記憶なき居候 2
「熱也様、お下げしてもー」
「あ、お願いします」
と、染崎家専属メイド長の『柄式 宇佐美』さんは、食器を片付けて行った。
「あ、宇佐美さん、『吉原さん』一同に『今度料理を教えてもらえませんか?』と伝えてください!」
『吉原さん』とは、この豪邸の料理長である。名前は『吉原 鈴木』と言っていた。ただ実際には、この家で唯一彼にだけはまだこの三日で会っていない。
料理人は彼を含め五人である。ちなみに、メイドも五人である。
宇佐美さんは、振り返り、笑顔で一礼後、姿を消すように部屋から出た。
「あ〜、美味しかった!」
「本当にね〜」
「ご馳走様でした」
と、俺とカナ、綺羅さんは言った。しかし、
「えーっ!なんか物足りない〜!」
と、正反対のことを言ったものがいた。カナのわがままな妹、『染崎 かの』だ。
彼女は高級なものでも、気に入らなければわがままを言う少女だ。そんな彼女が素性もわからない俺をよく思うはずもなく、会うたびに文句を言われた。
今日もまた、彼女はご機嫌が斜めのようだ。俺を指さし口を開く。
「何よりも、そのどこの馬の骨かすらわからない男と一緒なのが特に悪いですわね!」
それに対し、何も言い返さない俺の代わりにカナが諭すように怒る。
「こらー、カノ。わがまま言わないの」
「だって、お姉様。事実、ここにこの男がいる地点でー」
「カノ!」
と、突然睨まれながら叫ぶように叱ったカナに、カノは驚きしょんぼりして顔を俯かせ、
「…すいません……」
と言った。カノは姉や母を慕っている。いや…大好きなのだが、限度がない。下手すると、姉妹で、同性で結婚しかねないくらいだ。まあ、カナは無いだろうが……
「…そんな、そこの汚らしく哀れで無作法な愚民にも優しいお姉様が好きィィィィィィィ!」
うん、初めからこんな感じだったが、失礼な。
毎日鍛えてたカナと、ダラダラな生活をしてるカノから予想されるのは、
ピョォォン、と隔てる机を飛び越えたカノと、
ガスッ! と鈍い音をたててカナがカノを殴り返し、
ドタン! と壁に吹っ飛ばされる––––
––––であり、リアルで再現された。地面でうずくまっているのは、もちろん頰を直撃したカノの方だ。まあ、その割にタフなんだが……。
「お姉様ぁぁぁぁぁ……」
の泣き言葉に、
「フン!」
とそっぽを向いて返されたカノは、石のように固まった。しかしこの少女はかなり頭がお花畑のようで、
「ですが、そんなお姉様がスキィィィィィ!」
と頰をくねくねしながら摩るだろう。
綺羅さんは、笑っぱなしだ。
…まあ、作法は確かに出来るようになるべきか。
「ねえ、ネツ」
と自分の悪いとこを少し考えていた俺に、満足そうに、精神的にひきそうなほどうっとりとした顔のカノを無視してカナは、
「あなた、このあと暇?」
と、聞いてきた。




