第41話:夏の水遊びを楽しみたいだけなのに、巨大ウォータースパが開園していたんだが
「あちち……本格的に夏本番って感じの日差しになってきたなぁ」
バルデン子爵領となった我が家のテラスで、ルーカスは冷たいハーブティーを喉に流し込み、日ブレラ(日傘)の影でふぅと息を吐いた。
二重サッシと魔導エアコンのおかげで自室は22度の快適な常春空間に保たれているが、一歩テラスに出ると、初夏のポカポカ陽気を通り越して、ジリジリと肌を焼くような真夏の猛暑が押し寄せてきていた。
「この暑さだと、熱中症で倒れる人が出かねないんだよね。水分補給だけじゃなくて、体全体を冷やす水遊びで楽しく体温を下げられれば最高なんだけど……川や海は流されたり深みにハマって溺れる危険があるから、安全第一の僕としては絶対に行きたくないんだ」
ルーカスはハーブティーのグラスに浮かぶ氷をカランと鳴らし、前世で夏休みに行ったテーマパークのプールを思い出してポロリと呟いた。
「前世の『流水プール』や『滑水筒』みたいに、浅くて足が届く安全なコースを温水と冷水がゆったり流れていて、浮き輪に乗ってプカプカ浮かんでいるだけで体温が下がってリフレッシュできる施設があればいいのに。カーブや落差のあるチューブを水と一緒に滑り降りる巨大スライダーがあれば、みんな笑顔でストレス解消できて免疫力も爆上がりで長生きできるのになぁ……」
熱中症の予防と、川や海での水難事故ゼロを心から求める少年の、切実で安全第一なボヤキ。
……のはずだった。
(全人類を灼熱の熱病から救い溺死の運命をゼロにする神の流導水路(流れるプール)……! そして高所より水流とともに至福の滑走を体感させる奇跡の滑水筒……!?)
テラスの物陰で、冷え冷えの特製カットスイカを運んできていた侍女リリィの瞳が、眩いばかりの光を解き放った。
カリカリカリカリカリッ……!
「すごいですわお兄様……! 熱中症予防だけでなく、夏の水難事故を根本から排除し全領民に最高の清涼をもたらす『水上エンタメ&安全避暑の大革命』まで見据えておられるなんて……! 私、すぐに入浴管理のハンナさんと配管工のマルクさんに伝えなくっちゃ!」
目を輝かせた天使(妹)は、スイカの皿をそっと置くと、館の地下大浴場へと爆走していった。
◇
「——なんですって……!? 足が届く安全な深さの水路に魔導水流を発生させ、浮き輪でゆったり流れる『バルデン流導清流』だと……!?」
男爵家の配管室。
入浴管理係の侍女ハンナ(22歳)と配管工マルク(32歳)は、リリィのメモ帳を取り囲み、感涙にむせび泣いていた。
「ハンナさん! 水循環魔法陣と温度調整バルブを組み合わせれば、冷たすぎずぬるすぎない絶妙な常温水流を永久循環させられるぞ!」
「素晴らしいわマルクさん! 巨大なツイスターチューブを組み上げて、落差とスリルを味わえる『天空滑水魔導筒』も同時に建設しましょうッ!」
熱血漢の配管&スパ職人たちは血走りながら、巨大ウォーターパークの爆速建設へと突入した。
◇
数日後。
「……ねえ、なんで我が家の庭の隣に、巨大な水のテーマパークが広がってて、空中にうねうね曲がった青いパイプが張り巡らされてるの?」
自室でハーブティーを飲んでいたルーカスは、窓の外のあり得ない巨大レジャー施設に白目を剥いていた。
庭の隣の広大な敷地にオープンしたのは、全天候・全年齢対応型『バルデン極楽ウォータースパ&スライダー』であった。
ぐるりと一周する流れるプールでは、カラフルなドーナツ型の浮き輪に乗った領民や子供たちが、プカプカと心地よさそうに水流に揺られている。水深は子供の腰ほどしかなく、転んでも溺れる心配はゼロだ。
さらに見上げれば、地上30メートルの高台から何重ものカーブを描いて巨大なプールへと飛び込む、スリル満点の大型透明ウォータースライダーが何本もそびえ立っていた。
「ルーカス様! 完成いたしました!」
入浴管理のハンナが、水着の上に爽やかなパーカーを羽織って駆け込んできた。
「ルーカス様のご神託をもとに完成いたしました! 『バルデン・アクアリゾート』にございます! 水質は無菌殺菌済み、水温は絶妙な28度、水難事故対策の自動浮力魔法陣も完璧に完備されております!」
「安全対策が完璧すぎる……!」
ルーカスはおずおずと浮き輪を抱え、流れるプールへと入ってみた。
「……ふぁぁぁあ! 水が冷たすぎなくて気持ちいい〜っ! 浮き輪に身を任せて流れてるだけで、体の熱がスーッと引いていくよ……!」
ルーカスがプカプカと至福の表情で流されていると、巨大スライダーの出口から「キャァァァーッ!」という歓声とともに、水しぶきを上げて子供たちが飛び出してきた。
「スライダーもめちゃくちゃ楽しそう……ッ!」
ルーカスが水遊びを満喫していると、プールの壁面に設置された『全自動遠隔拝謁陣』がピコンッと音を立てて発光した。
画面には、真夏の猛暑に喘ぐ各国の王族たちや、避暑地の観光業者、さらには水泳ギルドの幹部たちがズラリと映し出されていた。
『創世の神童・ルーカス子爵様! あの事故ゼロで安全に涼める『流れるプール』と『スライダー』の映像を拝見しましたぞ!』
『我が国の王族も『この夏はバルデンのプールで過ごしたい』と大熱狂しております! 今すぐ全避暑地オーナー・観光業者四千名でバルデン領へ大遠征を開始いたしました!!』
「四千人の避暑客が押し寄せてくるのーーーーッ!?」
ルーカスは悲鳴を上げ、浮き輪を強く抱きしめた。
「あ、あれ……? 僕はただ……猛暑で熱中症にならずに、安全に水遊びがしたかっただけなのに……なんで我が家が『世界最高の巨大ウォータースパ&避暑の聖地』になってるの……!?」
夏の暑さを吹き飛ばしたい少年のささやかなボヤキは、王国のレジャー産業に「ウォーターパーク時代」を爆誕生させ、またしても世界中を歓喜と清涼の渦へと巻き込んでいくのだった。
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