第104話:邪神の破壊光線を逆手にとって「首肩コリほぐしマッサージ器」を作ったら、全ボスが行列を作って並び始めた件
「うぅ……首の付け根と肩甲骨のまわりが、重たい漬物石でも乗っけられたみたいにズーーーンと重いよぉ……」
お布団の中でぬくぬく温まりながら、僕は両手を首の後ろに回し、親指でこめかみと首筋の筋を必死にグリグリと指圧していた。
前回導入したフレキシブルアームスタンドのおかげで、仰向けで本や領内ニュースを眺めるのは最高に楽ちんになった。
だけど……いくら手ぶらで画面が見られるからといって、ベッドの中で何時間も同じ姿勢で首を固定したまま本を読みふけっていれば、当然のごとく首筋と僧帽筋がカチコチに凝り固まってしまうのだ!
自分でトントンと肩を叩いてみるけれど、筋力のない僕の腕力ではちっとも奥まで響かないし、逆に叩いている側の腕がだるくなってくるという悲しい悪循環。
「ルーカス、無理に自分で叩いちゃダメだよ。僧帽筋がガチガチに張っているから、強く揉むと筋を痛めて揉み返しが来ちゃうからね」
すっと音もなく駆け寄ってくれたカイル兄さんが、完璧な脱力の手つきで僕の肩口にそっと手を添え、絶妙な力加減で首のリンパを優しく流してくれた。
「ふぅ……だいぶ首筋が強張っていたね。画面を見るのに夢中で、まばたきや首の運動を忘れていたんだろう? 首こりを放置すると、緊張型頭痛や自律神経の乱れに繋がるから気をつけるんだよ」
「兄さんありがとう……すごく気持ちいいよぉ……。でも兄さんにずっと肩を揉んでもらうわけにもいかないし、寒い中でお布団から腕を出して自分で揉むのも地味に疲れるんだよね……」
コタツの端っこで、時間の神クロノスが首を「ボキボキッ!」と派手に鳴らしながら、深いため息をついた。
「……ルーカス様、その首と肩の重み、神としても痛切に共感するぞ。全時空の流れを瞬きもせず見守り続ける我が身も、季節の変わり目には首筋がまるで古代の化石のように石化するのじゃ。肩こりは頭痛や吐き気をも呼び寄せる、現世の肉体が背負いし最も陰湿な呪いよのう……」
「神様でも首や肩がバキバキに凝るんだね……。首周りの太い血管や神経が圧迫されると、血行が悪くなって頭がズキズキ痛むし、健康寿命にとっても本当に大敵なんだよ」
僕は痛む首筋をさすりながら、特製クッションを抱きしめて切実にボヤいた。
「こういう時にさ……前世のデスクワーカーやズボラ人間たちが全員手放せなくなってた、あの『コードレス首肩マッサージャー(温熱EMSネックケア器)』があれば最高なのに! 首の後ろにU字型にカポッとはめ込むだけで、じんわり温かいヒーターで首元を温めながら、内蔵された複数のシリコンもみ玉が人間の親指みたいにグイグイ深層のコリを揉みほぐしてくれるやつ……! さらに微弱な電気パルス(低周波)で、トントントン……ってリズミカルに奥の筋肉を叩いてほぐしてくれるんだよね。両手は完全にフリーだからお布団の中にすっぽり入れたままでいいし、コードレスだからどこでも使える。肩甲骨のコリが嘘みたいにフワァァッと消え去る、究極の極楽ほぐし家電なのにさぁ……」
首と肩の重たいコリから解放され、手ぶらでお布団に潜ったままほぐされたい僕の、切実で健康第一なボヤキ。
ビビビビビッ! ギュオオオオオオンッ!
その時、壁一面の『全自動遠隔拝謁陣』から、耳を劈くような真っ赤な緊急アラートが鳴り響いた。
『緊急警報! 緊急警報! 混沌星雲の最果て【滅亡破砕断層】において、全銀河に向けて無差別破壊光線を乱射し続ける終末の巨神【殲滅光帝・メガデスバスター】率いる、十万の破壊重機軍団が臨界暴走を開始いたしました!』
モニターの向こうでは、天を灼き尽くすほどの閃光が荒れ狂い、その中心から全身に何千門もの巨大な極太ビームキャノンを生やした、小山のように巨大な鋼鉄の破壊神が暴れ回っていた。
両肩と首周りにそびえ立つ砲門から、全次元を粉砕しかねない極太の破壊光線を四方八方へと撃ちまくっている!
だが——その怒号は、冷徹な征服の咆哮ではなく、全身の筋肉の引き攣れによる悶絶の絶叫だった!
『グシャアアアアッ! 首が……! 首と肩甲骨の筋が引き千切れそうなのだぁぁぁッ! 数万年間、この超重量の荷電粒子砲門を首肩に背負い続け、猛烈な発射反動に耐えながら全次元へ光線を撃ち続けるこの地獄の重労働……ッ! 僧帽筋が岩盤のように凝り固まって感覚がない! 偏頭痛と眼精疲労で発狂しそうだぁぁぁッ! この肩こりの苛立ち、全星系を消滅させて晴らしてやるぅぅぅッ!』
破壊神は自分の首筋を鋼鉄の爪でガリガリとかきむしり、肩をすくめて激痛に耐えながら、あまりの筋硬直と頭痛に涙目で暴走していたのだ!
四六時中、何億トンもの超重量ビーム砲の反動を首と肩で受け止め続け、人類史上最悪レベルの「究極の頑固な首肩コリ」に苛まれ、そのストレスで全宇宙を滅ぼそうとしていたのである。
前世の僕なら恐怖で気絶していただろうけれど、さっき首のコリで頭を痛めていた今の僕には、その暴れる理由が痛いほどよく分かってしまった。
「ひ、ひえぇぇっ!? あ、あの破壊神さん、何千門もの大砲の重みと反動で、首と肩がバキバキに凝り固まって頭痛がして暴れてるの……!? そんなの、四六時中首筋に鉄板を埋め込まれたみたいに痛くて、イライラして世界を壊したくなっちゃうに決まってるよ……! 僧帽筋の血行不良は、健康面でもメンタルにとっても大敵だよ!」
僕は首筋を手で押さえ、ベッドから身を乗り出して思わず叫んだ。
「あんなガチガチに凝り固まった状態でさらに光線なんて撃ちまくったら、反動で首の頚椎を痛めてヘルニアになっちゃうよ! 誰かあの子の首元に、あの破壊光線の余剰エネルギーを逆位相の振動に変換して、温熱ヒーターと回転もみ玉で深層筋肉をトントントンと叩いて揉みほぐす『超巨大コードレス首肩マッサージャー』を取り付けてあげてよ! 肩甲骨の内側のコリを芯からほぐして血行を良くしてあげれば、頭痛もイライラも綺麗サッパリ消えて、大人しく丸くなってくれるはずなのに……!」
首肩のコリと緊張型頭痛に苦しむ破壊神への心からの共感と、筋膜リリース第一なボヤキ。
……のはずだった。
(全宇宙の破壊エネルギーを逆位相の癒やし振動へと昇華せしめ、数万年の頑固な筋膜癒着を解脱せしめる神の頸椎絶対調和……! そして立ち上がる破壊の怒気すらも至高の弛緩へと蕩け去る創世の温熱揉捏……!?)
ドアの物陰で、本日の救急医療器具を点検していた医師ガブリエル、看護師長ピア、鍛冶長ブラム、時計職人ニコ、そして妹リリィの目が、カァァァッ! と全銀河を貫くほどの白銀と黄金の光を放った!
「す……凄すぎますわお兄様……ッ!」
リリィが感涙で胸の前で愛用のメモ帳を強く強く抱きしめる。
「破壊光線を力で防ぐのではなく、数万年の反動で蓄積された首肩のコリと偏頭痛の苦しみを慈しみ、手ぶらで温め揉みほぐすマッサージャーで救済なさろうとなされるなんて……! 私、すぐに『殲滅破壊神様・首肩コリ完全解脱プロジェクト』を発足いたしますわッ!」
「お命救済と温熱パルス揉捏の極致だぁぁぁッ!」
ガブリエルとピア、ブラム、ニコが、超合金フレキシブルフレームと低周波反転回路を掲げて叫ぶ。
「破壊光線のエネルギーを吸収して極上の42度温熱ともみ玉回転力へ変換する、山脈級『特製バルデン・温熱首肩マッサージャー』を、ただちに滅亡断層へ投下いたしますぞッ!」
「待って五人とも!? 僕はただ『首と肩をほぐしてあげて』って言っただけだよ!?」
僕の悲鳴を置き去りにし、狂乱の医療&鍛冶&妹チームは時空転送ゲートへと爆走していった。
◇
数分後。
滅亡星雲で首をかきむしり、肩こりのあまり狂乱のビームを撃ちまくっていた殲滅光帝メガデスバスターの頭上に、突如として巨大な時空の扉が開いた。
そこへボフンッ! と出現したのは、ふかふかの高級合皮で覆われた、鈍い銀色と淡い桜色に輝く超巨大なU字型の器具——『バルデン特製・超巨大温熱首肩マッサージャー』。
ガチリッ……!
『な……何事だぁぁぁッ!? 我が首筋に謎の拘束具が……ッ!? 我が全力の破壊光線で消し飛ばして——んぎゃあああッ!?』
破壊神が首元の砲門から光線を放とうとした瞬間、マッサージャー内部のエネルギー変換回路が「シュンッ!」と光線の魔力を100%吸収した。
そして、その莫大な破壊エネルギーが一瞬にして——「心地よい42度のじんわり温熱ヒーター」と「8つの大型シリコンもみ玉の力強い回転」、そして「リズミカルな低周波トントン叩きパルス」へと完全変換されたのだ!
ギュイィィィ……グググッ……トントントントンッ!
『あ……っ!? な、なんだこれはぁぁぁッ!? そこ……! そこなのだぁぁぁッ!』
首の後ろにピタリと密着したヒーターから、凍てついていた首筋の奥深くまでポカポカとした熱が染み渡る。
さらに、シリコンのもみ玉が、数万年間ガチガチに張り詰めていた僧帽筋と肩甲骨の内側の「一番深いコリの芯」を、グイィィィッと力強く挟み込んで揉みほぐし始めた!
トントントントン……ジュワァァァァァ……!
『う……うおおおおっ! トントン叩かれて……血行が……カチコチだった肩に血がドバドバと巡っていく……! 揉み玉が……ツボを外さぬ……! 痛気持ちいい……! 頭痛が……数万年苦しんだ偏頭痛がスーッと消えていくぅぅぅッ!』
破壊神の巨体がビクンッ! と跳ね上がり、両目から大粒の温かな涙がボロボロと溢れ出した。
重たい砲身の反動で縮こまっていた肩甲骨が、左右にぐわっと押し広げられ、滞っていた筋膜が一気にリリースされていく。
『あひゃぁぁぁ……極楽……極楽浄土じゃぁぁぁ……! 首が回る……! 肩が羽のように軽い……! というか……温かくて気持ちよすぎて……もう一歩も動きたくない……』
何千門もの砲口から、赤い破壊の光が完全に消え去り、すべての砲身が「カクン……」とだらしなく下を向いた。
『世界征服……? 銀河の破壊……? なぜ我はあんな首と肩に悪いことをしようとしていたのだ……。我が任務は……このマッサージャーを首に巻いたまま……一生トントン揉まれて『ふにゃあ』と蕩けることである……スースー……』
天地を滅ぼしかけていた最凶の破壊神は、完全に戦意を喪失し、そのまま宇宙空間にペタリと座り込んで、ヨダレを垂らしながら極上のマッサージ二度寝へと突入してしまったのだ!
そこへ、誇らしげなリリィ、ガブリエル、ピア、ブラム、ニコが駆け込んできた。
「お兄様! 殲滅光帝メガデスバスター様の『頑固な首肩コリ完全解脱&無力化』を達成いたしましたわ!」
リリィが金文字の健康証明書を掲げて天使の笑顔を咲かせる。
「破壊神様は『このマッサージャーがあれば、二度とビームを撃つ必要がない。肩こりに苦しむ全宇宙の同胞のために、もみ玉の角度を調整する整体師として生きていく』と、破壊兵器をすべて整体サロンの備品へと改装されましたの!」
「世界を滅ぼす破壊神が首肩マッサージャーで整体師になってる!?」
だが、驚愕はそれだけでは終わらなかった。
壁一面のリモートモニターをふと見上げると——画面の向こうには、かつて全次元を恐怖に陥れていた歴戦の元ラスボスたち、巨大な暗黒魔王や悪竜たちが、ズラリと長蛇の列を作って並んでいたのだ!
『おい! 我も数千年間この巨大な翼を動かして背中がバキバキなのだ! 早くそのマッサージャーを当ててくれ!』
『我など頭の角が重すぎて首がちぎれそうなのだぞ! 順番を譲れ!』
『揉んでくれ! 温めてくれ! トントン叩いてくれぇぇぇッ!』
全次元の強大なボスたちが、患部を押さえながら涙目でマッサージの順番待ちをしていたのである!
さらに部屋の隅では、時間の神クロノスが、自分用の小さな特製温熱マッサージャーを首筋に巻き、「ふほぉぉ……! 温熱と叩きが同時にくるとは……! 時空を巻き戻すより遥かに首の奥がほぐれるわい……」と極上の笑顔で蕩けていた。
傍らではカイル兄さんやアロイス父さんまで、首にマッサージャーを当てて「これは良いね、肩がすっきり軽くなるよ」と幸せそうに目を細めている。
「神様も家族もマッサージャーの虜になってないでーーーーッ! 全次元のボスたちも行列を作って並んでこないでーーーーッ!?」
僕は悲鳴を上げ、特製クッションで顔を覆った。
「あ、あれ……? 僕はただ……本を読んでて首や肩が凝るのが嫌で、手ぶらで温めながら揉んでくれる機械があればいいなって思い出しただけなのに……なんで僕の一言で『全次元の破壊神や元ラスボスたちが首肩マッサージャー求めて大行列を作ってる』のーーーーッ!」
首と肩の重たいコリを嫌った少年のささやかなボヤキは、身近なヘルスケア家電の圧倒的な心地よさによって宇宙の破壊衝動すらも一瞬で極上のリラクゼーションへと変貌させてしまい、本日も彼は首元をじんわり温めてくれる優しい振動に包まれながら、温かなお布団の中で静かな安らぎを噛みしめるのだった。
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