第49話:ゆったり過ごしたいなと呟いたら、魔法が勝手に発動して一国の土地よりデカい島が爆誕生したんだが
歴史的な「バルデン万国永久不可侵・世界平和協定」が調印されてから、早数ヶ月。
世界中から戦争の恐怖が完全に消え去り、我がバルデン子爵領は万博の熱狂も相まって、連日世界中からの訪問者や観光客、商人たちで溢れかえっていた。
「ふぅ……みんなが楽しそうなのはすごく良いことなんだけどねぇ」
自室のテラスで特製クッションを抱きしめながら、僕は冷えたハーブティーを一口すすり、深々と溜息をついた。
窓の外を見下ろせば、滑らかに動く『バルデン・ムービングウォーク』の上を人々が楽しそうに行き交い、『世界屋台街』からは香ばしいお肉の焦げる匂いや甘いスイーツの香りが立ち上っている。
平和そのものの素晴らしい光景だ。……だが、安全第一で静かな暮らしを愛する僕にとっては、少々賑やかすぎるのも事実だった。
「どこへ行っても人、人、人。館の周りもいつも賑やかだから、なんだか気持ちが休まらないんだよね。……はぁ〜、誰にも邪魔されない静かな場所で、ぽかぽか陽気の中、温かいハーブティーでも飲みながら、ゆったり海でも眺めてぬくぬく過ごしたいなぁ……」
前世で憧れていた、静かな海辺の別荘でのんびり過ごすスローライフ。
そんな、ただのささやかな妄想混じりのボヤキ。
……の、はずだった。
「……ん?」
僕がボヤきを漏らした、次の瞬間のことだった。
ズズズズズズズズズズ……ッ!!
突如として、世界の底から響くような地鳴りが全身を駆け抜けた。
「ひえぇぇぇっ!? じ、地震!? 世界平和になったのに地震なんて聞いてないよーーーーッ!?」
慌てて特製クッションを頭に乗せて机の下に潜り込もうとしたが、グラグラ揺れているのは地面ではなく、僕の体の底……いや、大気と世界そのものの魔力だった。
僕の胸の奥から、経験したこともないほど凄まじい温かな魔法の波動が「ドクンッ!」と脈打つ。
(えっ……なにこれ!? 僕、魔法なんて唱えてないよ!?)
焦る僕の意思とは裏腹に、身体の中に眠っていた創世級の魔法が、僕の「誰にも邪魔されず、ポカポカ陽気の中でゆったり海を眺めたい」という切実なボヤキに勝手に自動反応してしまったのだ!
直後、テラスの向こう——バルデン領の青々とした海の沖合で、天地を割るような眩い黄金の光柱が天に向かって突き抜けた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴバァァァァァァンッ!!!!!
「な、なにが起きてるのーーーーッ!?」
僕がテラスにしがみついて沖合を見つめると、そこには目を疑う光景が広がっていた。
静かだった海面が山のように盛り上がり、見たこともないほど巨大な「陸地」が、勢いよくドカンッと一瞬で隆起してきたのだ!
どこまでも続く果てしない地平線。
緑豊かな美しい丘陵地帯、清らかな川、そして島全体を包み込むポカポカとした春の温もりを感じさせる桃色の光輪。
その広さは、僕たちが住んでいるアルカディア王国の全領土をすっぽり呑み込んでなお余りあるほどの、超巨大な「常春の島」であった。
海の上に一瞬で出現した、一国の土地よりも遥かに巨大な新しい陸地。
「……え?」
僕は手にしたハーブティーのカップをポロッと床に落とした。
「……う、嘘でしょ……? 僕……ただ『ゆったり海を眺めて過ごしたいな』って言っただけなのに……なんで目の前の海に国よりデカい島が一瞬で爆誕生してるのーーーーーーッ!?」
僕の悲鳴がテラスに響き渡ると同時に、パタパタと足音を立てて妹のリリィが部屋へ飛び込んできた。
「お、お兄様ぁぁぁッ! 見ましたわーッ!」
リリィの瞳は、夜空の流星よりも眩しく爛々と輝いていた。手に握られたメモ帳には、すでに猛烈な速度でペンが走っている。
『世界平和の先にある、全人類の新たなる安息の地……!』
『誰の領土でもない聖なる海の上に、一年中ポカポカと温かい常春の超巨大陸地を創造される神の創世魔法……!』
「すごいですわお兄様……! 万博で賑やかになった領地を優しく見守りつつ、全人類が誰の目を気にすることもなくゆったり過ごせる『究極の常春楽園島』を一瞬でお作りになられるなんて……! 私、すぐに父上と各国の王様たちに教えなくっちゃ!」
「リリィ待って! 僕が作ったんじゃない! というか魔法が勝手に暴走しただけだから誰も呼ばないでーーーッ!」
僕の制止も虚しく、天使(妹)は黄金の島が浮かぶ海に向かって爆走していった。
こうして、平和になった世界に突如として出現した「巨大な常春の島」を巡り、僕のぬくぬくスローライフは、またしても誰も予測できない超スケールの暴走へと巻き込まれていくのだった。
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