第19話:服が音速で乾く全自動洗濯機と手のひら大の激甘イチゴが爆誕したお話
「ふぅ……自室から一歩も出ずに、リモートで会議が終わって、ドローンで熱々のスープが届くなんて……。前世の引きこもりゲーマーもびっくりな天国環境だな」
ふかふかのスプリングベッドの上で、ルーカスは届いたばかりの『バルデン・スピードお届け便』の特製スープをすする。
二重サッシと床暖房で守られた快適な室温。
いつでも温水が出る水道。
そしてテラスから届く美味しい料理。
「うん、引きこもり生活としては99.9点! ……だけど、日常の地味な家事だけがちょっと面倒なんだよね」
ルーカスは脱ぎ捨てられた自分のシャツを見つめて溜息をついた。
「出前に頼んだ服や自分の下着を、手洗いでゴシゴシ洗って絞って干すのが地味に大変なんだよ。前世の『全自動洗濯乾燥機』みたいに、服を入れたら自動で洗って温風でフワフワに乾燥までしてくれる機械があれば、服を傷めずに清潔を保てて長生きできるのになぁ。ついでに、デリバリーで届くフルーツも、前世の『温室』で年中育てた手のひらサイズの甘〜いイチゴがあれば最高なんだけど……」
前世の家電と果物狩りの記憶を懐かしむだけの、ごくごく平和な独り言。
……のはずだった。
(衣類に付着した微小な汚れと雑菌を高速回転陣で撃滅し、熱風でフワフワの聖衣へ戻す神の洗浄器具(ドラム式洗濯機)……! そして四季を無視して常春の結界内で極上の果実を爆産させる神の農園……!?)
ドアの陰で、リモート通信用の魔石にカバーをかけていた妹リリィの目が、爛々と怪しい光を放った。
カリカリカリカリカリッ……!
「すごいですわお兄様……! おうち時間を完璧にするだけでなく、全家庭の洗濯という重労働を解放し、食卓に永遠の春の恵みをもたらす『家事と農業の大革命』まで見据えておられるなんて……! 私、すぐに洗濯担当のベスさんと温室管理のテオさん、育種家のユーゴさんに伝えなくっちゃ!」
目を輝かせた天使(妹)は、メモ帳を抱えて用務員室と農園へ爆走していった。
◇
「——なんですって……!? 洗濯板を使わずに……自動回転と水流で衣類を洗い、熱風で即座に乾燥させる器具だと……!?」
館の洗濯場。
いつも冷たい水で服をゴシゴシ洗い、手荒れに悩んでいた洗濯担当の侍女ベス(20歳)は、リリィのメモ帳を握りしめ、ボロボロと涙を流していた。
「私、冷たい水で指がカサカサになって、ルーカス様の服に傷をつけたらどうしようってずっと悩んでいたの……! ルーカス様は私達使用人の手肌の健康と苦労まで考えてくださっていたのね……!! 配管工のマルクさん! ギドさん! 今すぐ試作機を作りましょうッ!」
ベスは職人たちを巻き込み、狂乱の作業に入った。
一方その頃、男爵領の農園セクションでは——。
「透明な魔法膜で空間を覆い、内部の温度と湿度を一定に保つ『常春魔導膜温室』だと……!?」
温室管理士のテオ(28歳)と、薬草育種家のユーゴ(25歳)が、魔法陣の引かれた骨組みを取り囲んで叫んでいた。
「テオさん! これがあれば冬でも春の気温を維持できる! ユーゴ、お前が交配していたあの試作イチゴを植え付けろ!」
「任せろテオさん! ルーカス様が『手のひらサイズの甘いイチゴ』をご所望なら、手のひらどころか赤ちゃんの拳サイズの超巨大激甘品種『バルデン・キングストロベリー』を爆産させてみせるぜぇぇぇッ!」
◇
数日後。
「……ねえ、なんで我が家の庭に透明なドームが立ち並んでて、洗濯場から『ブォォォォン!』って jet エンジンの音が聞こえるの?」
テラスでハーブティーを飲んでいたルーカスは、あまりの音圧と景色の変貌に白目を剥いていた。
庭の広場には、温室管理士テオとユーゴが完成させた透明な魔導膜温室がズラリと立ち並び、中には真っ赤に実った「赤ちゃんの拳サイズの超巨大イチゴ」が鈴なりになっていた。
そこへ、冷えた銀皿に乗った巨大イチゴを抱えて、整理整頓係のディアナ(21歳)が駆け込んできた。
「ルーカス様! テオさんとユーゴさんから採れたての『バルデン・キングストロベリー』のお届けです!……あ、私『トキメキで捨てる断捨離』にハマりすぎて、先ほどアロイス男爵の重要書類をゴミ箱に捨てそうになりましたが問題ありません!」
「書類捨てちゃダメでしょーーーーッ!?」
ルーカスが叫びながらイチゴを一口かじると、口の中でジュワッと爆発的な甘みと果汁が広がった。
「んむ……っ!? 甘い! 巨峰くらい大きいのに、果肉が柔らかくて超甘い……ッ! 本物の極上イチゴだぁぁぁッ!」
「ふふふ、お気に召して幸いです!」
そこへ、焦げ臭い煙をまとった洗濯担当のベスが、誇らしげに金属製の丸いドラム状器具を担いでやってきた。
「ルーカス様! 配管工マルクさんとギドさんの協力により完成いたしました! 『ベス特製・超音速全自動洗濯乾燥機』です!」
「超音速……!?」
ベスがボタン(魔力スイッチ)を押すと、ドラム内部が「キュイィィィン……ッ!」と高音を立てて超高速回転を始めた。
「服を投入すれば、水流魔法と音速回転による遠心力で汚れを瞬時に吹き飛ばし、ギドさんの熱風陣でわずか10秒でフワフワに乾燥させます!……あ、回転数を上げすぎて、カイル様の訓練着が音速の摩擦で破けましたが問題ありません!」
「服破けてるじゃん!? 音速で回したらダメでしょーーーッ!?」
見れば、男爵領の街道には、手のひらサイズの激甘イチゴと「全自動洗濯機」の噂を聞きつけた他領の主婦層や大農園主たちが殺到し、過去最大の買い付け行列を作っていた。
さらに、王都の家政婦ギルドや農務省の官僚たちが「ルーカス様のもとで最新の生活家電と温室農業技術を学びたい!」と雪崩のように押し寄せてきている。
「また人が押し寄せてるーーーーッ!?」
ルーカスは悲鳴を上げ、特製クッションを強く抱きしめた。
「あ、あれ……? 僕はただ……自分で洗濯物を干すのが面倒で、美味しいイチゴが食べたかっただけなのに……なんで我が家が『世界初の生活家電&ハイテク温室農業の聖地』になってるの……!?」
ただ家事を減らし、甘い果物を食べてぬくぬくしたかっただけの少年のささやかなボヤキは、王国の家事労働と農業の仕組みを根底から覆し、全人類の生活をさらに豊かに進化させていくのだった。
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