第46話:万博のパビリオンが一瞬で立ち上がり、世界中の要人が大集結しているんだが
「……ねえリリィ。夢なら早く醒めてほしいんだけど、なんで我が家の隣の平原に、お城より巨大な各国の展示館がいくつも並んでるの?」
バルデン子爵領となった我が家のテラスで、ルーカスは温かいハーブティーのカップを握りしめたまま、窓の外に広がる異次元の光景に白目を剥いていた。
わずか数日前までただの広い平原だった場所には、ドワーフのブラム率いる建設隊と各国の最先端技術陣が結集し、見上げるような巨大パビリオン群が一瞬で組み上げられていた。
黄金に輝くアルカディア王国館、超合金と魔導ギアが蠢くエストリア帝国館、神聖なアロマと光が満ちるルミナス聖国館、そして本物の大樹が聳え立つ大樹のエルフ館——。
「お兄様! 完成いたしましたわ!」
妹のリリィが、メモ帳を胸に抱えて目を輝かせる。
「『バルデン世界未来博覧会』のメイン会場ですわ! 世界中からドワーフ、エルフ、人間、獣人の最高の建築技師や職人たちが集まり、お兄様の『全人類が協力する未来』のご神託に応えて昼夜を忘れて建設してくださいましたの!」
「地球の万博だって準備に何年もかかるのに、一週間でパビリオンが立ち上がっちゃってるーーーーッ!?」
ルーカスは頭を抱えて悲鳴を上げた。
「嫌だ嫌だ! こんな巨大なイベント、混雑で押しつぶされたり、歩き疲れて足腰を痛めたら大変じゃないか! 広い会場を延々と歩かされたら疲労で免疫力が下がって病気になっちゃうよ……!」
ルーカスはテラスの特製クッションに体を埋め、前世で観た万博のテレビ映像を思い出してポロリとボヤいた。
「はぁ……会場が広いなら、前世の『動く歩道』みたいに、立っているだけで目的のパビリオンまで滑るように運んでくれる床があれば、お年寄りも子供も全然疲れないのに。それに、各パビリオンを巡る『スタンプラリー』で記念スタンプを集めたり、世界中の名物料理を食べ歩ける『世界屋台街』があれば、誰も喧嘩せずに笑顔で回れて長生きできるのになぁ……」
広い会場での歩行疲労と混雑によるストレスを恐れ、安全で快適な会場巡りを求める少年の、切実で平和第一なボヤキ。
……のはずだった。
(立っているだけで全人類を目的の聖域へ誘う神の動く床……! 各国の平和の証を刻印する記念印章! そして全国家の至高の美味が一堂に集う天上の饗宴(世界屋台街)……!?)
テラスの物陰で、冷え冷えの果汁ソーダを用意していた侍女リリィの瞳が、眩いばかりの光を解き放った。
カリカリカリカリカリッ……!
「すごいですわお兄様……! 各国のパビリオンを作るだけでなく、来場者全員の足の疲れをゼロにし、食と体験で世界をひとつにする『万博体験&快適移動の大革新』まで見据えておられるなんて……! 私、すぐに建築長のブラムさんと大商人シルヴィアさんに伝えなくっちゃ!」
目を輝かせた天使(妹)は、ソーダのグラスをそっと置くと、万博会場の施工本部へと爆走していった。
◇
「——なんですって……!? 線路や車輪を使わず、魔導磁気ベルトで人が立っているだけで秒速2メートルで滑るように移動する『|バルデン・ムービングウォーク《動く床》』だと……!?」
万博会場の施工本部。
ドワーフの建築長ブラム(210歳)と、騎兵隊長ヴァルター(30歳)は、リリィのメモ帳を取り囲み、狂喜の叫びを上げていた。
「ヴァルター殿! この磁気動力を主要通路全域に敷き詰めれば……広い万博会場を歩かずに1秒で周遊できるぞ!」
「ブラム殿! シルヴィア殿に頼んで、各パビリオンの限定印鑑が押せる『魔導スタンプブック』と、全世界のB級グルメが並ぶ『バルデン世界屋台街』も一瞬で整備しようッ!」
熱血漢の技術&商業チームは血走りながら、会場全域の快適ハイテク化へと突入した。
◇
数日後、いよいよ『第1回・バルデン世界未来博覧会』の開幕日。
「……ねえ、なんで敷地内の通路全体がコンベアみたいに滑らかに動いてて、みんな紙のノートに光るスタンプを押しながら串焼き食べてるの?」
自室でハーブティーを飲んでいたルーカスは、窓の外のあり得ない大盛況ぶりに白目を剥いていた。
会場内のメインストリートには、ブラムたちが完成させた「動く歩道」が果てしなく伸びており、来場者たちは立っているだけで風を感じながら快適に各パビリオンへ運ばれていた。
人々は手に手に「記念スタンプブック」を持ち、各国パビリオンの光る魔法スタンプを集めながら、屋台街で焼かれる異世界の串焼きや甘いスイーツに舌鼓を打っている。
「ルーカス様! 完成いたしました!」
大商人シルヴィアが、黄金のスタンプブックを掲げて駆け込んできた。
「『動く歩道』の導入により、広大な会場内での歩行疲労事故は完全ゼロ!『スタンプラリー』と『世界屋台街』は大熱狂で、国種族の垣根を超えて笑顔で交流が行われておりますわ!」
「歩く手間すらゼロになってる!?」
ルーカスが驚嘆していると、自室の『全自動遠隔拝謁陣』がピコンッと音を立てて発光した。
画面には、開会宣言を行うために万博メインステージに集結した、アルカディア国王、帝国皇帝、聖国教皇、エルフ国王をはじめとする世界中の最高要人たちがズラリと映し出されていた。
『創世の神童・ルーカス子爵殿! この『動く歩道』も『スタンプラリー』も『世界屋台街』も見事というほかない! 初日だけで来場者は『三千万人』を突破したぞ!!』
「さ、三千万人ーーーッ!?」
ルーカスは悲鳴を上げ、特製クッションで顔を覆った。
「あ、あれ……? 僕はただ……広い会場で歩き疲れたくなかっただけなのに……なんで我が家が『全世界から3000万人が集まる超巨大博覧会』になってるの……!?」
歩き疲れを恐れた少年のささやかなボヤキは、万博会場を世界最高の快適テーマパークへと進化させ、物語はいよいよ感動のクライマックス(平和協定締結)へとなだれ込んでいくのだった。
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