第21話:肩こりに悩む少年のボヤキが、極楽リクライニングと泡まみれジャグジーを爆誕させたお話
「ふぅ……リモートでの会議や出前の注文はすごく便利なんだけど……」
自室のふかふかベッドの上で、ルーカスは首をゴキゴキと鳴らし、両手でショボショボする目を押さえた。
「一日中青い結晶板のモニターを見てると、目が疲れて肩も腰もガチガチに凝っちゃうんだよね。前世の『電動マッサージチェア』みたいな、背もたれが滑らかに倒れて背中を心地よく揉み解してくれる椅子があれば最高なのに。ついでに、目を温めて血行を良くする『蒸気アイマスク』や、お風呂で泡がブクブク噴き出す『噴流気泡風呂』があれば、肩こりも解れて免疫力爆上がりで長生きできるんだけどなぁ……」
長時間の引きこもり生活による目の疲れと肩こりを解消し、健康寿命を延ばしたいだけの切実なボヤキ。
……のはずだった。
(長時間の精神集中による魂の硬化(肩こり)を微動陣で粉砕する至高の安息玉座……! そして全身の血脈を聖なる泡で活性化させる奇跡の熱泉……!?)
ドアの陰で、リモート会議用の資料を片付けていた妹リリィの目が、爛々と怪しい光を放った。
カリカリカリカリカリッ……!
「すごいですわお兄様……! おうち時間の快適さだけでなく、疲れとコリという現代病から全領民の身体を解放する『極楽リラックス革命』まで見据えておられるなんて……! 私、すぐに木工職人のオットーさんと入浴管理のハンナさん、香水係のイリスさんに伝えなくっちゃ!」
目を輝かせた天使(妹)は、メモ帳を抱えて作業場と浴室へ爆走していった。
◇
「——なんですって……!? 人の背中の曲線に合わせて無段階で倒れ、微細な振動と木製歯車でコリを揉み解す器具だと……!?」
街の木工工房。
ベテラン木工職人のオットー(45歳)は、リリィのメモ帳を凝視したまま、体躯を震わせて狂喜していた。
「俺はこれまで頑丈な椅子ばかり作っていたが……座る者を極楽へ導く無段階可動チェア……! ギド殿の微振動魔石とバネ陣を組み込めば……『バルデン特製・極楽マッサージチェア』の完成だぁぁぁッ!」
一方その頃。男爵家の地下大浴場では——。
「湯底から勢いよく空気の気泡を噴出させ、水圧で全身のマッサージを行う『魔導噴流気泡風呂』だと……!?」
入浴管理係の侍女ハンナ(22歳)と、香水係のイリス(20歳)が、湯船の周りを取り囲んで叫んでいた。
「ハンナさん! 水圧魔法陣を底面に仕込めば、極上のジャグジーが作れます! 私が作った『特製リラックスアロマオイル』も湯船に投入しましょう!」
「素晴らしいわイリス! ルーカス様の肩こりと疲労を100%吹き飛ばす……名付けて『究極気泡アロマジャグジー』よッ!」
◇
数日後。
「……ねえ、なんで僕の部屋に巨大な木製コックピットみたいな椅子が置かれてて、廊下からブクブク泡が溢れ出してるの?」
自室でハーブティーを飲んでいたルーカスは、あまりの光景に白目を剥いていた。
部屋の中央には、木工職人オットーが完成させた黄金色の革張り「極楽マッサージチェア」が鎮座していた。
そこへ、誇らしげなオットーが駆け寄ってくる。
「ルーカス様! お試しください! ボタン(魔力スイッチ)を押せば、背もたれが無段階で倒れ、背中のもみ玉がコリを粉砕いたします!」
ルーカスがおずおずと座り、スイッチを押すと——。
「んむ……っ!? 背中がポカポカして、絶妙な振動が肩甲骨に効く……ッ! 気持ちよすぎる……!」
ルーカスが感動した次の瞬間のことだった。
「調整ダイヤル(可動出力)を最大にいたしますね!」
オットーが自信満々にレバーを引いた。
ガシャンッ!!
「うわあぁぁぁッ!?」
バネの反動と角度調整が強すぎたのか、背もたれが「カチーンッ!」と猛烈な勢いで跳ね上がり、ルーカスは天井スレスレまで射出されかけた。
「角度調整が激しすぎるよーーーーッ!? 人間をカタパルト発射する気!?」
「あ、角度のバネを強くしすぎましたが問題ありません!」
さらに、部屋のドアがババァンッ! と開き、全身泡まみれになった入浴管理係のハンナと香水係のイリスが飛んできた。
「ルーカス様ぁぁぁッ! 水圧魔法陣の出力を上げすぎて、地下大浴場の泡が館の1階まで溢れ出しました! さらにイリスのアロマ香が効きすぎて、1階にいた館の使用人たちが全員爆睡しております!」
「問題大ありでしょーーーーッ!?」
見れば、男爵家の館の廊下はモコモコとした芳醇な香りの泡で満たされ、泡に包まれた侍女や兵士たちが「ハァ……気持ちいい……」とうっとりした顔で爆睡していた。
さらに噂を聞きつけた王都の富豪や疲れ切った官僚たちが、「ルーカス様の極楽マッサージ椅子とアロマ泡風呂を体験したい!」と押し寄せ、過去最大の「極楽リラクゼーション待ち大行列」を作っていた。
「また人が押し寄せてるーーーーッ!?」
ルーカスは悲鳴を上げ、特製クッションを強く抱きしめた。
「あ、あれ……? 僕はただ……モニターの見すぎで凝った肩をほぐしたかっただけなのに……なんで我が家が『世界初の極楽スパ&リラクゼーションテーマパーク』になってるの……!?」
ただ肩こりと目の疲れを解消して長生きしたかっただけの少年のささやかなボヤキは、男爵領のリラクゼーション技術を異次元へと爆進させていくのだった。
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