記憶なき居候 3
「ここが、倒れてたあなたがいたところだけど、どう?」
そこは屋敷から離れた道路、よく朝通る道とは反対ところだ。おそらく気を使ってここを最近通らなかったのだろう。
しかし思い出すことは何もなく、気を使ってもらった事に罪悪感を感じていた。
「……いや、さっぱりだ。」
「そう……まあすぐってわけにもいかないよね。」
と、落ち込んでしまった。3日の付き合いとはいえ、流石にそのくらいはわかる。
「何お前が落ち込むんだよ」
「だって……」
涙目になるカナの頭に手をポンポンとする。なんとなくこうするべきだろうと思ったから。
「初日に言ったろ、『これは過去の事情で、その時の俺が』」
「『示した感情が正しい』、でしょ。分かってるわよ」
と、暗い顔を明るくした。
「ごめんね、なんか」
「だから、その上でー」
「『すぐ謝ることをするな』、でしょ?」
「『せめて俺だけでも』、もな」
と、話してしていた。
「でも、まさか、俺も重度の《アレ》になるとはな……」
ある時期から突然流行しだした病《記憶欠落症候群》。始まりはとある病院で13歳の少年が親の事を思い出せなくなったことからだったとの事だ。
最初特に体の異常はない楽しんだんであったが、その少年の記憶は戻らずさらに欠落していき、そして最後は言葉すら話せなくなったらしい。
そして最も危険な特徴として、それは《流行る》のだ。基準も不明で記憶力のいいお爺さんが3日で歩くのを忘れたり、ハイハイした赤ん坊がただジタバタするだけになったり……。
ただしそんな病気が、とある科学者によって《治る病》となった。
その人は、事の始まりの少年を助けたくてその親が最後にすがり、一錠の薬でよく朝には元どおり喋れる体になったとの事。
その事は全国的に話題となり、なりふり構わずに多くの人たちが求め、そして手に入れて治していき、いつのまにかその病は治った。
その科学者がカナの『父』だった。
「……でも、記憶は戻らない、か。済まないな、こんなよそ者が、居候をすることになって。記憶が戻らないだけなのに……」
静まった頃に改めて命名された『流行性アルツハイマー病』は基本、薬で記憶は戻るのである。しかし、俺は例外だった。今の状況が証拠である。あった当初から10分置きに欠落し続けていた俺に、屋敷で薬を飲ませてもらい、どうにかカナに起こされた頃まで思い出す事はできたが、今だここに倒れていた理由が、その前の記憶が分からない。
「べ、別に、迷惑じゃないよ。逆にありがたいくらいよ。だって、広すぎる家の一室がうまったんだから」
「…そう言ってくれると、嬉しいよ」
それは正直な気持ちである。
「ゆっくりと思い出せばいいんだよ。時間だって、高校生なんだから、まだまだこれからじゃん。」
笑顔で言ってくれる彼女に、安心感がある。その安心感は心地よく、カナの優しさがすごく感じられる。赤の他人の俺にこうして接してくれるのが、彼女の魅力だ。
だけどどうしてか、それとは別に危機感が俺を突き動かしたがっている気がする。それはまさに《焦る》ように––––
……それじゃ……遅いんだ…




