記憶なき居候 1
「お〜い、ネツぅ〜、起きなさいよ〜。ランニングするよ〜!」
「……あと…五分だけ………」
という一言を受け入れてくれなく、
「せいヤッ!」
の一言でぬくぬく布団を没収された。
「ううー、寒い。」
「あんたね〜、何にもなかったような顔しているよね。あんたが今、どんな状況かわかっているの?」
『どんな状況か』の意味が、寝ぼけている自分のことでないのはわかっている。
「......ああ、分かってるつもりさ……分かってる…分かってるさ………」
と、自分に言い聞かせるようにつぶやきながらようやく目が覚めてきた俺は服を用意することにした。しかしまあ、それよりも早く、すでに俺の足元にライオンのロゴが入ったジャージが用意されていた。
「あー、もう!こんなんで大丈夫なの…たくね〜……まあいいや、早く来なさい。いい?答えは聞カナいけどね」
と、反論する間もなく、ここ二階なのに窓から下へ降りて行った。
俺は『洲崎 熱也』、と言うらしい。俺は今、三日前から今日まで以外の記憶を忘れている。
俺はこの家から少し離れた道路で倒れていたらしく、さらに運が良かった事に、車が通らない時間だったらしい朝方であったため意識のない俺を、早朝ランニングを趣味にする『染崎 かな』(つまり、さっき起こしに来た少女)に、通りがかった時に助けてくれた。
今でも恩を感じてはいる。それは一生思い続けるだろう。なぜなら、助けてくれたばかりか、彼女の家で目覚めない俺を看病してくれて、その日の昼間に目覚めた時、すぐに医者に見せてくれた。すごく優しい女の子だ。
「遅いよ、ネツ!もう十分も経ったのよ!」
「仕方ないだろ、カナ。ここって広すぎるんだからさ!」
『染崎 かな』
それは株で成功したカナの母『染崎 綺羅』により、広大な土地を買い、豪邸を建て、成功を呼び続ける、あり得ない女性である。そして、カナの父は……
「置いてくよ〜。ビリは途中でアイス奢りなさいよ〜」
「…はあ!?聞いてないぞそんな約束!!」
「だって、答えなんて聞いていないもの!」
「堂々と卑怯宣言かよ!」
と、もう百メートルも走っているカナを追った。
「…金持ちのくせに」
と、嫌々アイスを渡して、カナに聞こえない声でつぶやく。
カナは、『金持ちのくせに』などの言葉がタブーである。彼女はそういうことを散々聞いていて、傷つき続けた結果、『金持ち』と聞くとすぐに激怒し、それが親でも暴れ出すらしい。実際、目覚めた初日の病院で、戻って来た時、いじわるそうなナースがうっかりしゃべってしまい一角で大暴れしていて、不思議に思ってた俺に、その後理由がそれだからと綺羅さんに聞いたからだ。
「全く、俺が病院の時くらいな〜」
「病院?」
と、カナは聞き返してきて、俺は内心心臓がビクンッとなり背筋を伸ばした。
「い、いや、なんでもー」
「…病院……病院………あ!!もしかして、あれのことじゃ…」
と、赤くなった彼女はそっぽ向くが、顔が赤くなっていくのが分かる。赤くなる理由は不明だが、ヤバいことは確かだ。アイスを可及的速やかに処理した。
「お、俺、もう食い終わったから走ってるぞ!」
「あ、待ってよ!」
「さっき待たなかったろが!」
と、脱兎のごとく染崎邸に向かって走った。




