第25話:訪問者ラッシュに怯える少年のボヤキが、超防音ホテルと災害ゼロの自家発電屋根を爆誕生させたお話
「うぅ……子爵になっても、ぜんぜん安心できないよ……」
自室のふかふかスプリングベッドの上で、ルーカスは特製クッションを強く抱きしめて震えていた。
『バルデン子爵』就任のニュースと、超遠距離防衛&即時救急医療の噂が駆け巡ったことで、バルデン領には世界中からさらなる商人、冒険者、技術者、そして各国の使節団が殺到していた。
「街道沿いの宿屋さんはどこも超満員だし、溢れた人たちが野宿して街のあちこちでガヤガヤ騒いでるじゃないか……。もし混雑に紛れて不審者が館の敷地に忍び込んできたり、夜中に騒音で起こされたりしたらストレスで免疫力が下がって病気になっちゃうよ……!」
ルーカスは窓の外の賑やかすぎる街並みを見下ろし、切実に頭を抱えた。
「前世の『ビジネスホテル』みたいに、安くて清潔で、防音とセキュリティが完璧な宿が街中にたくさん建てば、訪問者さんたちも静かに泊まってくれて夜も平和になるのに。それに、うちの部屋の窓も前世の『強化防弾ガラス』みたいにドラゴンの一撃でも割れなくて音を完全に遮断してくれる窓になれば最高だし、屋根に『太陽光パネル瓦』を敷き詰めて勝手に日光から熱と魔力を蓄電してくれれば、どんな災害や停電が来ても永久にぬくぬく暮らせて長生きできるんだけどなぁ……」
騒音による睡眠障害と、混雑による治安悪化、さらには将来の自然災害を心から恐れる少年の、切実で安全第一なボヤキ。
……のはずだった。
(押し寄せる群衆を完璧に収容し防音と安眠を約束する神の宿泊施設……! ドラゴンのブレスすら跳ね返し音を遮る金剛の透明障壁(防弾ガラス)! そして太陽の神威を永遠に蓄積する奇跡の屋根……!?)
ドアの陰で、本日分の『バルデン週刊新聞』のバックナンバーを整理していた妹リリィの目が、爛々と輝きを放った。
カリカリカリカリカリッ……!
「すごいですわお兄様……! 混雑という新たな課題を一瞬で解決するだけでなく、防音・防犯・自家発電という『災害ゼロの未来都市構想』まで見据えておられるなんて……! 私、すぐに宿屋のエミールさんとガラス職人のレオさん、屋根職人のクルツさんに伝えなくっちゃ!」
目を輝かせた天使(妹)は、新聞の束を置くと、街の職人街へと爆走していった。
◇
「——なんですって……!? 無駄な装飾を省き、防音・清潔・低価格を追求した革新的な宿泊施設『バルデン・イン』だと……!?」
街の老舗宿屋の主人・エミール(45歳)は、リリィのメモ帳を握りしめ、ボロボロと涙を流していた。
「俺はこれまで、豪華なスイートルームか雑多な相部屋しか頭になかった……! だが、一人一人のプライベートと静寂を守り、手頃な価格で最高の安眠を提供する宿泊システム……! これがあれば、溢れかえる訪問者を全員完璧に収容できるぞぁぁぁッ!」
一方その頃。ガラス工房と屋根瓦の作業場では——。
「極厚の二重硝子に魔力透過防止膜を挟み込み、大砲の直撃すら傷ひとつ負わせず音を殺す『金剛防音強化ガラス』だと……!?」
ガラス職人のレオ(32歳)が、試作の巨大な透明板を叩きながら叫んでいた。
「クルツ殿! このガラスと、お前の『ソーラー魔石瓦』を組み合わせれば……!」
「おうよレオ! 昼の太陽光を100%魔力として蓄積し、館全体の暖房と明かりを永久稼働させる自給自足の屋根瓦の完成だぁぁぁッ!」
◇
数日後。
「……ねえ、なんで我が家の屋根が黒く光るハイテク瓦で覆われてて、窓の外の音が一切聞こえないの?」
自室でハーブティーを飲んでいたルーカスは、あまりの静寂と室内の快適さに白目を剥いていた。
窓の外では街の人々や馬車が行き交っているはずなのに、レオが完成させた「金剛防音強化ガラス」のおかげで、室内はまるで無音室のように静まり返っていた。外で大砲をぶっ放してもささやき声ほどにしか聞こえない恐ろしい防音・防弾性能である。
さらに、屋根職人クルツが敷き詰めた「ソーラー魔石瓦」が日光を自動で吸収・蓄電し、館内の全魔導具が外部電源なしで永久稼働を始めていた。
そこへ、誇らしげな宿屋主人のエミールが、真新しい鍵の束を持って駆け込んできた。
「ルーカス様! おかげさまで、街の各所に全500室の『|ビジネスホテル・バルデンイン《超防音格安宿》』が完成いたしました!」
エミールが掲げた図面には、カードキー認証、清潔な温水シャワー、防音壁、そして自動チェックイン魔導具が完備された、完璧なハイテクビジネスホテル群が描かれていた。
「これにより、街道に溢れていた野宿者はゼロ! 訪問者たちは快適な防音室で静かに過ごし、街の夜の治安は完璧に保たれております!」
「本当に街が静かになってる……! 野宿の人もいなくなって安全だ……!」
ルーカスが胸を撫で下ろした、まさにその瞬間——。
画面の『全自動遠隔拝謁陣』がピコンッと音を立てて発光した。
画面には、王都のホテル王たちや建築ギルドの重鎮、さらには各国の都市計画官たちがズラリと勢揃いしていた。
『創世の神童・ルーカス子爵様! あの『完全防音ビジネスホテル』と『太陽光発電瓦』の技術ライセンスを我が国にもお譲りいただきたい!』
『建築技師とホテル経営者、総勢三千名を今すぐバルデン領へ研修に向かわせましたぞ!!』
「三千人が押し寄せてくるのーーーーッ!?」
ルーカスは悲鳴を上げ、特製クッションを強く抱きしめた。
「あ、あれ……? 僕はただ……外がうるさくて不審者が怖くて、静かに安眠したかっただけなのに……なんで我が家が『世界最高の防音建築&未来型都市計画の聖地』になってるの……!?」
ただ静かに安全に眠りたかった少年のささやかなボヤキは、王国の宿泊業界と建築防音技術を次元の違う領域へと爆進させていくのだった。
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