第20話:シュワシュワ弾ける果汁ソーダと絶対に傷つかない超重装甲全身鎧が爆誕したお話
「ふぅ……二重サッシとエアコンで快適な室温だし、オンライン通販で届いたイチゴも美味しいけれど……」
自室のふかふかソファで特製クッションを抱きかかえながら、ルーカスはふと喉の奥を指でさすった。
「たまには、喉にシュワシュワ〜ッと心地よい刺激がくる前世の『炭酸水』や『発泡果汁』が飲みたいなぁ。冷たくて甘いソーダを飲めば、日頃のストレスも一気に吹き飛んで免疫力も上がるのに。それと……」
窓の外を見下ろすと、連日殺到する観光客や商人たちで街道は大賑わいだった。
「外は人が多すぎて、万が一の馬車の接触事故や転倒事故が怖いんだよ。前世の『空気袋』みたいに、衝撃を受けた瞬間に膨らんで着用者を傷ひとつなく守る絶対安全な防具があれば、どんな事故に遭っても怪我せずに長生きできるのになぁ……」
病床時代に飲んだ冷たいサイダーの爽快感と、前世の車の安全装置を懐かしむだけの無害で安全第一なボヤキ。
……のはずだった。
(喉の毒素と疲労を泡の弾けで消滅させる神の発泡聖水……! そしてあらゆる衝撃や落雷すら完璧に無効化する奇跡の絶対防護衣……!?)
ドアの陰で、本日分の注文票を整理していた妹リリィの目が、爛々と怪しい光を放った。
カリカリカリカリカリッ……!
「すごいですわお兄様……! お口の中の爽快感だけでなく、どんな不慮の事故や衝撃から全領民の命を絶対死守する『安全技術の到達点』まで見据えておられるなんて……! 私、すぐに酒造家のイザークさんと副兵士長のクエンティンさんに伝えなくっちゃ!」
目を輝かせた天使(妹)は、注文票を抱えて醸造所と兵舎へ爆走していった。
◇
「——なんですって……!? 水の中にシュワシュワと弾ける気体(炭酸)を封入し、極上の果汁と合わせるだと……!?」
街の古い酒造所。
頑固な酒造家のイザーク(40歳)は、リリィのメモ帳を凝視したまま、髭を震わせて感涙していた。
「俺はこれまで発酵の酒ばかり作っていたが……アルコールを含まない、子供から大人まで楽しめる最高の発泡飲料……! ギド殿の加圧魔導釜で天然の炭酸ガスを注ぎ込み、テオの温室イチゴ果汁を合わせれば……『バルデン・スパークリングソーダ』の誕生だぁぁぁッ!」
一方その頃。男爵領の警備隊兵舎では——。
「衝撃を受けた瞬間に……空気の結界陣が瞬間膨張して着用者を無傷で守る『全自動衝撃吸収鎧』だと……!?」
副兵士長のクエンティン(30歳)と庭師のフレディ(28歳)が、試作の巨大な金属鎧を取り囲んで叫んでいた。
「クエンティンさん! これがあれば、訓練中の事故も馬車の突進も100%防げます! 表面には僕が育てた自動迎撃防護植物『迎撃ツタ』を絡ませましょう!」
「素晴らしいぞフレディ! ルーカス様の安全を脅かすあらゆる事故をゼロにする……名付けて『クエンティン特製・超重装甲エアバッグアーマー』だッ!」
◇
数日後。
「……ねえ、なんで我が家の庭で『シュワ〜ッ!』って音が響いてて、門の前に歩く鉄の要塞みたいな人が立ってるの?」
テラスでハーブティーを飲んでいたルーカスは、あまりの景色の異様さに白目を剥いていた。
庭では、酒造家イザークが完成させた「バルデン・スパークリングソーダ」の試飲会が行われていた。
瓶の蓋を抜くと「ポンッ!」と爽快な音が鳴り、シュワシュワと心地よい泡がグラスに注がれる。
「ルーカス様! 採れたてイチゴと天然炭酸が融合した至高のソーダです!」
ルーカスがおずおずと口をつけると——。
「……っ!? シュワシュワだぁぁぁッ! 冷たくて喉越し爽快、めちゃくちゃ美味しい……ッ!」
「ふふふ、お気に召して幸いです!」
そこへ、ズシン……ズシン……と地響きを立てて、全身を巨大な金属と謎の風船のようなクッションで覆った副兵士長クエンティンが歩いてきた。
「ルーカス様! ご試作いたしました『絶対安全衝撃吸収超重装甲』です!」
「重そう……! というか、風船膨らみすぎて前見えてないよね!?」
クエンティンが胸を張ると、不意に足を滑らせて「あっ」と豪快に転んだ。
その瞬間——バフゥンッ!! と凄まじい音とともに、全身の空気袋が瞬間膨張し、クエンティンはまるで巨大なボールのように跳ね返って無傷で立ち上がった。
「ご覧くださいルーカス様! どんな激しい転倒でも、衝撃吸収率100%です!……あ、重すぎて自分一人では立ち上がれなくなりましたが問題ありません!」
「立ち上がれてないじゃん!? 起き上がれない防具なんてダメでしょーーーッ!」
見れば、男爵領の街道には、シュワシュワ弾ける果汁ソーダを求める各国の貴族たちや、「どんな事故でも無傷でいられる絶対安全防具」を買い求めようとする王国騎士団や冒険者たちが殺到し、過去最大の買い付け行列を作っていた。
さらに、王都の醸造ギルドや武具工房の職人たちが「ルーカス様のもとで最新の発泡技術と安全工学を学びたい!」と雪崩のように押し寄せてきている。
「また人が押し寄せてるーーーーッ!?」
ルーカスは悲鳴を上げ、特製クッションを強く抱きしめた。
「あ、あれ……? 僕はただ……冷たいサイダーが飲みたくて、転んで怪我をしたくなかっただけなのに……なんで我が家が『世界初の清涼飲料&絶対安全工学の聖地』になってるの……!?」
ただ安全に喉を潤したかっただけの少年のささやかなボヤキは、王国の食文化と防具の安全基準を根底から覆し、全人類の命と笑顔を守っていくのだった。
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