第31話:豪雪と転倒事故を恐れた少年のボヤキが、地熱融雪道路とホカホカ肉まんを爆誕生させたお話
「ひ、ひえぇぇ……! 外がすっかり白銀の世界になっちゃってる……!」
自室の二重サッシの窓から外を見下ろし、ルーカスは青ざめた顔で身を縮こまらせた。
バルデン男爵領に、ついに本格的な「大雪の季節」が到来していた。
一晩で街や街道は深い雪で覆われ、屋根からは立派な氷柱が突き出している。
テラスに出て積もりたての雪を踏みしめようとしたルーカスだったが、一歩踏み出した瞬間に靴下がツルッと滑りそうになり、ヒヤッと心臓が跳ね上がった。
「危ない危ない危ない……! 冬の雪道は『転倒事故』の危険がいっぱいなんだよ! もし凍った道で滑って転んだら、手首や足首を骨折したり頭を強く打っちゃうでしょ! それに屋根からの落雪が直撃したら命に関わるよ……!」
ルーカスは慌てて室内へ退避し、床暖房の効いた絨毯の上にペタリと座り込んでハーブティーをすすった。
「はぁ……前世の雪国にあった『融雪道路』みたいに、温泉の排熱や地熱パイプを街道のコンクリート下に張り巡らせて、降り積もる雪を端からサッと溶かして乾燥させてくれればいいのに。そうすれば誰も転ばないし、雪かきの重労働で腰を痛めることもないのに……」
さらに、ルーカスはお腹をさすりながら、前世の冬のコンビニや街角の景色を思い出してポロリと呟いた。
「それに、寒い冬の外を歩くときは、フーフーしながらかじりつく『中華まん』や、ホクホクの『焼き芋』が一番だよね。フワフワの温かい生地の中に旨味たっぷりの肉餡や甘い小豆が詰まってて、一口食べれば指先からお腹の中までポッカポカになるのに……」
積雪による転倒骨折事故と雪かきの重労働を心から恐れ、冬のホカホカなおやつを求める少年の、切実で安全第一なボヤキ。
……のはずだった。
(街全体の地面に温熱陣を張り巡らせ邪雪を一瞬で消滅させる神の消雪陣(融雪道路)……! そして手先と内臓を一瞬で至福の熱気で満たす奇跡の聖包(肉まん・あんまん)……!?)
ドアの陰で、温かい加湿用のお湯を補充しに来ていた妹リリィの目が、神々しいまでの光を放った。
カリカリカリカリカリッ……!
「すごいですわお兄様……! 寒さ対策だけでなく、雪国の最大の宿命である『凍結転倒事故』と『積雪の苦労』を根本から消し去り、冬の街歩きを至福に変える『都市インフラ&冬のホカホカグルメ革命』まで見据えておられるなんて……! 私、すぐに石工のペーターさんと配管工のマルクさん、それにパン屋のザハールさんに伝えなくっちゃ!」
目を輝かせた天使(妹)は、メモ帳を抱えて積もった雪を蹴散らす勢いで街へと爆走していった。
◇
「——なんですって……!? 街道の下に温泉の温水パイプを敷き詰め、積もった雪を一瞬で溶かして道路を常に乾燥させる『バルデン地熱融雪街道』だと……!?」
男爵領の街道工事現場。
石工ペーター(28歳)と配管工マルク(32歳)は、リリィのメモ帳を挟んで雪の中で熱く抱き合っていた。
「ペーター殿! 温泉街から出る排熱温水をこのコンクリート層の下に流せば……雪が降ったそばから溶けて消えるぞ!」
「マルク殿! これがあれば雪かき作業は完全ゼロ! お年寄りも子供も、冬の間ずっと転ばずに安心して街を歩けるぞぁぁぁッ!」
一方その頃。男爵領の街のパン屋『ザハール堂』と厨房では——。
「小麦生地にイースト酵母のフワフワ発酵を加え、旨味たっぷりの特製肉餡と甘い小豆餡を包んで蒸し上げる『|バルデン特製ホカホカ肉まん&あんまん《蒸し包子》』だと……!?」
パン屋ザハール(50歳)と調理長ヴァレンティン(38歳)が、蒸気あふれる巨大なセイロを取り囲んで歓喜の叫びを上げていた。
「ヴァレンティン殿! 手で持ってフーフーしながら食べられるこの温かい包子は……冬の食べ歩きに革新をもたらすぞ!」
「ザハール殿! 庭師フレディ殿が温室で育てた蜜甘芋の『ホクホク焼き芋』も同時に売り出そうッ!」
◇
数日後。
「……ねえ、なんで外は大雪なのに、我が家の前の街道だけ雪が一切積もってなくてカラッと乾いてるの?」
自室でハーブティーを飲んでいたルーカスは、窓から見下ろした街の異様な光景に白目を剥いていた。
領地全体を包むしんしんと降り続く雪。……にもかかわらず、ペーターとマルクが完成させた「地熱融雪街道」の上だけは、湯気がうっすら立ち上り、積もった雪が触れた瞬間にサッと溶けて、まるで初夏のように黒く乾いた舗装路がどこまでも伸びていた。
領民たちは厚手の服を着つつも、滑る恐怖ゼロで軽やかに街を行き交っている。
「すごい……! 全然滑らないし、雪かきもしなくていいんだ……!」
ルーカスが感動していると、セイロから上がる芳醇な湯気とともに、パン屋ザハールと調理長ヴァレンティンが特注の竹セイロを恭しく運んできた。
「ルーカス様! お待たせいたしました! 蒸したてホカホカの『バルデン特製・極上肉まん&とろけるあんまん』にございます!」
蓋を開けると、真っ白でフワフワな生地から、ジューシーな肉汁の香りとあずきの甘い香りが立ち上った。
ルーカスが手に取り、フーフーと息を吹きかけて熱々の肉まんを一口かじると——。
「……っ!? フワフワでモチモチ……! 中から肉汁がジュワッと溢れてきて、全身の細胞がポカポカ温まる……ッ! めちゃくちゃ美味しい!」
「ふはははは! 感謝いたしますルーカス様!」
見れば、雪に閉ざされて凍え切っていた王国の各都市から、「雪が積もらない奇跡の街道」と「ホカホカの肉まん・焼き芋」の噂を聞きつけた使節団や商人たちが雪崩のように押し寄せていた。
雪国でありながら、街道には雪がなく、人々がホカホカの肉まんを手に笑顔で食べ歩きを楽しむ「世界一温かく安全な冬の街」が完成していたのだ。
「また雪の中を人が押し寄せてるーーーーッ!?」
ルーカスは悲鳴を上げ、特製クッションを強く抱きしめた。
「あ、あれ……? 僕はただ……雪道で滑って転ぶのが怖くて、温かい肉まんが食べたかっただけなのに……なんで我が家が『世界唯一の積雪ゼロ&冬のホカホカグルメの聖地』になってるの……!?」
雪道の転倒と寒さを恐れた少年のささやかなボヤキは、王国の雪国の暮らしと冬の食文化を根底から覆し、いよいよ第二章のクライマックスへと突き進んでいくのだった。
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