第22話:手荷物検査と食器割れを恐れた少年のボヤキが、顔認証セキュリティ門と絶対割れない超耐熱超合金食器を爆誕させたお話
「ふぅ……いくらリモートで商談ができるようになったとはいえ……」
自室のテラスから館の正門付近を見下ろしながら、ルーカスは深々と溜息をついた。
「毎日押し寄せてくる訪問者さんたちの記名手続きや手荷物検査で、正門前が大混乱してるんだよね。もし混雑に紛れて怪しい不審者や武器を持った危険人物がスッと館に忍び込んで来たらどうするの? 刺されたり怪我したら長生きできないよ。前世の駅の『自動改札』やスマホの『顔認証』みたいに、登録された味方だけを瞬時に通して、怪しい人物は自動でシャットアウトする自動鑑別陣があれば安心して眠れるのになぁ」
さらに、ルーカスは手元にあった陶器のカップを慎重にテーブルの中央へ置き直した。
「それに、お食事のときに陶器やガラスの皿をうっかり床に落として割っちゃったら大変なんだ。尖った破片を踏んで足の裏を深く切ったりしたら、そこから破傷風や雑菌が入って命に関わるかもしれないでしょ。前世の『チタン』や『ステンレス』みたいに、羽のように軽くて、絶対に割れなくて、熱いスープを入れても手が熱くならない魔法の金属食器があれば、うっかり落としても100%安全で長生きできるのに……」
不審者による傷害事故と、食器の破片による怪我・感染症を心から恐れる少年の、切実で安全第一なボヤキ。
……のはずだった。
(登録された魂の顔容を瞬時に判別し不審なる者を粉砕閉鎖する神の絶対結界門……! そしてどれほど叩き落とそうと傷一つつかず微小な毒素や熱すら遮断する神の器(チタニウム食器)……!?)
ドアの陰で、本日分のリモート会議用ログを整理していた妹リリィの目が、爛々と怪しい光を放った。
カリカリカリカリカリッ……!
「すごいですわお兄様……! 防犯の手続きを円滑にするだけでなく、館の門から食卓の上の破片事故まで完全に防ぐ『絶対セキュリティ&安全食器のイノベーション』まで見据えておられるなんて……! 私、すぐに門番のヨハンさんと哨戒兵のユーリさん、それと鉄工技師のカールさんに伝えなくっちゃ!」
目を輝かせた天使(妹)は、書類を抱えて正門と工房へ爆走していった。
◇
「——なんですって……!? 人の顔の微小な骨格魔力パターンを読み取り、一瞬で識別して門を開閉する『顔面識別魔石』だと……!?」
男爵領の正門詰所。
門番のヨハン(26歳)と哨戒兵のユーリ(24歳)は、リリィのメモ帳を凝視しながら、目を見開いて震えていた。
「これまでの手書き記名や手荷物改検は時間がかかり、不審者の見落としリスクも高かった……! だがユーリ、お前の魔法検知センサーとギド殿の画像記憶陣を組み込めば……登録のない不審者が近づいた瞬間に『顔認証魔導ゲート』が自動で閉まり、挟み撃ちにできるぞッ!」
「ヨハンさん! 今すぐ正門に『顔認証セキュリティゲート』を設置しましょう!」
一方その頃。男爵領の鍛冶工房では——。
「極限まで軽量でありながら、ドラゴンの一撃でも傷ひとつつかず、熱伝導を完璧に遮断する『超耐久輝金』の食器だと……!?」
鉄工技師のカール(30歳)が、炎の上がる炉の前で金槌を握りしめ、血走りながら叫んでいた。
「俺はこれまで頑丈な剣や盾ばかり作っていたが……ルーカス様が求めておられるのは『絶対に割れず、手も足も傷つけない安全な器』……! ミスリルとチタン魔鉱石を極小練成し、羽のように軽い超軽量・超耐熱の食器セットを完成させてみせるぜぇぇぇッ!」
◇
数日後。
「……ねえ、なんで我が家の門がSF映画の改札みたいになってて、僕のスープの皿がアルミホイルより軽いのに金剛石より硬いの?」
自室で昼食をとっていたルーカスは、手にした金属製のスプーンとスープ皿の軽さに白目を剥いていた。
鉄工技師カールが完成させた「バルデン特製・超耐久チタン食器」は、羽のように軽いにもかかわらず、うっかりテーブルから床に叩き落としても「カチャン!」と軽い音を立てるだけで、傷ひとつ・凹みひとつつかない恐ろしい強度を誇っていた。熱々のスープを入れても外側は全く熱くならない。
「すごい……! 本当に落としても絶対割れない! 手も熱くないし安全だ……ッ!」
ルーカスが感動していると、そこへ誇らしげな鉄工技師カールが駆け込んできた。
「ルーカス様! これで落とした破片で足を切るリスクはゼロとなりました!……あ、あまりにも軽すぎて、強風が吹くとスープごと皿が空へ飛んでいきますが問題ありません!」
「スープごと飛んでったら困るでしょーーーーッ!?」
さらに、窓の外から「ピコーン! 認証完了!」「ピポーン! 未登録の不審者を検知! 迎撃体制へ移行!」という電子音が響いてきた。
正門には、ヨハンとユーリが開発した「顔認証セキュリティゲート」が鎮座していた。
登録された領民や使用人が近づくと「カシャンッ!」とスムーズにゲートが開き、書類偽造の不審者が近づいた瞬間に「ガシャンッ!!」と分厚い金属壁が立ち上がり、自動で挟み撃ちにして捕縛していた。
「ご覧くださいルーカス様!」
門番のヨハンがサムズアップする。
「これにより、正門の通過速度は十倍! 不審者の侵入率は完全にゼロとなりました!」
「門のセキュリティがハイテクすぎるよ!?」
見れば、男爵領の正門前には、最新の防犯セキュリティ技術を導入したい王国の警備隊や各国の城砦管理官、さらには「絶対割れない超軽量高級食器」を買い求めようとする王都のホテル王や高級レストランのシェフたちが殺到し、大行列を作っていた。
さらに、王都の金属加工ギルドやセキュリティ技師たちが「ルーカス様のもとで最新の金属工学と防犯システムを学びたい!」と雪崩のように押し寄せてきている。
「また人が押し寄せてるーーーーッ!?」
ルーカスは悲鳴を上げ、特製クッションを強く抱きしめた。
「あ、あれ……? 僕はただ……不審者に襲われたくなくて、食器を割って足を切りたくなかっただけなのに……なんで我が家が『世界最高のハイテクセキュリティ&超合金素材の聖地』になってるの……!?」
ただ怪我と不審者を恐れ、安全にご飯を食べたかっただけの少年のささやかなボヤキは、王国の防犯システムと金属加工技術を次元の違う領域へ爆進させていくのだった。
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