第38話:冷たいかき氷で涼みたいだけなのに、ファミリーレストランが大行列になっているんだが
「ふぅ……初夏の風は気持ちいいけど、日差しがだんだん強くなってきたなぁ」
バルデン子爵領となった我が家のテラスで、ルーカスはふかふかの特製クッションを抱えながら、青く澄み渡る初夏の空を見上げていた。
サスペンション馬車、超高速魔導列車、そして地熱融雪街道のおかげで領内の移動は快適そのもの。
だが、季節が初夏へと移り変わるにつれ、じわりと蒸し暑い日が増えてきていた。
「暑い日は、やっぱり冷たいおやつで体温を下げたいよねぇ。前世の『かき氷』みたいに、氷をカンナで削ったみたいに極薄のフワフワにして、イチゴや抹茶、練乳の甘〜いシロップをたっぷりかけて食べるの。冷たくて口の中でスッと消えるフワフワ氷を食べれば、熱中症予防にもなるし食欲も落ちずに元気に長生きできるのに……」
ルーカスは温かいハーブティーを一口すすり、さらに窓から見下ろせる賑やかな街並みを眺めてぽつりと呟いた。
「それにさ、お外で外食するとき、和食が食べたい人、洋食が食べたい人、デザートが食べたい人が別々の店に行くのって地味に大変なんだよね。前世の『ファミリーレストラン』みたいに、一箇所のお店でラーメンもハンバーグもオムライスもかき氷も全部頼めて、広いソファ席で家族みんなで好きなものをワイワイ食べられるお店があれば、誰も我慢せずにみんな笑顔で長生きできるのになぁ……」
初夏の暑さによる体調崩れを防ぎ、家族みんなで快適に食事を楽しみたいという少年の、切実で平和第一なボヤキ。
……のはずだった。
(極寒の氷結晶を神の薄刃で削り出し魂を冷却する聖なる氷華(かき氷)……! そして全人類のあらゆる欲望と好みを一堂に満たす奇跡の聖食堂……!?)
テラスの物陰で、冷やしハーブティーのポッドを運んできていた妹リリィの瞳が、神々しいまでの光を解き放った。
カリカリカリカリカリッ……!
「すごいですわお兄様……! 熱中症を防ぐ極上おやつだけでなく、世代や好みの垣根を超えて全人類が同時に幸福になれる『外食産業の至高・ファミレス革命』まで見据えておられるなんて……! 私、すぐに錬金術師のギドさんと調理長のウィルさんに伝えなくっちゃ!」
目を輝かせた天使(妹)は、ポッドを置くと館の地下開発室へと爆走していった。
◇
「——なんですって……!? 超低温魔導製氷機でつくった純氷を、超精密ミクロン刃で鉋のように薄く削り、絹のようにフワフワな氷にする『|バルデン式・極光製氷機《かき氷機》』だと……!?」
男爵家の地下開発室。
錬金術師ギド(26歳)と製菓師ウィル(35歳)は、リリィのメモ帳を凝視しながら肩を抱き合って歓喜の叫びを上げていた。
「ギド殿! 俺が煮詰めた特製イチゴシロップと熟成練乳をそのフワフワ氷にかければ……口に入れた瞬間に雪のように消える至高の氷菓子ができるぞ!」
「フハハハ! ウィル殿! さらにハンナ殿やヴァレンティン殿の料理を全網羅した、全メニュー対応型メニュー表(タッチパネル風羊皮紙)を組み合わせれば……世界初の『バルデン・ファミリーレストラン』の完成だぁぁぁッ!」
二人は血走りながら、全領地初のファミレス建設へと突入した。
◇
数日後。
「……ねえ、なんで我が家の隣に『ファミレス・バルデン1号店』っていう巨大な赤い看板のお店が建ってて、何百人も並んでるの?」
自室でハーブティーを飲んでいたルーカスは、窓の外のあり得ない大行列に白目を剥いていた。
庭の隣にオープンした『バルデン・ファミリーレストラン1号店』の広大な店内には、ふかふかのボックスソファ席がズラリと立ち並んでいた。
テーブルには、ラーメン、ハンバーグ、オムライス、ピザ、そしてフワフワのかき氷まで写真付きでズラリと並んだ豪華なメニュー表が置かれている。
「ルーカス様! 完成いたしました!」
製菓師ウィルが、山のように高く盛られた真っ白でフワフワな氷に、真っ赤なイチゴシロップとトロトロの練乳がたっぷりかかった器を恭しく運んできた。
「ルーカス様のご神託をもとに完成いたしました! 『バルデン極上・至高のフワフワいちご練乳かき氷』にございます!」
ルーカスはおずおずとスプーンですくい、口に運んだ。
「……っ!? ガリガリしてない! まるで新雪を食べてるみたいにフワッフワで、口の中でスッと消える……ッ! イチゴの酸味と練乳の甘さが最高だよ!」
ルーカスが至福の表情でかき氷を頬張っていると、画面の『全自動遠隔拝謁陣』がピコンッと音を立てて発光した。
画面には、王都の貴族ファミリーや、子供の好き嫌いに悩んでいた異国の王族たちがズラリと映し出されていた。
『創世の神童・ルーカス子爵様! あの『フワフワのかき氷』と、家族全員の好きなお料理が一度に食べられる『ファミリーレストラン』の噂を聞きましたぞ!』
『我が国の王族も『家族みんなでファミレスに行きたい』と大熱狂しております! 今すぐ全飲食ギルドのオーナー三千名をバルデン領へ研修に向かわせました!!』
「三千人がファミレスの研修に来るのーーーーッ!?」
ルーカスは悲鳴を上げ、特製クッションで顔を覆った。
「あ、あれ……? 僕はただ……冷たいかき氷で涼んで、みんなで楽しくご飯が食べたかっただけなのに……なんで我が家が『世界初のファミリーレストラン&かき氷の聖地』になってるの……!?」
初夏の暑さを吹き飛ばしたい少年のささやかなボヤキは、王国の外食産業を「ファミレス時代」へと突入させ、またしても世界中を美味と歓喜の渦へと巻き込んでいくのだった。
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