第48話:第三章完結・全世界から称賛されても、僕は永遠に自室のベッドでぬくぬく過ごします!
歴史的な「バルデン万国永久不可侵・世界平和協定」が調印されてから、数ヶ月の時が流れた。
世界中から「戦争」や「武力衝突」の恐怖が完全に消え去ったアルカディア王国、そしてバルデン子爵領。
かつて北東辺境の小さな男爵領だったこの地は、今や全世界の富と技術、そして平和と希望が注ぎ込む「世界最高の常春聖域都市」となっていた。
だが、どれほど世界が激変しようとも——絶対に変わらないものが一つだけあった。
「ふぁぁぁ……今日も良いお天気だなぁ」
日差しが優しく差し込む自室のテラスで、ルーカスは極厚のスプリングベッドの上で大きく背伸びをした。
「二重サッシ」に守られた室内の温度は絶妙な22度、湿度は55%。
足元からは「床暖房」が心地よい温もりを伝え、「魔導加湿空気清浄機」からはい草とアロマの澄み切った空気が噴き出している。
膝の上には、膝枕の体勢で丸くなってスースーと気持ちよさそうに寝息を立てるシャドウキャットのミミ。
傍らのサイドテーブルには、ザハールの焼き立てフワフワ食パンと、冷えたフルーツミルク、そして湯気を立てる特製ハーブティーが置かれていた。
「うん……風邪の心配もゼロ、怪我の危険もゼロ、不審者や戦争の恐怖もゼロ。前世の病室でずっと憧れていた、完璧な『ぬくぬく長生きライフ』がここにあるよ」
ルーカスは温かいハーブティーを一口すすり、心からの満足感に包まれて微笑んだ。
カチャン。
静かにドアが開かれ、温かい笑顔を浮かべた家族たちが室内に入ってきた。
「ルーカス、体調はいかがかい? 今朝採れたてのイチゴと、温かい肉まんを持ってきたよ」
父アロイスが優しく微笑み、母エレナが淹れたての紅茶を注いでくれる。
「ルーカス、今日も顔色が良くて何よりだ。庭の警備も、自動防犯ゲートも完璧だから安心してね」
兄のカイルが、脱力の極意を極めた凛とした佇まいで優しく頭を撫でてくれる。
「お兄様! 本日届きました全世界からの感謝の言葉と、お兄様のファンクラブ会員数が一億人を突破したご報告ですわーッ!」
妹のリリィが、天使のような大爆笑の笑顔でメモ帳を掲げて跳びはねる。
「あはは、ファンクラブ一億人は流石に多すぎるよリリィ……」
ルーカスが苦笑していると、部屋の扉がババァンッ! と勢いよく開かれ、これまでルーカスのボヤキを形にしてきた暴走従者たちが一斉に雪崩れ込んできた。
「ルーカス様! 国防総監ラグナル、全世界の平和見張り網の巡回を完了いたしました!」
「技術開発部のギドとブラムも、世界中のパビリオンの永久メンテナンス体制を整えましたぞ!」
「衛生長官クララ、全領内の完全無菌消毒を本日も完璧に完了いたしましたわ!」
「バルデン商業ギルドのシルヴィアです! 本日の領地収益だけで、小国の国家予算を超えましたわッ!」
50名を超える凄腕の従者たち、そして世界中の最高要人たちが、画面越しや廊下からルーカスに向かって深々と敬礼し、誇らしげな笑顔を向けている。
彼らの瞳に宿っているのは、威圧感でも野心でもない。
この温かく優しい少年——ルーカス・フォン・バルデンへの、溢れんばかりの愛と絶対の忠誠心であった。
ルーカスは特製クッションを抱きしめ、集まった愛する家族と仲間たちの笑顔を一人一人見つめた。
(……そっか。僕はただ、病気にならず、怪我をせず、温かいお部屋でみんなと楽しく長生きしたかっただけだったけど……。みんながこんなに笑顔になって、世界中が平和で安全になったなら……これ以上の幸せはないよね)
ルーカスは手にしたハーブティーを飲み干し、ふかふかのベッドの真ん中に身を沈め、世界で一番幸せそうな笑みを浮かべた。
「みんな、本当にありがとう。……でも、僕はこれからも部屋から一歩も出ずに、永遠にこのベッドでぬくぬく長生きさせてもらうからね!」
少年のささやかなボヤキから始まった大騒動は、世界の歴史を優しく塗り替え、愛と笑顔に包まれた完璧な常春の楽園で、これからもどこまでも続いていくのだった。
(第三章・完)
第3章のエピソードをここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。
ルーカスのボヤキと、加速する勘違いによる領地の発展をお楽しみいただけたでしょうか?
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