第53話:新国家『バルデン神聖楽園国』の建国式典ですが、僕は自室のベッドからリモートで参加します
「……いよいよ、この日が来てしまったか」
新しく完成した『海上神聖宮殿』の中央——寸分違わず完全再現された僕の自室で、僕はふかふかスプリングベッドの上に正座し、特製クッションをぎゅっと抱きしめていた。
窓の外では、新島を取り巻く穏やかな海の上に、全世界から集まった祝賀の船が埋め尽くすように停泊している。
七色に輝く結晶ドームの向こう側から、かすかに万雷の歓声が響いてくるようだ。
本日執行される歴史的大イベント——『バルデン神聖楽園国・建国式典』。
ドアが静かに開き、正装に身を包んだ父アロイス、母エレナ、兄のカイル、そして黄金のメモ帳を掲げたリリィが入ってきた。
「ルーカス、準備はいいかい? 式典の会場には、各国の王様や教皇様、そして世界中の代表者たちが集まっているよ」
父アロイスが優しく微笑みかけてくる。
「ルーカス、今日も顔色が良くて素敵よ」
母エレナが優しく髪を整えてくれた。
「ルーカス、式典の警備はラグナル殿と僕の警備隊で完璧に固めてあるからね。何の心配もいらないよ」
カイル兄さんが頼もしく頷く。
僕は特製クッションに顔を埋めて、消え入りそうな声でボヤいた。
「うぅ……緊張で胃が痛いよ……。何万人、何十万人もの大観衆の前に立って、偉そうな建国宣言のスピーチなんて絶対無理だよ……。緊張で血圧が上がって倒れちゃうかもしれないし、大勢の人と接触して風邪をもらったら長生きできないよ……。建国式典なんて、僕の自室の『全自動遠隔拝謁陣』を使って、ベッドの上からチラッと画面越しに手を振るだけで済ませられたらいいのになぁ。そうすれば誰も怪我しないし、僕も安全にぬくぬく過ごせるのに……」
大舞台でのスピーチの恐怖と、人ごみによる体調不良を心から恐れた、僕のささやかで健康第一なボヤキ。
……のはずだった。
「「「お……お兄様ぁぁぁッ!! なんというお心遣いですのーーーッ!!」」」
リリィの瞳が、眩いばかりの感動の涙で溢れ出した!
「式典会場に集まった数百万の民だけでなく、世界中の全人民が等しくお兄様のお姿を拝めるよう、全世界同時リモート即位式になさるなんて……! これぞ全人類を慈しむ至高の神皇様のご聖断ですわッ!」
「待ってリリィ!? 僕はただ外に出たくないだけで——」
僕の叫びを聞く間もなく、リリィは壁の『全自動遠隔拝謁陣』の起動スイッチをドーンと押し込んだ!
ピキィィィィンッ……!!
自室のモニターが眩い黄金の光を放ち、会場の中央に設置された見上げるような巨大立体映像と全世界の街頭モニターが一斉に同期された!
画面の向こうには、式典会場を埋め尽くす数百万人を超える超大観衆、そして各国の王族や首脳陣がズラリと映し出されていた。
そして、その超巨大スクリーンに投影されたのは——豪華な玉座でも絢爛な王冠でもなく。
宮殿の自室のふかふかベッドの上で、部屋着のまま特製クッションを抱きかかえ、少しおどおどと画面を見つめている……僕のありのままの姿だった。
一瞬の静寂。
そして——。
「「「うおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!」」」
天地を揺るがすどころか、海を割らんばかりの凄まじい歓声と号泣が世界中から巻き起こった!
『ご覧になられたかッ! 我らが初代神皇・ルーカス様のご威光をッ!』
『王冠も黄金の玉座も誇示せず、ふかふかのクッションを抱かれ、自然体のまま我ら全人類を優しく見守っておられる……ッ!』
『これぞ飾らない慈愛! これぞ真の楽園国家の絶対元首であられるッ!!』
会場でマイクを握っていたエストリア帝国のジークフリート皇帝と、ルミナス教の教皇クレメンス15世が、画面越しに感涙にむせびながら膝をついた。
『本日ここに! 創世の神皇・ルーカス様を戴く超国家【バルデン神聖楽園国】の建国を全世界に宣言するッ!!』
『神皇ルーカス様万歳ッ!』
『バルデン神聖楽園国万歳ッ!!』
画面の向こうで何億という人々が歓喜の涙を流し、一斉に僕に向かって平伏した。
僕はガクガクと膝を震わせ、抱きしめた特製クッションで顔をすっぽりと覆って絶叫した。
「あ、あれ……? 僕はただ……大勢の前に出たくなくて、部屋からリモートで手を振りたかっただけなのに……なんで世界中が大号泣して、僕が正式に『全世界の神皇様』に即位させられてるのーーーーッ!?」
大舞台を恐れた少年のささやかなボヤキは、世界初の「全世界同時リモート即位式」を大成功させ、新国家『バルデン神聖楽園国』は、歴史的なスタートを切るのだった。
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