第18話:部屋から出たくない少年のボヤキが、世界初のオンライン通販と爆速ドローン宅配網を完成させたお話
「ふぅ……リモートモニターのおかげで、部屋から出ずに外交が終わったのは本当に助かったなぁ」
青い結晶板の画面が暗転した室内で、ルーカスはふかふかのスプリングベッドの上に大の字になって天井を見上げた。
適温22度に保たれた室内。
足元を優しく温める床暖房。
いつでもお湯が出る給湯器。
そして、部屋にいながら遠方の相手と会話ができる魔法のモニター。
「うん、引きこもり環境としては99点! ……だけど、あとひとつだけ足りないんだよね」
ルーカスはお腹をさすりながら、ぽつりとボヤいた。
「部屋から出たくないのに、温かいご飯や必要な日用品を買うためには、結局誰かに頼むか自分で取りに行かなきゃいけないんだよ。前世の『通信販売』とか『出前配達』みたいに、モニターで欲しいものを選んだら、頑丈な『魔法強化紙』に入った商品が、冷たいものはキンキンに冷えた『冷導馬車』や、空飛ぶ使い魔で部屋のテラスまで一瞬で届く『爆速宅配網』があればいいのになぁ……」
病床時代にネット通販のカタログを眺めたり、デリバリーを頼んでいた記憶を懐かしむだけの無害なボヤキ。
……のはずだった。
(自室にいながらにして全世界の物品・食材を注文し、空と陸の即時補給網によって一瞬で手元に召喚する神の流通陣(ネット通販)……!?)
ドアの陰で、リモート会議用の資料を整えていた妹リリィの目が、爛々と輝きを放った。
カリカリカリカリカリッ……!
「すごいですわお兄様……! 一歩も部屋から出ずに生活を完結させるだけでなく、世界の物流と流通の概念を根底から変革する『無人爆速配送革命』まで見据えておられるなんて……! 私、すぐに運送屋のボリスさんと包装屋のダニエルさん、それに偵察隊のシャビさんに伝えなくっちゃ!」
目を輝かせた天使(妹)は、メモ帳を抱えて館の廊下を爆走していった。
◇
「——なんですって……!? 衝撃を吸収する折り畳み式の『魔法強化紙』だと……!?」
街の小さな紙工房。
包装業者のダニエル(32歳)は、リリィのメモ帳を凝視しながら突風に吹かれたように慄いていた。
「これまでの木箱や革袋は重くてかさばり、輸送コストが絶望的だった……! だが、魔法で強化した波状の紙を組み合わせ、軽量かつ頑丈で、使わない時は平らに畳める箱……! これがあれば包装の歴史が変わるぞぁぁぁッ!」
ダニエルは狂喜しながら、製紙魔導具をフル回転させ始めた。
一方その頃、商業ギルドの運送部門では——。
「生鮮食品や冷たいアイスを腐らせずに遠方へ運ぶ『魔導冷導馬車』だと……!?」
巨漢の運送屋ボリス(38歳)と、偵察隊の青年シャビ(22歳)が、熱弁を振るっていた。
「ギド殿の吸熱魔石を馬車に搭載すれば、冷気を逃がさずに全国へ新鮮なまま届けられる!」
「ボリスさん、陸路だけじゃないですよ! 僕の育てた魔導鳥の脚に軽量ダンボールを括り付ければ、ルーカス様の部屋のテラスまで空から直接お届けできます!」
◇
数日後。
「……ねえ、なんで僕の部屋のテラスに小型の鳥型魔導具が次々と着陸して、積み上げられた茶色い紙箱を置いていくの?」
自室でハーブティーを飲んでいたルーカスは、テラスで繰り広げられる異様な光景に白目を剥いていた。
「バタバタバタッ!」と音を立てて羽ばたいてきた風の魔導鳥が、ルーカスのテラスにちょこんと着陸し、足に挟んでいた「バルデン特製ダンボール箱」をポロッと置いた。
箱の側面には『バルデン・スピードお届け便』と綺麗な活字で印刷されている。
「お、お届けものですルーカス様ぁぁぁッ!」
テラスの冊子をスッと開けて顔を出したのは、運送屋のボリスと偵察隊のシャビだった。
「シャビの魔導鳥による空路配備と、わしのクール便馬車網が完全同期いたしました! 画面越しに注文ボタン(魔力操作)を押していただければ、ザハール焼き立ての『フワフワ食パン』も、ウィル特製の『キンキン冷菓』も、わずか10分でルーカス様のテラスへ届きます!」
「10分!? 早すぎるよ!?」
ルーカスが驚愕していると、画面の『全自動遠隔拝謁陣』がピコンッと音を立てて発光した。
画面には、王都の大富豪や他国の豪商たちがズラリと映し出されていた。
『創世の神童・ルーカス様! カタログで注文したバルデンの『温泉セット』と『カステラ』が、クール便で我が屋敷に届きましたぞ! 鮮度も温かさも完璧だ!』
『我が帝国からもオンラインで追加注文を頼む! 支払いは魔力口座から即座に引き落とし(キャッシュレス決済)で構わん!』
「オンライン通販とキャッシュレス決済まで連動してるーーーーッ!?」
ルーカスは叫んだ。
自室のベッドの上で、空から届いたばかりの熱々スープとフワフワ食パンを頬張りながら、ルーカスはガタガタと震えた。
「あ、あれ……? 僕はただ……部屋から出ずに美味しいご飯が食べたかっただけなのに……なんで僕の部屋が『全世界無人爆速物流&オンラインECの総本社』になってるの……!?」
部屋から出たくない少年のささやかなボヤキは、世界の物流と商業の仕組みを完全に塗り替え、全人類に「おうち時間と爆速宅配」の快楽を教えていくのだった。
「ここまでお読みいただきありがとうございます!『続きが気になる!』『ボヤキ生活を応援したい』と思ってくださったら、画面下の【ブックマーク登録】や、【評価の★★★★★】をポチッと押していただけると、執筆の凄まじい励みになります!どうぞよろしくお願いします!」




