第45話:みんなで技術を持ち寄ってフェスをすれば平和なのにとボヤいたら、世界未来博覧会が開幕するらしい
「はぁ〜……防犯カメラで街の安全も完璧だし、お部屋の居心地も最高なんだけどなぁ」
バルデン子爵領となった我が家のテラスで、ルーカスは温かいハーブティーを飲みながら、ふかふかの特製クッションに体を埋めて深々と溜息をついた。
サスペンション馬車、超高速魔導列車、防犯カメラ、極楽スパ、そして美味しいラーメンやファミレス……。
我が領地の快適さと治安の良さは、もはや世界のどこを探しても存在しない絶対の領域に達していた。
だが、それゆえの新たな問題がルーカスを悩ませていた。
「アルカディア王国だけじゃなくて、エストリア帝国もルミナス聖国も大樹の国も、みんなバルデン領の技術や食べ物を求めて遠征してきたり、技術競争みたいになっちゃってるんだよね。万が一、軍事的な緊張が高まって争いごとになっちゃったら、せっかくの平和な暮らしが台無しになっちゃうよ……」
ルーカスはカップを置き、前世でテレビで観たあの世界最大級の平和の祭典を思い出してポロリと呟いた。
「お互いに技術を秘密にしたり武力で争うくらいなら、前世の『万国博覧会』みたいに、各国の自慢の技術や美味しい料理、美しい文化を一つの場所に持ち寄って、平和に発表し合う『未来博』を開けばいいのに。みんなで『すごいね!』って褒め合って笑顔になれば、争いごともゼロになって、世界中が平和になって元気に長生きできるのになぁ……」
各国の対立や戦争のリスクを回避し、平和的な文化交流で世界平和を保ちたい少年の、切実で安全第一なボヤキ。
……のはずだった。
(全国家の智恵と文明を結集させ戦争の愚かさを消滅させる神の聖大祭(万国博覧会)……! そして全人類が手を携えて未来を紡ぐ奇跡の平和聖域……!?)
テラスの物陰で、最新の貿易協定書を整えていた妹リリィの瞳が、神々しいまでの光を解き放った。
カリカリカリカリカリッ……!
「すごいですわお兄様……! ひとつの領地の発展にとどまらず、全世界の国家と種族を巻き込んで戦争を永遠に過去のものとする『全世界未来平和大革新』まで見据えておられるなんて……! 私、すぐに大商人のシルヴィアさんと会計士のアンドレさんに伝えなくっちゃ!」
目を輝かせた天使(妹)は、書類を置くと、商業ギルドの本部へと爆走していった。
◇
「——なんですって……!? 世界中の国々や種族が自慢の最新技術と製品を持ち寄り、平和的に競い合う『|バルデン世界未来博覧会《万国博覧会》』だと……!?」
バルデン商業ギルドの執務室。
大商人シルヴィア(28歳)と会計士アンドレ(31歳)は、リリィのメモ帳を取り囲み、興奮のあまり血走りながら机を激しく叩いていた。
「アンドレ! ルーカス様のご神託通りよ! これは単なるお祭りではない……世界中の富、技術、そして平和の主導権を、我がバルデン領が完璧に掌握する世紀の大ビジネスイベントになるわッ!」
「シルヴィア様! 今すぐ会場の建設用地を試算し、アルカディア王国、エストリア帝国、ルミナス聖国、大樹のエルフの国へ『第一回・世界未来博覧会・出展招請状』を打診いたしますわッ!」
二人は狂喜乱舞しながら、全世界規模の超大型プロジェクトへと突入した。
◇
数日後。
「……ねえ、なんで我が家の隣の広大な平原で、山みたいな骨組みがいくつも立ち上がってて、お祭りみたいな横断幕が躍ってるの?」
自室でハーブティーを飲んでいたルーカスは、窓の外のあり得ない大規模工事現場に白目を剥いていた。
庭の隣の敷地では、ドワーフのブラム率いる建設隊が、見上げるような巨大ドームや幾層ものパビリオンの骨組みを爆速で組み上げていた。
「ルーカス様! 完成いたしました!」
大商人シルヴィアが、黄金の招待状を手に胸を張って駆け込んできた。
「ルーカス様のご神託により、来月より開幕いたします『第1回・バルデン世界未来博覧会』の開催準備が整いましたわ!」
「本当に万博開催することになっちゃってるの!?」
ルーカスが慄いていると、自室の『全自動遠隔拝謁陣』がピコンッと音を立てて発光した。
画面には、アルカディア国王、エストリア帝国皇帝ジークフリート、ルミナス教の教皇クレメンス、そして大樹のエルフ国王セルフィアという、全世界の最高首脳陣がズラリと勢揃いしていた。
『創世の神童・ルーカス子爵殿! あの世界中の技術を持ち寄る『未来博覧会』の計画を拝見したぞ! 我がアルカディア王国は国家の威信をかけて最大のパビリオンを出展する!』
『ふはは! 我がエストリア帝国も、自慢の超合金技術と軍民両用魔導具を出展させてもらうぞ! 争いではなく技術の美しさで競うなど、実に素晴らしい!』
『ルミナス聖国も『聖なる衛生と救済』の技術を出展いたしますぞ! ルーカス様との平和の誓約、心より感謝申し上げます!』
「全国家のトップが大ノリノリでパビリオン作ろうとしてるーーーーッ!?」
ルーカスは悲鳴を上げ、特製クッションで顔を覆った。
「あ、あれ……? 僕はただ……みんなで喧嘩しないで、美味しいものや凄い技術を持ち寄って平和に過ごしたかっただけなのに……なんで我が家が『世界初の万国博覧会&世界平和のメインステージ』になってるの……!?」
争いごとの恐怖を避けた少年のささやかなボヤキは、世界の歴史を「地球規模の平和と未来」へ向けて大爆進させ、物語はいよいよ感動のクライマックスへと突き進んでいくのだった。
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