第43話:観葉植物で空気を良くしたいだけなのに、エルフの国と巨大植物園を作ることになった
「はぁ〜……エアコンや加湿器でお部屋の温度や湿度はバッチリなんだけどね」
バルデン子爵領となった我が家のテラスで、ルーカスはふかふかの特製クッションに身を委ね、気持ちよさそうに目を細めていた。
サスペンション馬車や超高速魔導列車、極楽温泉、美味しい豚骨ラーメンのおかげで、我が領地の快適さは留まるところを知らない。
だが、ルーカスにはお部屋の環境において、もうひとつだけ欲しているものがあった。
「やっぱりお部屋に緑の葉っぱがあると、目が癒やされるし空気もさらに澄むんだよね。前世の『観葉植物』や、森の中を歩く『森林浴』みたいに、植物が放出するフィトンチッドやマイナスイオンを浴びられれば、ストレスも綺麗サッパリ消えて自律神経も整って元気に長生きできるのに……」
ルーカスはハーブティーを一口すすり、緑豊かな景色を遠くに見やりながらポロリと呟いた。
「それに、世界の珍しいお花や薬草、大きな熱帯植物を安全に鑑賞できる温室の『植物園』があれば、みんなで散歩しながら癒やされて免疫力も上がるのになぁ……」
お部屋の空気清浄と、ストレス解消による自律神経の安定を心から求める少年の、切実で健康第一なボヤキ。
……のはずだった。
(室内の空気に聖なる生命力を満たし魂の不調を治癒する神の観葉植物……! そして全樹木の霊気を結集させ全人類の精神を解放する奇跡の聖樹園……!?)
テラスの物陰で、新しく届いたミントのハーブを摘んでいた妹リリィの瞳が、神々しいまでの光を解き放った。
カリカリカリカリカリッ……!
「すごいですわお兄様……! 二重サッシや加湿器を超えて、植物の命そのもので全領民の精神と自律神経を救済する『植物環境&アロマテラピーの大革命』まで見据えておられるなんて……! 私、すぐに薬師のフィオナさんと育種家のユーゴさんに伝えなくっちゃ!」
目を輝かせた天使(妹)は、ハーブの籠をそっと置くと、館の薬草研究室へと爆走していった。
◇
「——なんですって……!? 室内に観葉植物を配し、フィトンチッドとマイナスイオンで精神の不調を根治する『|バルデン式・生体空気清浄《観葉植物》』だと……!?」
男爵領の薬草研究室。
ハイエルフの薬師フィオナ(推定300歳)と薬草育種家のユーゴ(25歳)は、リリィのメモ帳を凝視したまま激しく震えていた。
「ユーゴ! ルーカス様のおっしゃる通りよ! これまでエルフの森でしか得られなかった癒やしの霊気を、室内や巨大温室で再現するという神のご神託……!」
「フィオナさん! 今すぐ『大樹の国』のエルフ国王セルフィア様に連絡を取りましょう! 大樹の国の秘宝植物とバルデン領の魔導温室が合体すれば、世界最高の植物園ができるぞぁぁぁッ!」
◇
数日後。
「……ねえ、なんで我が家の庭の隣に、巨大なガラスドームのジャングルみたいな建物が建ってて、綺麗な金髪のエルフさんたちが大勢でお花を植えてるの?」
自室でハーブティーを飲んでいたルーカスは、窓の外のあり得ない巨大植物園に白目を剥いていた。
庭の隣にオープンしたのは、全天候型『|バルデン・ボタニカルガーデン《大樹と光の巨大植物園》』であった。
ドーム内には世界中の珍しい観葉植物や色とりどりの花々が咲き誇り、滝からは清らかな水が流れ落ちて澄み切ったマイナスイオンとアロマの香りが充満している。
「ルーカス様! 完成いたしました!」
ハイエルフのフィオナが、神々しい衣装に身を包んだ優美な男性を伴って駆け込んできた。
男性は深々と頭を下げた。
「初めまして、創世の神童ルーカス殿。私は『大樹の国』の国王セルフィアにございます。ルーカス殿の『観葉植物と森林浴による精神救済』の理念に深く感銘を受け、自ら大樹の国の聖なる樹木の苗木を携えて参りました」
「エルフの国王様が直接来ちゃってるのーーーッ!?」
エルフ国王セルフィアは、感涙にむせびながらルーカスの手を握りしめた。
「この巨大植物園では、我が国の秘宝『アロマ精油』とルーカス殿の観葉植物が融合し、足を踏み入れるだけであらゆる精神的疲労が癒やされます! これぞ文明と自然が完璧に調和した『地上天国』にございます!」
「植物園がハイクオリティすぎる……!」
ルーカスが至福のアロマの空気を吸い込んで感動していると、画面の『全自動遠隔拝謁陣』がピコンッと音を立てて発光した。
画面には、ストレスに悩む王都の過労気味の官僚たちや、精神の安らぎを求める各国の貴族たち、さらには植物学ギルドの幹部たちがズラリと映し出されていた。
『創世の神童・ルーカス子爵様! あのエルフの国と共同開発した『巨大植物園』と『観葉植物アロマ』の映像を拝見しましたぞ!』
『我が国の王族も『あの植物園で森林浴をして癒やされたい』と大絶叫しております! 今すぐ全アロマセラピスト・植物学者五千名でバルデン領へ大遠征を開始いたしました!!』
「五千人のヒーラーと学者が押し寄せてくるのーーーーッ!?」
ルーカスは悲鳴を上げ、特製クッションで顔を覆った。
「あ、あれ……? 僕はただ……お部屋の空気を良くして、植物で癒やされたかっただけなのに……なんで我が家が『世界最高峰の森林浴&ボタニカルヒーリングの聖地』になってるの……!?」
お部屋の癒やしを求めた少年のささやかなボヤキは、エルフの国をも巻き込んで「ボタニカルブーム」を爆誕生させ、またしても世界中を大歓喜と癒やしの渦へと巻き込んでいくのだった。
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