第29話:急激な季節の移り変わりに震える少年のボヤキが、王国の全自動加湿空気清浄機と長期保存用缶詰技術を爆誕生させたお話
ひゅぅぅぅ……。
「うぅ……寒っ! 昨日まではあんなにぽかぽか陽気だったのに、なんで急に冬みたいな冷え込みになってるの!?」
自室のテラスの扉を慌てて閉めながら、ルーカスは両腕をさすって身震いした。
バルデン男爵領に、急激な「季節の変わり目」が押し寄せていた。
秋の深まりとともに、朝晩の温度差が15度以上も開く激しい寒暖差。さらに、乾燥した冷たい秋風が吹き荒れ、肌や喉の水分を容赦なく奪っていく。
「前世でも季節の変わり目は一番体調を崩しやすかったんだよ……! 温度差で自律神経がやられるし、空気が乾燥すると喉の粘膜がやられて風邪のウイルスが猛繁殖するんだから!」
ルーカスは温かいハーブティーで喉を潤しながら、青ざめた顔で身を縮こまらせた。
「床暖房で暖かくするのはいいけど、閉め切った部屋で暖房を使うと部屋がカラカラに乾燥しちゃうんだよね。前世の『加湿空気清浄機』みたいに、部屋の湿度を絶妙な50%に保ちつつ、空気中のチリやウイルスを綺麗な水蒸気で綺麗にしてくれる機械があれば、喉も痛まないし風邪も絶対ひかないのに……」
さらに、ルーカスは窓の外で収穫期を迎えている果樹園や畑を見下ろし、ぽつりとボヤいた。
「それに、秋は美味しいキノコや根菜、くだものが山ほど採れるけど、冬になれば作物が採れなくなっちゃうんだよね。前世の『缶詰』や『真空パック』みたいに、採れたての美味しい季節の味覚をそのまま空気や光から遮断して密閉保存できれば、冬の間も栄養満点で健康的に長生きできるんだけどなぁ……」
季節の変わり目による体調崩れと、冬の栄養不足を心から恐れる少年の、切実で安全第一なボヤキ。
……のはずだった。
(部屋の空気を無菌の聖水蒸気で満たし乾燥の邪気を払う神の気流装置(加湿空気清浄機)……! そして秋の生命の恵みを永遠に閉じ込め冬の飢餓を払う奇跡の金庫(缶詰・真空パック)……!?)
ドアの陰で、温かい加湿用の白湯を用意していた妹リリィの目が、神々しいまでの光を放った。
カリカリカリカリカリッ……!
「すごいですわお兄様……! 朝晩の急激な寒暖差から領民の身体を守るだけでなく、秋の味覚を冬を超えて保存する『環境衛生&長期保存食の二大革新』まで見据えておられるなんて……! 私、すぐにクララさんと医師のガブリエル先生、それと包装屋のダニエルさんに伝えなくっちゃ!」
目を輝かせた天使(妹)は、メモ帳を抱えて館の衛生室と調理場へ爆走していった。
◇
「——なんですって……!? 空気を洗浄しつつ、水蒸気で室内湿度を50%に保つ『魔導加湿空気清浄機』だと……!?」
男爵家の衛生室。
白衣を纏った衛生長官クララと医師ガブリエルは、リリィのメモ帳を挟んで激しく打ち震えていた。
「ガブリエル先生! ルーカス様のおっしゃる通りですわ! 乾燥こそが粘膜のバリアを破壊し、病原菌の侵入を許す最大要因……! ギド殿の水循環魔石とクララ特製の殺菌アロマを組み合わせれば、部屋全体を『無菌かつ適度な潤いの聖域』に保てますわッ!」
「お命救済の極致……! 今すぐ全館に『加湿空気清浄ライン』を敷設しましょう!」
一方その頃。男爵領の食品加工場では——。
「金属の缶や透明な膜で食材を密閉し、加熱殺菌して空気を遮断する『|バルデン缶詰&真空保存《缶詰技術》』だと……!?」
包装業者のダニエル(32歳)と調理長のヴァレンティン(38歳)が、試作の金属缶を取り囲んで歓喜の声を上げていた。
「ダニエル殿! これがあれば、秋に採れた秋鮭の味噌煮も、熟した果実のシロップ漬けも、味と栄養を100%保ったまま数年間保存できるぞ!」
「ヴァレンティンさん! 金属加工のカール殿に頼んで、完全密閉できる『缶切り不要のイージーオープン缶』を爆速生産してもらいましょうッ!」
◇
数日後。
「……ねえ、なんで僕の部屋の角から『シュー……』って気持ちいい綺麗な湿った風が出てて、テーブルの上にパカッと開く金属の缶詰が山積みになってるの?」
自室でハーブティーを飲んでいたルーカスは、室内の信じられないほどの「空気の心地よさ」と目の前の光景に白目を剥いていた。
部屋の角には、ギドとクララが共同開発した「魔導加湿空気清浄機」が鎮座していた。
外がどれほど冷たくカラカラに乾燥していようと、室内は温度22度・湿度55%という「風邪ウイルスが1秒で死滅する完璧な潤い環境」が保たれていた。おかげで喉のショボショボ感も完全に消え去っている。
「すごい……! 喉が全然痛くない! 息をするだけで気持ちいいよ……!」
ルーカスが感動していると、調理長ヴァレンティンが誇らしげに『秋鮭とキノコの旨味煮缶』をパカッと開けて差し出してきた。
「ルーカス様! ダニエル殿とカール殿が完成させた『バルデン特製缶詰』にございます! 缶の蓋を引くだけで、いつでも採れたての秋の味覚が味わえますぞ!」
ルーカスがおずおずとスプーンで口に運ぶと——。
「……っ!? 美味しい! 味がギッシリ染み込んでて、出来立てみたいに温かくて柔らかい……ッ!」
「ふはははは! 感謝いたしますルーカス様!」
見れば、急激な寒暖差で風邪や体調不良に悩んでいた王都の貴族たちや、冬場の食糧保存に悩む北方領地の領主たちが「バルデン式加湿魔導具」と「長期保存缶詰」を買い求めようと押し寄せ、街道に大行列を作っていた。
さらに、王都の医療ギルドや食品加工業者たちが「ルーカス様のもとで最新の環境管理と保存技術を学びたい!」と雪崩のように押し寄せてきている。
「また季節の変わり目に人が押し寄せてるーーーーッ!?」
ルーカスは悲悲鳴を上げ、特製クッションを強く抱きしめた。
「あ、あれ……? 僕はただ……急に寒くなって喉が乾燥するのが怖くて、冬も美味しい秋の味覚が食べたかっただけなのに……なんで我が家が『世界最高の秋の味覚保存&季節病ゼロの聖地』になってるの……!?」
急激な季節の移り変わりを恐れた少年のささやかなボヤキは、王国の環境管理と食品保存技術を根底から覆し、全人類の健康な冬越しを約束していくのだった。
「ここまでお読みいただきありがとうございます!『続きが気になる!』『ボヤキ生活を応援したい』と思ってくださったら、画面下の【ブックマーク登録】や、【評価の★★★★★】をポチッと押していただけると、執筆の凄まじい励みになります!どうぞよろしくお願いします!」




