第61話:全世界から「神皇ルーカスの生誕祭」をお祝いする貿易船が海を埋め尽くしている
「ふぅ……天界の神様たちまで居候してきて、いよいよにぎやかすぎる日常になっちゃったなぁ」
『海上神聖宮殿』の自室で、僕はふかふかスプリングベッドの上で特製クッションをぎゅっと抱きしめ、窓から広がるどこまでも青い海を眺めていた。
新陸地『バルデン神聖楽園国』には、新しく住民登録された風神様や雷神様のおかげで、一年中ぽかぽかと暖かく、台風も落雷もない完璧な平和が保たれている。
だけど、暦の羊皮紙カレンダーをふと見つめた僕は、数日後に迫った「ある日」に気づいて、青ざめて身をすくめた。
「もうすぐ……僕の15歳の誕生日じゃないか……」
前世では病院の静かな病室で、看護師さんやお医者さんに「おめでとう」と言われながら小さなケーキを食べただけの質素な誕生日。
この異世界に来てからも、家族だけで温かくお祝いしてもらうのが毎年の楽しみだった。
だけど、今の僕は勝手に「全世界の神皇様」なんて大層な立場にまつり上げられている。
僕は温かいハーブティーを一口すすり、胃のあたりを押さえながら切実にボヤいた。
「誕生日くらいはさ……大勢で集まって大騒ぎしたり、盛大なパーティーで揉みくちゃにされたりしたくないなぁ。人ごみに揉まれたら押しつぶされて骨折しちゃうかもしれないし、感染症をもらったら長生きできないよ……。自室のベッドの上で、ウィルが焼いてくれた美味しい特製バースデーケーキとハーブティーを飲みながら、家族と静かにぬくぬく過ごしたいなぁ。それが一番安全で、絶対に誰も怪我しない最高の誕生日なのに……」
大騒ぎによる怪我や病気のリスクを恐れた、僕のささやかで安全第一なボヤキ。
……のはずだった。
(全人類に安息と至福を与え給いし神皇ルーカス様の『生誕の日』……! そして人類が全霊を挙げて創世の恩寵に感謝を捧げる地球規模の聖誕祭……!?)
ドアの陰で、本日の献上品リストを整理していた父アロイス、妹リリィ、そして大商人シルヴィアの目が、カァァァッ! と太陽のように神々しく輝いた!
「すごいですわお兄様……ッ!」
リリィが感涙で胸の前でメモ帳を強く抱きしめる。
「ご自身の生誕祭すら自己誇示のためではなく、全人類がそれぞれの場所で感謝と愛を分かち合う『静かで至高の地球祝賀』となさるなんて……! 私、すぐに全世界に『神皇ルーカス様生誕祝賀宣言』を発令いたしますわッ!」
「お命救済と感謝の極致だぁぁぁッ!」
大商人シルヴィアが、純金の貿易許可証を掲げて叫ぶ。
「ただちに全海洋の船主と各国首脳に通達し、ルーカス様への感謝を込めた『人類史上最大の生誕祝賀航海』を開始いたしますわぞッ!」
「待って三人とも!? 僕はただ『お部屋で静かにケーキを食べたい』って言っただけだよ!?」
僕の悲鳴を置き去りにし、狂乱の家族&商業コンビは全世界通信ラインへと爆走していった。
◇
数日後、僕の誕生日の当朝。
「……ねえリリィ。窓の外の海が、船の帆で埋め尽くされて青い海が見えないんだけど……これって何の冗談?」
自室でハーブティーを飲んでいた僕は、窓の外のあり得ない大パノラマにパチクリと目を丸くしていた。
新陸地『バルデン神聖楽園国』を取り囲む果てしない広大な海。
そこには、アルカディア王国、エストリア帝国、ルミナス聖国、エルフの国、さらには地球の全海洋から集結した数万隻を超える豪華絢爛な「祝賀貿易船」がズラリと停泊し、海一面が七色の船と花火で埋め尽くされていたのだ。
船の上からは、世界中の人々が「ルーカス様、お誕生日おめでとうございます!」「創世の神皇様万歳ッ!」と大歓声を上げ、金銀財宝や世界各地の美味しいフルーツ、特大の製菓材料が続々と宮殿へ運び込まれていく。
そこへ、豪華なバースデーケーキを抱えた製菓師ウィル、リリィ、アロイス父さん、そしてシルヴィアが駆け込んできた。
「ルーカス様! お誕生日おめでとうございます!」
ウィルが特大のいちごデコレーションケーキをテーブルに恭しく置く。
「全世界から届いた至高の純生クリームと完熟いちごで、ルーカス様が自室で静かに召し上がれるよう至高のケーキを焼き上げましたぞ!」
「ケーキはすごく美味しそうだけど……外の船の数が凄まじいよ!?」
「ふふふ、ルーカス様!」
シルヴィアが沖合を指差す。
「『神皇ルーカス様は静寂と安全を好まれるため、宮殿には押し掛けず、海の上から静かに祝福を捧げること』というルールを設けた結果、全世界の全貿易船と王族の船が海を埋め尽くし、『地球史上最大の海洋バースデーフェスティバル』が自然発生いたしましたわ!」
「海の上がバースデーフェスタで埋まってるーーーッ!?」
さらにリモート画面には、海上の船から手を振る各国の王様たちや、天界から「ルーカス様おめでとう!」と特大の虹を打ち上げる神々たちの姿が映し出されていた。
「静かに過ごさせてーーーーッ!?」
僕は悲鳴を上げ、特製クッションで顔を覆った。
「あ、あれ……? 僕はただ……大騒ぎして怪我をしたくなくて、お部屋で静かにケーキが食べたかっただけなのに……なんで僕の誕生日に『全世界の海が祝賀船で埋まる地球規模の生誕祭』が開催されてるのーーーーッ!」
静かな誕生日を望んだ少年のささやかなボヤキは、地球上の全海洋を歓喜と祝福の海へと変え、物語はさらに誰も予測できない超スケールの展開へと進んでいくのだった。
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