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25話 暗躍する者

〜勇者〜


 現在、魔王軍と交戦中だ。


「まずいここの防壁が破られるのも時間の問題だぞ!」

「勇者様どうなさいますか?」

「今の戦力でここを守り切れるとは言い切れない。時間を稼ぐからその間に出来るだけ市民を避難させてくれ!ここを捨てることも視野に入れる」

「分かりました。直ちに市民を避難させます」

「頼む」


 シュリがS級ダンジョン竜の巣窟で行方不明になってからすぐに魔王軍がミルガルド帝国から1番近い国の防壁に攻めにきた。

 魔族に占領された場所からも1番近いため攻めてくるのは時間の問題だったがまさかこのタイミングだとは思っていなかった。

 

 攻めてきた魔王軍はその数ざっと1万5千。魔物が1万体、魔族が5千体。内1人は魔王軍幹部で今回の司令官だ。

 それに比べて防壁側の人数は勇者パーティーのシュリを除く4人と騎士団3千人ほどだ。

 

 この戦力差でまだ防壁が崩されていないのはここの地形が崖と崖の間で通路の幅が広くないので一度に魔物たちが押し寄せてこないことが幸いしてまだ防壁はもっている。


 ここを破られると帝国が危うくなってしまうがシュリがいないのでこの戦力差ではこの防壁もいつまで持つか分からない。


「シュリさんがいてくれたら広範囲攻撃魔法で数を減らしてこの防御も守れるかもしれないのにシュリさんはどこに行ってしまったのでしょう?」


 シュリは人より少ない魔力で魔法を放つことができ、なおかつ魔力量も多いので戦争にいるかいないかで戦力がすごく変わる。


「イリア、今はそんなことを言っている場合じゃない。シュリがいない以上俺たちでここを守りきるしかないんだ!ルイズ、あとどれくらいここを守れそうだ?」

「幹部が前線に出てこなければ3日、出てきたら俺たち4人は幹部を相手しないといけないから1日だな」

「まだこの国の市民が避難しきれていないんだ!せめて避難が終わるまではなんとしてでも時間を稼ぐぞ!」

「クレイン戻りました」


 このタイミングで偵察に行っていた斥候のラースが帰ってきた。


「ラース、魔族の動きはどうだった?」

「まだ魔物と雑兵しか前線に出てきておらずまだ向こうは余力を残している状態です」


 まさかの今、1番聞きたくなかった知らせだった。


「本当なのか!?こちらは騎士団のほとんどが前線に出ている状況で余力などほとんどないぞ!」

「援軍を呼ぶか主力が出てくるまで騎士団に頑張ってもらうしかありません」

「この戦力差ではそれは無理だろう」

「なら帝国から援軍を呼びましょう。急げば3日ほどで到着します」

「それじゃあ遅いかもしれない」


 それしか方法がないのは分かっているが状況次第ではほぼ負け確の戦争だ。


「ラース、急いで援軍を呼んできてくれ。お前の足なら帝国まで1日かからないだろう。そしたら2日で到着できるはずだ」

「それだと戦力が減ってしまいます」


 クレインもそんなことは重々承知の上でこのお願いをしている。


「俺たちがその間なんとか耐えるから出来るだけ急いでくれ」

「分かりました。直ぐ戻ります!」

「頼んだぞ。ラース」


 ラースは帝国に援軍を呼びに向かっていった。


「さて騎士団が到着する前にここを破られるといけないから俺が最前線に行って少しでも敵を減らしてくるよ」

「俺も行くぞ!」

「ルイズとイリアは待機だ。ここは最終防衛ラインだ。だから剣聖のお前が撃ち漏らしてここまで来た魔族達を倒してイリアはルイズの補佐をしてくれ」

「分かったわ」

「分かった。でもお前が死んだら人類はいよいよ負けてしまうから危険だと思ったら戻ってこい!」

「ああ。じゃあ行ってくる」


 勇者クレインはもしかしたらここで死ぬかもしれないと覚悟を決めて最前線に向かっていった。



〜魔王〜


 魔王は城の玉座に座り、スキル千里眼を使って勇者と魔王軍の戦争を退屈そうに眺めている。


「勇者パーティーのメンバーが1人いないだけでここまで脆いのか」


 魔王はこの世界を滅ぼそうと思えばいつでも滅ぼせる力があるが滅ぼしたら退屈になるから500年前から自分の駒だけを使って遊んでいる。


 この戦争もただのチェスのような遊び感覚であり、わざとシュリがいなくなったタイミングで部下に攻め込ませた。


「つまらん。今代の勇者は弱すぎる」


 先代の勇者は魔王の右腕と互角くらいの強さだったが今代の勇者は幹部に1人で勝てるか勝てないかくらいだ。


「先代の勇者は強かったがそれでも我の遊び相手にしかならんかった。それがどうだ今代の勇者は我が知っている何人かの勇者の中で過去一弱いんじゃないか?」

「そうですね。わしから見ても弱いと思います」

「そうだろうよ。いつから人間はここまで弱くなってしまったんだ?」

「2代目の賢者が亡くなってからでは?」

「あいつは強かった。先代の魔王が倒されたからな」


 600年前、我が魔王になる前にあった大きな戦争で1人の賢者に魔王軍は壊滅させられた。

 その時の我はまだ幼かったがあの時のことは鮮明に覚えている。


「あの賢者は魔法1発で今、勇者たちが戦っている我の軍くらいなら全滅できる威力だった。あれをもろにくらっては今の我でもただでは済まないだろう」


 今、思い出しても恐ろしい存在だ。


「そんなに強かったのですか?」

「そうだ。文献では初代魔王も初代賢者にやられたそうだ。勇者は引退や死んだら代替わりするが賢者は滅多に人間の中から現れない。いわばイレギュラーだ」

 

 たぶん我々が倒されるのも賢者が現れるときだ。


「それなら魔王様は賢者が現れるまで退屈なのですね」

「別に賢者じゃなくても我と対等に戦える存在ならそれでいい。我は命を賭けた血湧き肉踊る戦いがしたいのだ」


 魔王はただのバトルジャンキーなのだ。


「そんな相手が現れるのですかね?」

「分からん。だからあれを用意しておるのだ」

「そうだったのですね」

「あれの用意はまだか?」

「もうすぐでございます」

「やっとか!用意が出来次第7thに偵察に向かえと伝えておけ!」

「分かりました」


 魔王は良い知らせを聞いて先ほどとは打って変わり機嫌が良くなった。


「そういえば魔王様、勇者に動きがあり最前線に向かわれたそうですがどうされますか?」

「4thに殺さない程度に遊んでやれと言っておけ。覚醒するかもしれん」

「分かりました。では失礼します」


 魔王の右腕ヴォルクは玉座の間を後にした。


「いよいよか」

 

 あれの用意が出来れば我に匹敵する者が現れるかもしれない。もしもいなかったら我の機嫌を損ねるのだから腹いせに滅ぼせばいい。


「楽しみだ。我のまだ見ぬ世界」


 魔王は不吉に笑いその時を待った。


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