第17話:部屋から出ずに世界の要人と話せる魔法のモニターが爆誕したお話
「……で、なんで僕のベッドの目の前に、巨大な額縁みたいなガラス板が設置されてるの?」
翌朝。
自室のふかふかスプリングベッドの上で、毛布をすっぽり被ったルーカスは、目の前にドンと鎮座した高さ二メートルほどの巨大な青色結晶板を見つめて首を傾げた。
「ふはははは! お待ちかねでございますルーカス様ッ!」
白衣の袖を捲り上げた錬金術師ギドと、精密なドライバーを構えた時計職人ニコ、そしてギドの弟子のヤコブが、血走った眼光で胸を張っていた。
「ルーカス様のご神託『自室引きこもり型・全自動遠隔拝謁陣』の試作一号機でございます!」
「本当に一晩で作っちゃったの!?」
「当たり前でございます!」
時計職人ニコが、自慢げにメガネのフレームを押し上げた。
「ギド殿の波長同期回路と、私ニコの超精密歯車による魔力伝達、そしてヤコブの蓄光技術が見事に融合いたしました! この結晶板に魔力を通せば、数千キロ離れた遠方の映像と音声を、遅延ゼロで双方向に投影可能となります!」
「技術革命のスピードが早すぎるよ……!」
ルーカスが引きつった笑いを浮かべていると、部屋のドアが開き、大商人シルヴィアと会計士のアンドレ、レジ担当のフェリックスがずらりと書類を抱えて入ってきた。
「ルーカス様! 第一コンクリート道路の検問所に足止めされております『隣国エストリア帝国』の全権大使・シュミット伯爵との遠隔面談の準備が整いましたわ!」
「えっ……!? 門前で3分間の手洗いをさせられてる大使さん!?」
「ええ。すでに検問所側の『受信用魔石』と同期しております。……通信、接続いたしますッ!」
ギドが壁のスイッチを入れると、青い結晶板が「ピコンッ!」と心地よい音を立てて発光した。
次の瞬間——。
モニターの中に、泡のついた手で石鹸を擦り合わせながら、呆然と画面を見つめる豪華な貴服を着た初老の男——エストリア帝国の全権大使シュミット伯爵の姿が、寸分の狂いもなく鮮明に映し出された。
『な……なんだこの光は!? 鏡の中に……バルデン男爵家の館の室内が映っているだと……!?』
画面の向こうで、シュミット伯爵と周囲の帝国騎士たちが目を見開いて腰を抜かした。
「あ、初めまして。僕がルーカスです」
ルーカスが毛布の中からペコペコと頭を下げる。
「直接お会いできなくてすみません。大勢の人と接触すると感染症のリスクもありますし、お互いの健康と安全が第一ですから……画面越しで失礼します」
『画面越し……!? 数キロ離れた場所から、リアルタイムで会話をしているというのか……!?』
シュミット伯爵の手から石鹸がポロリとこぼれ落ちた。
(な……なんという恐ろしい魔導通信技術だ……! 国王との会談すら対面が常識のこの世界で、自室にいながらにして遠方の全権大使と一瞬で対峙してみせるというのか!? しかも……『感染症のリスクからお互いの健康を守る』という慈愛に満ちた建前で、我が国の使節団を完封し、優位な外交立場を確立している……!)
伯爵の額から大量の冷汗が噴き出した。
『お、お見それいたしました……創世の神童・ルーカス殿! 我がエストリア帝国は、バルデン領が誇る『温水給湯』および『ペニシリン』の技術提供を求めて参った次第! 条件はそちらの言い値で構いません!』
「えっ……? 言い値でいいの……?」
ルーカスが戸惑っていると、画面の横から会計士のアンドレとレジ担当のフェリックスが、最新の『高速計算魔導具』を弾きながらスッと書類を差し出した。
「ルーカス様、契約書データはこちらになります。あらかじめ定めた提示額で、相手方の魔力署名を取得いたしますわ」
シルヴィアがニヤリと微笑み、画面に向けて羊皮紙の契約陣をかざす。
「シュミット伯爵、こちらの契約陣に手をかざして魔力を通していただければ、オンラインでの技術ライセンス契約が即座に成立いたしますわ!」
『画面越しに……契約まで完了するだと……!?』
シュミット伯爵は震える手で画面に向かって魔力を注ぎ込んだ。
「ピキーン!」と音が鳴り、遠隔での正式な国家間技術提携契約が、わずか3分で締結されてしまったのだ。
『す、素晴らしい……! 移動の時間も、外交の不毛な腹の探り合いも一切なし……! これぞ未来の外交か……!!』
シュミット伯爵は感動のあまり画面に向かってドゲザした。
「……えぇぇ? 部屋から一歩も出てないのに、隣国との条約が決まっちゃった……?」
ルーカスは呆然と画面を見つめた。
「ふはははは! 見事ですルーカス様!」
ギドが高らかに笑い声を上げる。
「この『全自動遠隔拝謁陣』の完成により、ルーカス様は自室のベッドに寝そべったまま、世界中の要人や大商人との交渉・指示出しが可能となりました!」
「王都の国王陛下や、大樹の国セルフィアとの『合同オンライン定例会議』のスケジュールもすでに組み込みましたわ!」
シルヴィアが金貨の入った袋を鳴らしながらウインクする。
「嫌だぁぁぁッ! 部屋から出ずに済んだのは助かるけど、なんで僕のベッドが『全世界オンライン首脳会談の議長席』になってるのーーーーッ!?」
ただ怪我や病気を恐れて自室に引きこもりたかっただけの少年のボヤキは、世界初の「リモート外交&オンラインネットワーク」を爆誕生させ、世界の政治構造すらも自室から動かしていくのだった。
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