第52話:海の上の新都市に、一晩で世界一豪華な「海上神聖宮殿」が完成していたんだが
「あ、あり得ない……絶対に何かの間違いだ……」
自室のふかふかスプリングベッドの上で、僕は特製クッションを強く抱きしめながら、窓の外の光景に白目を剥いていた。
窓の向こうには、どこまでも広がる美しい常春の新陸地。
そして、その真ん中に——見上げるような白亜の巨大な宮殿が、圧倒的な威容を誇って聳え立っていた。
古代神殿のような壮大な柱廊、陽光を浴びて七色に輝く水晶ドーム、そして敷地全体を優しく包み込む薄桃色の防音・防風魔法結界。
「……ねえリリィ。昨日までここ、ただの緑豊かな丘陵地帯だったよね? なんで一晩でお城より豪華な宮殿が建ってるの?」
僕がガタガタと膝を震わせながら尋ねると、隣に立っていた妹のリリィが、黄金のメモ帳を胸に抱えて天使のような笑顔を咲かせた。
「お兄様! ドワーフのブラムさんと国防総監のラグナルさんが主導し、全世界から集まった十万人超の超腕利き大工や魔法技師たちが結集して作ってくださったのですわ! 題して『神皇ルーカス様のための絶対聖域・海上神聖宮殿』ですの!」
「十万人の職人さんが一晩で作っちゃってるーーーーッ!?」
僕は頭を抱えて叫んだ。
さかのぼること、昨日の夜。
神皇に勝手に即位させられた僕は、海の上の新島で始まるであろう大規模な建設工事や、海特有の潮風による肌荒れを恐れて、自室のテラスで切実にボヤいていたのだ。
「はぁ……海の上だからって、潮風で肌がカサカサになったり、ベタベタ潮風焼けするのは絶対に嫌だなぁ。それに、これから新都市を作る工事のカンカン音がうるさくて眠れなくなったら、ストレスで免疫力が下がって病気になっちゃうよ。潮風を完全にシャットアウトして、工事の騒音もゼロにしてくれる透明な防塩・防音バリアがあって、自室と同じくらいぬくぬく快適な防音空間があれば、誰も体調を崩さずに元気に長生きできるのになぁ……」
潮風による肌荒れと、工事音による睡眠障害を心から恐れた、僕のささやかで健康第一なボヤキ。
……のはずだった。
(潮風の穢れを完璧に浄化し肌の潤いを守る神の防塩障壁……! そしてあらゆる下界の喧騒を消滅させ至高の安眠をもたらす絶対静寂結界(防音ドーム)……!?)
テラスの物陰で待機していた建築長ブラムと、元SSランク冒険者のラグナルが、雷に打たれたように固まったのだ。
「す……凄すぎるぞルーカス様……! ご自身の宮殿だけでなく、海上環境特有の塩害や騒音被害から全職人・全住民を守る『気象&防音大革新』まで見据えておられるとは……ッ!」
「ウオオオッ! 世界中の大工と工匠を今すぐ集めろッ! ルーカス様の防音・防塩バリアを核とした、世界一静かで快適な地上至高の宮殿を一晩で組み上げるぞぁぁぁッ!」
熱血漢の技術&防衛チームは血走りながら、全世界の職人ネットワークを総動員して夜通しの爆速建築へと突入したのだった。
◇
そして、現在。
「ご覧くださいルーカス様!」
ドアが豪快に開き、白衣を羽織った建築長ブラムと、ピカピカの甲冑を着たラグナルが胸を張って駆け込んできた。
「宮殿全体を包む『バルデン式・多重防音防塩魔導結界』の稼働により、潮風のベタつきは完全ゼロ! 外部のあらゆる工事音や馬車の騒音も100%遮断いたしました!」
「本当にめちゃくちゃ静かだ……! 潮風のにおいもしなくて、空気がすごく清々しいよ……!」
僕が室内の完璧すぎる快適さに感動していると、ラグナルが誇らしげに窓の外を指差した。
「さらにルーカス様! この宮殿の中央一番良い場所には……ルーカス様がこれまでの自室と全く同じ感覚でぬくぬく過ごせるよう、以前のお部屋を寸分違わず完全再現いたしました!」
「僕のお部屋がそのまま宮殿の真ん中に移動してる!?」
驚いて振り返ると、ふかふかのスプリングベッドも、二重サッシも、床暖房も、加湿空気清浄機も、僕の愛用クッションまで完璧に元の配置のままそこに存在していた。
僕が呆然としていると、自室の『全自動遠隔拝謁陣』がピコンッと音を立てて発光した。
画面には、新島に集まった世界中の貿易商や船長たち、さらには各国のVIPたちがズラリと映し出されていた。
『創世の神皇・ルーカス様! あの美しく静寂に包まれた『海上神聖宮殿』の完成に、全人類が感涙しております!』
『明日執行されます『バルデン神聖楽園国・建国式典』に向け、全世界から祝賀の船が海を埋め尽くしておりますぞ!!』
「建国式典が明日開催されちゃうのーーーーッ!?」
僕は悲鳴を上げ、特製クッションで顔を覆った。
「あ、あれ……? 僕はただ……潮風で肌が荒れるのが嫌で、静かに眠りたかっただけなのに……なんで海の真ん中に世界一豪華な宮殿ができて、明日僕の建国式典が開かれようとしてるのーーーーッ!?」
潮風と騒音を恐れた少年のささやかなボヤキは、海の上に世界最高の建築美と静寂を誇る宮殿を誕生させ、物語はいよいよ歴史的な「建国式典(リモート即位)」へとなだれ込んでいくのだった。
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