第50話:僕が勝手に作った巨大な島に、世界中の貿易船が殺到して大港湾都市ができている件
「……ねえ、誰か僕に『夢だよ』って言ってくれないかなぁ」
自室のテラスで特製クッションを強く抱きしめ、僕は手元がガクガク震えるハーブティーをすすりながら、遠い目をしていた。
窓の向こう——かつては青々としたただの海だった沖合に、どこまでも広がる果てしない「陸地」がドカンと鎮座している。
僕たちが住むアルカディア王国の全領土を呑み込んでもまだお釣りがくるほどの超巨大な島。
しかも、島全体を包み込む桃色の光輪のおかげで、そこだけ春の温もりが漂っているという、常識外れにもほどがある「常春の島」だ。
「僕が……『ぽかぽか陽気の中でゆったり海を眺めたい』ってボヤいただけで、なんで国よりデカい島が一瞬で生えてくるの……? 創世魔法の自動発動、仕事しすぎでしょ……」
僕が頭を抱えて唸っていると、テラスの物陰から「すっ……」と大商人シルヴィアと、巨漢の運送屋ボリスが姿を現した。
「ルーカス様! 妹のリリィ様より拝聴いたしましたわ!」
シルヴィアが瞳を黄金色にギラギラと輝かせ、胸の前で手を合わせる。
「創世神たるルーカス様が、全人類の新たなる安息と平和のために下された奇跡の大陸……! 誰の領土でもない聖なる海の真ん中に浮かぶこの常春の島こそ、世界中の富と物流が交差する地上の天国にございますわッ!」
「シルヴィアさん、落ち着いて!? 僕はただゆったりしたかっただけで、天国なんて大層なものは作ってないよ!」
「ははは! ルーカス様、ご遠慮なさるな!」
運送屋のボリスが太い腕を組み、ガハハと豪快に笑う。
「だがなルーカス様、あの新島は素晴らしいが、船が岸に近づくにはまだ岩場が多くてな。荷揚げの船乗りどもが波に揉まれて船酔いしたり、荒波で積み荷を濡らしてしまう危険があるのが玉にキズだな」
「船酔い……」
ボリスの言葉に、前世で乗り物酔いに苦しんだ記憶が蘇り、僕は思わず顔を青くした。
「うぅ……船酔いは本当に辛いよね。移動で何日も波に揺られて気持ち悪くなったり、嵐で大切な荷物が流されたりするのは本当にかわいそうだよ。波がいつでも静かで穏やかな天然の良港があって、船乗りさんたちが安全に船を横付けできればいいのに。作業員の人たちも重い荷物で腰を痛めないよう、魔法の滑車やスムーズな搬入コースがあれば、みんな笑顔で楽しく働けて元気に長生きできるのになぁ……」
船酔いの恐怖と、港で働く作業員さんたちの腰痛を心配した、僕の切実で安全第一なボヤキ。
……のはずだった。
(荒波を鎮め船乗りの吐き気をゼロにする神の防波堤(天然の良港)……! そして港湾労働者の腰を救い、誰もが笑顔で活き活きと働ける至高の作業環境(バルデン式国際港)……!?)
シルヴィアとボリスの目が、雷でも打たれたかのように「カァァァッ!」と見開かれた。
「す……凄すぎますわルーカス様……! 新島を作るだけでなく、そこで働く船乗りや作業員の一人一人の健康と労働環境まで完璧に配慮された『労働者救済の大港湾構想』までお考えだなんて……!」
「うおおおッ! ルーカス様ぁぁぁッ! 船乗りの気持ちをそこまで分かってくださるとは……感無量だぁぁぁッ!!」
「待ってボリスさん!? 僕ただ『腰を痛めないでね』って言っただけだよ!?」
僕の悲鳴を置き去りにして、狂乱の商業&物流コンビは新島へと爆走していった。
◇
数日後。
「……ねえリリィ。夢ならそろそろ起こしてほしいんだけど、なんであの新島に世界一大きな港ができてて、船が何千隻も並んでるの?」
自室でハーブティーを飲んでいた僕は、窓の外のあり得ない大パノラマに白目を剥いていた。
新島のバルデン領側に、ドワーフのブラムたちと港湾職人たちが結集し、見上げるような防波堤と滑らかな石畳の埠頭が爆速で組み上げられていた。
ギドの波消し魔導陣のおかげで、港の中はまるで湖のように波ひとつなく静まり返っている。
さらに埠頭では、ニコが開発した超滑らかな魔導滑車や動くクレーンが稼働し、作業員たちが「おお! 荷物が羽のように軽いぞ!」「腰が全然痛くねぇ! 最高だ!」と大笑いしながら活き活きと働いていた。
そこへ、豪華な船長帽子を被った大商人シルヴィアとボリスが駆け込んできた。
「ルーカス様! 『バルデン中央国際貿易港』の完成にございます!」
シルヴィアが黄金の帳簿を掲げて叫ぶ。
「波は常に静寂を保ち、船酔い発生率は完全ゼロ! 最新のクレーンとスムーズな作業コースにより、ブラックな重労働は一掃され、作業員たちの笑顔と給料は三倍になりましたわ!」
「作業員さんの労働環境が超ホワイトになってる!?」
「さらにルーカス様!」
ボリスが沖合を指差す。
「『一国の土地よりデカい常春の島に、世界一安全で快適な大港湾都市ができた』という噂を聞きつけ、アルカディア王国、エストリア帝国、ルミナス聖国、果ては遠方の海洋国家から、世界中の貿易船が数千隻規模で殺到しておりますぞぁぁぁッ!」
「数千隻ーーーーッ!?」
僕が悲鳴を上げると同時に、自室の『全自動遠隔拝謁陣』がピコンッと音を立てて発光した。
画面には、船に乗った世界中の大商人や船長たち、さらには各国の港湾大臣たちがズラリと映し出されていた。
『創世の神童・ルーカス様! この波のない静かな港と、作業員の方々が楽しそうに働く最高の貿易港に全船長が涙しております!』
『我が国の全貿易船の拠点を、本日よりこの新島へ移転させていただきますぞ!!』
「全貿易船が移転してこないでーーーーッ!?」
僕は悲鳴を上げ、特製クッションで顔を覆った。
「あ、あれ……? 僕はただ……船酔いがかわいそうで、安全な港があればいいなって思っただけなのに……なんで僕の作った新島に世界中の貿易船が殺到して『世界最大の国際港湾都市』になってるのーーーーッ!?」
船酔いと腰痛を恐れた少年のささやかなボヤキは、海の上に生まれた超巨大な新島を、世界中の富と活気が集まる「至高のホワイト貿易都市」へと変貌させていくのだった。
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