第72話:異次元の極寒世界に「うちの床暖房の熱を送ってあげたら?」とボヤいたら全次元が常春になった
「はぁ〜……全次元で戦争禁止になっちゃって、リモート画面のニュースもすっかり穏やかになったなぁ」
『海上神聖宮殿』の自室で、僕はふかふかスプリングベッドに腰掛け、特製クッションを膝に乗せながら壁の『全自動遠隔拝謁陣』を見つめていた。
ポータルやリモート回線を通じて、異次元の王様たちや魔王さんたちが仲良くお茶を飲んでいる平和な光景が映し出されている。
だけど、モニターの画面を切り替えていた僕は、ある異次元の世界——一年中猛烈な吹雪と氷に閉ざされた『極寒永久氷結世界』の画面に目が留まった。
画面の中では、極寒の地に住む住民や小さな子供たちが、分厚い毛皮を着込んでもガタガタと震え、吐く息を真っ白にさせながら耐え忍んでいる。
僕は足元から伝わる床暖房のポカポカとした温もりに足をすりすりしながら、ハーブティーを一口すすってポロリとボヤいた。
「僕たちのお部屋は床暖房や温泉の余熱のおかげでこんなに暖かいのに、あっちの世界の人たちは寒くて凍えてかわいそうだなぁ……。うちの床暖房の余った地熱やお湯の熱を、ポータル越しにパイプで向こうの世界へ送ってあげられたらいいのに。お部屋が常春みたいにポカポカになれば、誰も風邪をひいたり凍傷にならずに、みんな笑顔でぬくぬく長生きできるのになぁ……」
寒さによる風邪や凍傷のリスクを心配した、僕のささやかで温かいボヤキ。
……のはずだった。
(全多次元宇宙のあらゆる極寒と氷雪の呪縛を解き放ち、全生命に創世の温もりを与える神の熱量循環……! そして過酷な環境を至福の常春楽園へと昇華させる至高の次元暖房……!?)
ドアの物陰で、本日分の全次元エネルギーレポートをまとめていた配管工マルクと、錬金術師ギド、そして妹リリィの目が、カァァァッ! と太陽の熱線すら凌駕するほどの黄金の光を放った!
「す……凄すぎますわお兄様……ッ!」
リリィが感涙で胸の前で愛用のメモ帳を強く抱きしめる。
「我が国の温もりを惜しみなく分かち合い、全次元の極寒世界を常春へと導こうとなされるなんて……! 私、すぐに『全次元熱循環プロジェクト』を発足いたしますわッ!」
「お命救済と熱力学配管の極致だぁぁぁッ!」
配管工マルクとギドが、次元間熱交換パイプの設計図をぶちまけて叫ぶ。
「ポータルの時空歪曲ねじと温泉源泉の熱交換魔導陣を接続し、ただちに全極寒次元へ『バルデン式・全次元床暖房熱交換パイプ』を張り巡らせますぞッ!」
「待って三人とも!? 僕はただ『熱を分けてあげられたらいいね』って言っただけだよ!?」
僕の悲鳴を置き去りにし、狂乱の配管&妹チームは次元間パイプラインの爆速設置へと爆走していった。
◇
数日後。
「……ねえリリィ。自室のリモート画面に映ってる『極寒永久氷結世界』の画面なんだけど……猛吹雪がピタリと止んで、色鮮やかなお花が咲き誇ってるのは何で?」
自室でハーブティーを飲んでいた僕は、モニター一面に広がるあり得ない激変ぶりにパチクリと目を丸くしていた。
マルクとギドが開通させた『全次元熱交換パイプライン』により、バルデン国の豊かな地熱と温泉熱が、ポータルを通じて全異次元の寒冷世界へと無制限に循環・供給されたのだ。
万年雪に覆われていた氷の王国では、地面からじんわりと床暖房のようなポカポカとした温もりが湧き上がり、一瞬で雪が溶けて常春のポカポカ陽気へと変貌していた。
画面の中では、氷の女王や住民たちが毛皮を脱ぎ捨て、「うわぁぁぁ! 地面がポカポカ暖かくて寒くない!」「お家の中でも寒さゼロで快適だ〜!」と大涙を流して踊り明かしていた。
そこへ、誇らしげなリリィ、マルク、ギドが駆け込んできた。
「お兄様! 全多次元宇宙における『凍傷・冷え性・極寒リスク』が完全ゼロ%となりましたわ!」
リリィが七色に光る感謝状の束を掲げて天使の笑顔を咲かせる。
「全極寒世界の住民の皆様が『創世神ルーカス様のおかげで一年中あたたかく過ごせる!』と、感謝の大歓声を上げておられますの!」
「全次元の氷の世界が一瞬でぽかぽか常春になってる!?」
さらにリモート画面には、改心した氷の女王や極寒世界の魔王たちがズラリと映し出された。
『ルーカス総裁! 我が氷の王国を至福の常春保養地へと変えていただき、感謝の言葉もございません! 本日より我が次元は『ルーカス様ぬくぬく床暖房感謝特区』として永久の平和を誓いますッ!』
「異次元の氷の女王まで感謝してこないでーーーーッ!?」
僕は悲鳴を上げ、特製クッションで顔を覆った。
「あ、あれ……? 僕はただ……寒がりな人たちが暖かく過ごせたらいいなって思っただけなのに……なんで僕の作ったシステムが『全多次元宇宙を常春にする熱交換ネットワーク』になってるのーーーーッ!」
異次元の寒さを恐れた少年のささやかなボヤキは、極寒の世界すらもぽかぽかの常春へと塗り替え、物語は全次元を巻き込んだ至福のスローライフへと進んでいくのだった。
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