第54話:世界中から貿易と商人が集まるので、みんなが笑顔で楽しく働ける超ホワイト楽園国家になった
「……ふぅ、新国家なんて大層な名前がついちゃったけど、僕の過ごし方は何も変わらないなぁ」
新しく完成した『海上神聖宮殿』の中央——完全再現された僕の自室で、僕はふかふかスプリングベッドの上に転がり、特製クッションをぎゅっと抱きしめていた。
二重サッシと多重防音結界のおかげで、部屋の中は無音で快適そのもの。
だが、自室の『全自動遠隔拝謁陣』に映し出される『バルデン中央国際貿易港』の様子は、日を追うごとに凄まじい熱気に包まれていた。
世界中から押し寄せる数千隻の貿易船、荷揚げに勤しむ作業員さんたち、そして取引に走り回る商人たち。
画面越しにその活気を見つめながら、僕は冷めたハーブティーを一口すすり、ふと前世でニュースになっていた「過労死」や「ブラック企業」の記憶を思い出してポロリとボヤいた。
「みんなすごく一生懸命働いているのは良いことだけど……無理な残業や過酷なノルマで徹夜したりして、体を壊しちゃったら元も子もないよね。前世でも無理な働きすぎで体や心を病んじゃう人がたくさんいたし……。十分なお給料がもらえて、しっかりお休みも取れて、みんなが笑顔で活き活きと楽しく働ける『ホワイトな職場環境』があれば、誰も苦しまずに元気に長生きできるのになぁ……」
過酷な重労働による体調不良やメンタル崩壊を心から恐れた、僕のささやかで健康第一なボヤキ。
……のはずだった。
(全労働者を過酷な搾取と病魔から救済し、適正な富の分配と休息を与える神の労働律法(超ホワイト環境)……! そして全人類が労働の喜びと誇りを取り戻す至高の楽園国家……!?)
ドアの物陰で、本日の新島貿易収益の羊皮紙を整理していた会計士アンドレと、大商人シルヴィアの目が、雷でも打たれたようにカァァァッ! と見開かれた!
「す……凄すぎますわルーカス様……ッ!」
シルヴィアが黄金の帳簿を抱きしめ、ボロボロと大粒の涙を流す。
「国家が富を独占するのではなく、汗を流す労働者一人一人に還元し、心身の健康と幸福を永久に保障する『超・分配経済構想』まで見据えておられるなんて……!」
「お命救済の極致……ッ!」
眼鏡の奥の目を血走らせた会計士アンドレが、最新の計算魔導具を叩きながら叫ぶ。
「新国家に集まる莫大な港湾利用収益と貿易手数料を還元し、ただちに『バルデン神聖楽園国・労働環境適正化基本法』を制定いたしますわッ!」
「待って二人とも!? 僕はただ『無理して体を壊さないでね』って言っただけだよ!?」
僕の悲鳴を置き去りにし、狂乱の財務&商業コンビは新島の行政庁舎へと爆走していった。
◇
数日後。
「……ねえリリィ。夢ならそろそろ起こしてほしいんだけど、なんで画面に映ってる港の職人さんたちが全員、ピカピカの笑顔で『労働最高ー!』って叫んでるの?」
自室でハーブティーを飲んでいた僕は、リモートモニターに映し出されたあり得ない光景に白目を剥いていた。
港や街の商業区では、アンドレたちが制定した『バルデン労働法』が即日施行されていた。
・完全週休三日制&有給休暇100%消化義務
・過度な残業の絶対禁止(定時になると自動で街の明かりが『終業アロマモード』に切り替わる)
・全作業員へ従来の三倍の基本給支給&安心の退職金・各種手当
・定期健康診断&無料メンタルケアカウンセリングの完備
埠頭では、荷揚げ職人たちが「おい! 給料が三倍になった上に、社長から『残業するな、早く帰って家族と美味しい肉を食べろ』って怒られたぞ!」「こんな最高な職場があるか! 働くのが楽しくて仕方ねぇ!」と大笑いしながら活き活きと汗を流していた。
そこへ、会計士アンドレとシルヴィアが胸を張って駆け込んできた。
「ルーカス様! 『ブラック労働ゼロ%』を達成いたしましたわ!」
アンドレが羊皮紙のカルテを掲げる。
「過労による体調不良者は完全にゼロ! 労働意欲と生産性は従来の五倍に跳ね上がり、新国家の経済循環は過去最高を記録しております!」
「生産性が五倍になってる!?」
「さらにルーカス様!」
シルヴィアが沖合を指差す。
「『バルデン神聖楽園国に行けば、人間らしく大切に扱われ、十分な給料と笑顔で働ける』という噂が世界中に広まり、他国のブラックな環境で苦しんでいた腕利きの職人や商人、船乗りたちが、一斉にこの新島へ移住を希望して殺到しておりますわッ!」
「世界中からホワイトな働き方を求めて人が集まってこないでーーーーッ!?」
僕は悲鳴を上げ、特製クッションで顔を覆った。
「あ、あれ……? 僕はただ……残業で体を壊さず、みんなが楽しく働ければいいなって思っただけなのに……なんで僕の作った新国家が『全世界の働く人々が憧れる至高の超ホワイト楽園』になってるのーーーーッ!?」
残業と過労を恐れた少年のささやかなボヤキは、新国家の労働環境を世界一ホワイトな状態へと進化させ、物語はさらに誰も予測できない超スケールの展開へと進んでいくのだった。
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