルとシルヴィアが、七色に輝く羊皮紙を掲げて叫ぶ。
「ポータル回線を通じて、全次元の全企業・全神殿・全国家へ『過労・過酷修行・ストレス完全ゼロ』を命じるバルデン式労働・生活ガイドラインを一斉送信いたしますぞッ!」
「待って三人とも!? 僕はただ『みんな無理せず長生きしてね』って言っただけだよ!?」
僕の悲鳴を置き去りにし、狂乱の妹&医療&商業チームは全次元通信ネットワークへと爆走していった。
◇
数日後。
「……ねえリリィ。自室のリモート画面に映ってる天界、外宇宙、並行世界のすべての街で、神様も魔王も宇宙人も全員が、日中からポカポカのテラスでこたつやクッションに包まってハーブティー飲んでるんだけど……これって何の冗談?」
自室でハーブティーを飲んでいた僕は、モニター一面に広がるあり得ない光景にパチクリと目を丸くしていた。
リリィたちが全次元に送信した『全次元共通・スローライフ大憲章』により、天界、外宇宙、並行世界のすべての次元で歴史的な生活革新が巻き起こっていたのだ。
天界の神々も「そうだ……無理に威厳を保って過酷な神事を続けるなど身を削るだけだった! ルーカス様のようにぬくぬく過ごすことこそ至高の善なのだ!」と悟り、神殿の過酷な修行を即座に全廃。
外宇宙の巨大企業や異世界の魔王城でも「過酷な残業や侵略ノルマを即座に禁止し、毎日定時で帰ってお茶を飲み、しっかり眠ろう!」と、全多次元宇宙の生命が一斉にストレスフリーなぬくぬくスローライフへとシフトしていたのだ。
その結果、全次元で「過労ゼロ」「ストレス性疾患ゼロ」「ブラック労働ゼロ」という、奇跡的な大平和時代が爆誕生していた。
そこへ、誇らしげなリリィ、ガブリエル、シルヴィアが駆け込んできた。
「お兄様! 全多次元宇宙において『全次元スローライフ普及率100%』が完全達成されましたわ!」
リリィが七色に光る表彰状を掲げて天使の笑顔を咲かせる。
「全次元の生命が『神皇ルーカス様のおかげで、毎日ストレスゼロで楽しく長生きできる!』と、大感謝の笑顔で過ごしておりますの!」
「全次元でスローライフ普及率が100%になってる!?」
さらにリモート画面には、完全に毒気が抜けてこたつやクッションでゴロゴロしている天界の主神や宇宙皇帝、異次元の魔王たちがズラリと映し出された。
『創世の神皇・ルーカス様……! 我らは悟りました……無理な争いや過労を捨て、ルーカス様のようにぬくぬく過ごすことこそが全宇宙の真理なのだと……! 本日より我ら全次元の住民は、ルーカス様を模範として永遠にぬくぬく過ごすことを誓いますッ!』
「全次元で僕の真似してゴロゴロしないでーーーーッ!?」
僕は悲鳴を上げ、特製クッションで顔を覆った。
「あ、あれ……? 僕はただ……遠くの世界の人たちも無理せず健康に長生きしてほしいなって思っただけなのに……なんで僕の作った思想が『全多次元宇宙が実践する全次元スローライフ時代』になってるのーーーーッ!」
全次元の健康と平和を願った少年のささやかなボヤキは、全宇宙の生活様式すらも「ぬくぬく長生き」へと塗り替え、物語はさらに誰も予測できない超スケールの展開へと進んでいくのだった。
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