第57話:星空をもっと近くで見たいと呟いたら、海の上の新陸地に巨大天体望遠鏡が作られていた
「はぁ……夜の海って、波の音が心地よくて本当に癒やされるなぁ」
『海上神聖宮殿』の自室で、僕は消灯前の薄暗い部屋の中、ハーブティーの湯気をくゆらせながらテラスの大きな窓越しに夜空を見上げていた。
新陸地『バルデン神聖楽園国』を包む夜の海は、街の明かりが絶妙に調整されているおかげで、空いっぱいに吸い込まれるような満天の星空が広がっている。
前世の病室からは決してみることができなかった、宝石を撒き散らしたかのような圧倒的な星の輝き。
僕はふかふかスプリングベッドに深く腰掛け、特製クッションを抱きしめながらポロリとボヤいた。
「これだけでも十分に綺麗なんだけど……自室のベッドに居ながら、お月様の表面や遠くのキラキラした星をもっと近くでくっきりアップで見られたら、さらに癒やされるのになぁ。前世の『天体望遠鏡』みたいに、遠くの星の光を集めてアップで映してくれるレンズや観察カメラがあれば、夜のおうち時間がもっと楽しくなって、ストレスゼロでぐっすり眠れるのになぁ……」
夜の静かな時間をより心地よく過ごし、質の良い睡眠で健やかに長生きしたいという、僕のささやかで癒やし第一なボヤキ。
……のはずだった。
(はるか彼方の星々の運行を捉え、天の真理を解き明かす神の天体観測鏡……! そして宇宙の叡智をもって全世界の航海と気象を導く奇跡の星詠み……!?)
テラスの暗がりで夜間防犯結界の調整をしていた狙撃隊長ロルフと、ガラス職人レオの目が、カァァァッ! と雷に打たれたように見開かれた!
「す……凄すぎるぞルーカス様……ッ!」
超遠距離ズームスコープの達人であるロルフが、目を見開いて武者震いする。
「地上の防衛や観察にとどまらず、果てしなき星々の理(宇宙)まで見通そうとされるとは……!」
「お命救済と知恵の極致だぁぁぁッ!」
ガラス職人レオが、超高精度光学研磨レンズの構想を羊皮紙に書き殴りながら叫ぶ。
「新陸地の最高峰に最高級魔導硝子を組み上げた『バルデン大天体望遠鏡』を爆速建設し、ただちにルーカス様の自室モニターへ宇宙のリアルタイム映像を同期させますぞッ!」
「待って二人とも!? 僕はただ『部屋から綺麗な星をアップで見たい』って言っただけだよ!?」
僕の悲鳴を置き去りにし、狂乱の狙撃&光学ガラスコンビは山頂の天体観測所建設へと爆走していった。
◇
数日後。
「……ねえリリィ。自室のモニターに、お月様のクレーターや綺麗な環を持った星がリアルタイムでドアップで映ってるんだけど……これって何?」
自室でハーブティーを飲んでいた僕は、壁の『全自動遠隔拝謁陣』に映し出された幻想的すぎる宇宙の映像にパチクリと目を丸くしていた。
新陸地の一番高い山頂には、ロルフやレオ、ニコたちが建設した見上げるような巨大ドーム型観測所『バルデン天体観測タワー』が完成していた。
レオが研磨した超巨大魔導レンズと、ロルフのズーム技術、ニコの精密駆動歯車が完璧に融合した『バルデン大天体望遠鏡』は、はるか宇宙の月面や惑星、さらには遠方の銀河の輝きまでも鮮明に捉えていた。
「すごい……! お月様の模様までこんなにハッキリ見えるなんて……!」
僕が至高の星空映像にうっとり見惚れていると、そこへロルフとレオ、そして学術帽をかぶった学者たちが胸を張って駆け込んできた。
「ルーカス様! 『天体観測システム』の稼働を完了いたしました!」
ロルフが羊皮紙の星図を誇らしげに掲げる。
「星々の位置と動きが秒単位で解明されたことで、海上の潮の満ち引きや天候の急変が100%予測可能となりました! 航海事故ゼロ、気象予測精度100%を達成しております!」
「星を見るだけで天気と潮の動きが完璧に分かっちゃうの!?」
「さらにルーカス様!」
レオが沖合を指差す。
「『あの新国家に行けば、宇宙の真理を解き明かす神の望遠鏡があり、世界一正確な星図と航海図が手に入る』という噂が世界中に広まり、全世界の天文学者、航海士、地理学者、さらには星詠みの巫女たちが、聖地巡礼としてこの新陸地に大殺到しておりますぞッ!」
「世界中の天文学者や航海士が集まってこないでーーーーッ!?」
僕は悲鳴を上げ、特製クッションで顔を覆った。
「あ、あれ……? 僕はただ……部屋から綺麗な星をアップで見て癒やされたかっただけなのに……なんで僕の作った新国家が『人類初となる天文学と宇宙観測の聖地』になってるのーーーーッ!」
夜の癒やしと心地よい睡眠を求めた少年のささやかなボヤキは、新国家を世界最高の天文学&航海術の拠点へと進化させ、物語はさらに誰も予測できない超スケールの展開へと進んでいくのだった。
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