第30話:初冬の猛烈な冷え込みに震える少年のボヤキが、貼る魔導カイロと絶品極楽鍋を爆誕生させたお話
「ひやぁぁぁ……っ! 手先と足先がキンキンに冷えて氷みたいだよ……!」
本格的な冬の足音が聞こえ始めたバルデン男爵領。
テラスの窓越しに見える山々はうっすらと白く雪化粧を始め、吹き抜ける風は頬を刺すように冷たくなっていた。
自室のハイテク加湿空気清浄機と二重サッシのおかげで、室温は快適そのもの……のはずだったが、テラスのドアをほんの数秒開けただけで、ルーカスの末端の血流は一瞬で冷え切ってしまった。
「部屋全体が温かくても、外に出たり廊下を歩くときに手足が冷えると、一気に体温が下がって免疫力が落ちちゃうんだよ……! 前世の『使い捨てカイロ』みたいに、服に貼っておくだけで数時間ポカポカ温めてくれる魔法のミニ温熱シートがあれば、冷え性も予防できて風邪なんて絶対ひかないのに……」
さらに、ルーカスはお腹をさすりながら、前世の冬の食卓を思い出してゴクリと唾を飲み込んだ。
「それに、寒い冬の夜はやっぱりみんなで大きな鍋を囲む『極楽鍋』が一番だよね。お魚や肉団子、甘い冬キャベツやキノコを温かいスープで煮込んで、フーフーしながら食べれば、お腹の中から全身ポカポカになって免疫力爆上がりなのに。あと、外出時の風邪予防に『立体衛生仮面』があれば、冷たい空気から喉も守れて完璧なんだけどなぁ……」
初冬の寒さによる冷え性と免疫力低下を何より恐れる少年の、切実で健康第一なボヤキ。
……のはずだった。
(体に貼るだけで持続的に体温を昇華させる神の保温陣(貼るカイロ)……! 呼吸とともに聖なるアロマと温気を巡らせる防護仮面(防菌マスク)! そして五臓六腑を温め命の源を充填する至高の神聖鍋(極楽鍋)……!?)
ドアの陰で、温かいホットミルクを運んできていた妹リリィの目が、爛々と神々しい光を放った。
カリカリカリカリカリッ……!
「すごいですわお兄様……! 部屋の空気を保つだけでなく、衣服・呼吸・食事というあらゆる角度から『冬の冷えと病魔を完璧にシャットアウトする冬期絶対防護体制』を編み出されるなんて……! 私、すぐに裁縫師のエマさんと料理長のヴァレンティンさん、それに衛生長官のクララさんに伝えなくっちゃ!」
目を輝かせた天使(妹)は、メモ帳を抱えて館の仕立て室と厨房へ爆走していった。
◇
「——なんですって……!? 発熱魔石の粉末と吸湿綿を極薄生地で包み、服の上から貼るだけで12時間ポカポカが続く『バルデン貼る魔導カイロ』だと……!?」
男爵家の仕立て室。
裁縫師エマ(19歳)は、リリィのメモ帳を握りしめ、目をギラギラと輝かせて叫んでいた。
「ルーカス様の手足を冷えからお守りするためなら、全力を尽くしますわ! ギド殿の微小発熱陣を練り込んだ極薄シート……即刻量産を開始いたしますッ!」
一方その頃。男爵家の厨房では——。
「魚介や肉の旨味出汁をベースに、採れたての冬野菜と特製肉団子を大鍋で煮込み、全員で囲んで食べる『バルデン極楽寄せ鍋』だと……!?」
料理長ヴァレンティン(38歳)が、巨大な土鍋を掲げて歓喜の涙を流していた。
「素晴らしい……! 一つの鍋を囲むことで家族の絆も深まり、温かい出汁と栄養が全身の細胞を細胞レベルで活性化させる……! 今すぐ試作を開始するぞッ!」
◇
数日後。
「……ねえ、なんで僕の背中とお腹がポカポカ温かくて、テーブルの上に巨大な土鍋がドーンと鎮座してるの?」
自室でハーブティーを飲んでいたルーカスは、手足の先までポカポカと温かい自分の体感温度と、目の前の豪華すぎる食卓に白目を剥いていた。
服の下には、エマが完成させた「バルデン貼る魔導カイロ」が装着されており、衣服越しにじんわりと心地よい適温(約40度)が全身を包み込んでいた。さらに、顔には呼吸を快適にする不織布風の「防菌アロママスク」が装着され、冷たい空気を一切通さない。
「すごい……! 手足が全然冷たくないし、息をするのもポカポカして気持ちいい……!」
ルーカスが感動していると、料理長ヴァレンティンが恭しく土鍋の蓋を開けた。
パカッ……!
ふわぁぁぁあ……ッ!
立ち上る芳醇な出汁の香りと湯気。そこには、プリプリの海鮮と旨味たっぷりの肉団子、フワフワの豆腐と甘い冬野菜が煮え立つ、完璧な「バルデン特製・極楽寄せ鍋」が完成していた。
ルーカスが器によそってもらい、フーフーと息を吹きかけてスープと野菜を口に運ぶと——。
「……っ!? 美味しいぃぃぃッ! 出汁が染み込んでて、体が内側から熱くなってくる……ッ!」
「ふはははは! 感謝いたしますルーカス様!」
見れば、初冬の寒さで震えていた王都の貴族たちや、極寒の北国からやってきた商人たちが「バルデン特製カイロ」と「極楽鍋セット」を買い求め、街の街道に雪を吹き飛ばすほどの熱気あふれる大行列を作っていた。
さらに、王都の服飾ギルドや料理人たちが「ルーカス様のもとで最新の防寒アパレルと冬の鍋文化を学びたい!」と雪崩のように押し寄せてきている。
「また人が押し寄せてるーーーーッ!?」
ルーカスは悲鳴を上げ、特製クッションを強く抱きしめた。
「あ、あれ……? 僕はただ……手足が冷えるのが嫌で、温かいお鍋が食べたかっただけなのに……なんで我が家が『世界最高の防寒アパレル&冬の温もりグルメの聖地』になってるの……!?」
冬の寒さと冷え性を恐れた少年のささやかなボヤキは、王国の防寒文化と冬の食卓を異次元へと温かく進化させていくのだった。
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