第65話:星空の向こうの宇宙人や異次元の魔王たちがリモート画面に現れて大騒ぎしている件
「はぁ〜……地球上のみんなが『ぬくぬくスローライフ』を始めてくれて、本当に平和になったなぁ」
『海上神聖宮殿』の自室で、僕はふかふかスプリングベッドの上に転がり、特製クッションを抱きしめながら膝の上のミミ(シャドウキャット)をなでなでしていた。
壁一面の『全自動遠隔拝謁陣』には、地球上のあらゆる都市で人々がラジオ体操をしたり、全天候型アーケードで焼きたてパンを食べながら談笑している平和な姿が映し出されている。
世界中どこを探しても、戦争も過労もブラック企業も存在しない。
僕は湯気の立つ特製ハーブティーを一口すすり、天体望遠鏡の映像が小さく映し出されている画面の隅を見つめて、ほっこりとボヤいた。
「地球はこんなに平和になったけどさ……夜空の向こうに浮かぶ遠くの星々(外宇宙)とか、僕たちの知らない別の世界(異次元)にも、もしかしたら僕たちみたいにのんびりお茶を飲みたい人がいるのかなぁ。遠くの宇宙人さんや異世界の人たちも、毎日争ったり無理に身を削ったりしないで、温かいお部屋で美味しいハーブティーでも飲みながら、みんなで仲良くぬくぬく長生きできれば一番ハッピーなのになぁ……」
地球を超えたはるか彼方の存在まで心から心配した、僕の切実でスケールの大きい(?)ボヤキ。
……のはずだった。
(地球という一惑星の枠組みを超え、全宇宙・全並行世界の全生命を慈しみ安息へ導く創世の至高意識……! そして次元の壁すら打ち破り、全存在へぬくぬく長生きを提唱する全次元スローライフ開闢……!?)
ドアの物陰で、本日の全地球健康レポートをまとめていた妹リリィと、通信魔導具の技術者ギド、写真機のヤコブの目が、カァァァッ! と全宇宙を照らすかのような神々しい光を放った!
「すごいですわお兄様……ッ!」
リリィが感涙で黄金のメモ帳を胸に強く抱きしめる。
「地球上の平和だけに満足されることなく、果てしなき星々の向こうや異次元の生きとし生けるもの全てへ『ぬくぬく長生き』の恩寵を届けようとなされるなんて……! 私、すぐに『全次元通信回路』の開通をお願いいたしますわッ!」
「お命救済と魔導通信の全次元到達点だぁぁぁッ!」
錬金術師ギドとヤコブが、高次元通信変換陣をフル稼働させて叫ぶ。
「ロルフ殿の天体望遠鏡の超高感度受光陣とヤコブ殿の空間同期陣を接続し、ただちに次元の壁を穿つ『全次元超空間リモート回線』を開通させますぞッ!」
「待って三人とも!? 僕はただ『宇宙の人たちも休めたらいいね』って言っただけだよ!?」
僕の悲鳴を置き去りにし、狂乱の妹&次元通信チームは自室のモニター増幅回路へと爆走していった。
◇
数日後。
「……ねえリリィ。自室のリモート画面が七色にスパークして、見たこともない恐ろしい角を生やした巨大な怪物や、ツルツルの頭に大きな目をした宇宙人たちがズラリと画面を埋め尽くしてるんだけど……これって何の冗談?」
自室でハーブティーを飲んでいた僕は、壁一面のモニターに映し出された異次元の大惨事にパチクリと目を丸くしていた。
ギドとヤコブが次元の壁を突破して開通させた『全次元超空間リモート回線』により、外宇宙の銀河帝国、異世界の魔王城、並行世界の高次元神殿などが、一斉に僕の自室のモニターへと接続されてしまったのだ。
『な……なんだこの部屋はぁぁぁッ!?』
画面の中央で、何十丈もの巨体を誇る異世界の覇王(大魔王)が、角を震わせて大絶叫した。
『殺伐とした我が魔界とは比べものにならん、温かく圧倒的な多幸感あふれる波動……! 画面越しに見えるあのふかふかした物体と、湯気を立てる聖なる茶は何なのだぁぁぁッ!?』
『我らゼータ星系銀河連合も衝撃を受けているッ!』
大きな目をした宇宙人の皇帝が、涙目で画面に張り付く。
『我が星系では何千年も資源を巡って泥沼の宇宙戦争を繰り広げていたというのに……あの少年の漂わせる『ぬくぬく長生き』のオーラを見るだけで、全身の戦闘意欲がゼロになって涙が止まらんのだぁぁぁッ!』
画面の向こうにいる異次元の覇者や宇宙の魔王たちが、僕の自室のふかふかスプリングベッドと特製クッション、そしてハーブティーの放つ圧倒的な快適オーラに毒気を抜かれ、大狂乱で画面にひれ伏し始めたのだ。
『頼む……! 我らにもその『ぬくぬく空間』の恩恵を分けてくれぇぇぇッ!』
『我らの次元も、あの創世神ルーカス様のぬくぬく楽園に統合させてくれぇぇぇッ!』
そこへ、誇らしげなリリィ、ギド、ヤコブが駆け込んできた。
「お兄様! 全宇宙・全異次元からの『全次元ぬくぬく通信』が完全開通いたしましたわ!」
リリィが七色に光る羊皮紙を掲げて天使の笑顔を咲かせる。
「宇宙の覇者様も異次元の魔王様たちも、皆様お兄様の『ぬくぬく長生き』の教えに感動され、ファンクラブへの入会を志願されておりますの!」
「異次元の魔王がファンクラブに入会してこないでーーーーッ!?」
僕は悲鳴を上げ、特製クッションで顔を覆った。
「あ、あれ……? 僕はただ……遠くの星の人たちも仲良くお茶でも飲んで過ごせればいいなって思っただけなのに……なんで僕の自室のモニターが『全宇宙と異次元の覇者たちが平伏する最高統括画面』になってるのーーーーッ!」
宇宙や異次元の平和を願った少年のささやかなボヤキは、次元の壁すらも軽々と突破し、全次元を包み込む「ぬくぬくスローライフ時代」の幕を開けさせていくのだった。
第五章の開幕をお読みいただき、本当にありがとうございました!
ついに海を超え、世界を超え、宇宙や異次元の覇者たちまでルーカスのボヤキに巻き込まれ始めました……。無重力空間の宇宙ステーション保養所、腰痛持ちの元SSランク冒険者たちも大喜びで宇宙へ飛び立っております(笑)。
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