第九十五話 頼む
……船から船へひとっ飛びってか……どんどん人間離れしていくな俺は。
「ふぅ……」
強襲する船とやらの甲板に着いた俺は息を吐いた。俺が早く伝えなければ……。カートナードたちが厳しいので急がなければならないハズなのだが……。
「っつっても……誰に言えばいいんだっつうの……」
強襲する船を束ねている、リーダー的な奴が入れば良いのだが、見る限り見当たらない。ううーんと唸っていても始まらないので、ひとまず辺りをほっつき歩く。
「……ひでえな……皆座ってらぁ」
しかも暗い顔をして。……きっと、船一隻沈没したのを見てしまったのだろう。そこから来た戦意喪失。……当たり前っちゃ当たり前か。木の板を踏みしめながら、甲板を歩き回る。こうなりゃもうヤケで大声出すか? ……それはやめたい所なんだが。
「……あ……メイさん……?」
「……ん?」
ふと、俺の名前が呼ばれた気がしたので振り向いた。すると、そこには黒づくめの茶髪の少年が一人……。
「覚えていますか? レイジです。レイジ・カーバーニですよ」
「……誰だっけ?」
俺はニヤニヤ笑いながらそう答えた。その言葉に少なからず傷ついたようで、レイジは胸を抑える仕草をしている。
「……そうですよね……覚えてるワケないか」
「いやいや、傷心し過ぎだろ。覚えてるから」
冗談が伝わらないヤツだコイツ。そう言うと、ムッと睨みつけるように怒ってくる。……後輩イビリ的な感じでなんか楽しいな。
「……お、覚えてくれてるならいいです」
はぁ……とため息を吐き、レイジは話す体制に入った。
「そもそもどうやってここに……」
「……ん? ああ、普通にジャンプで」
あ、言っちゃまずいヤツじゃね? って思ったけれど、言ってしまったから仕方ない。
「……ぷっ……あはは! 冗談にしては面白……本当ですか!?」
「冗談って笑ったのに真に受けんな」
「……一体、貴方の体の仕組みってどうなってるんですか?」
「そこにがっつくな!」
レイジが不思議そうに言ってくるので俺は突っ込む。
「……そうか……レイジなら!」
「……どうしました?」
ぶっちゃけレイジならカートナードよりもしっかりしてそうで安心出来る。そう思った俺は、カートナードから言われた事をレイジに伝える。
「なんで僕に……いや、シュルネイルさんよりはいっか……。僕が指揮をとりましょう……自信ないですけど」
「頼んだぜ。……よし、後は治療船の方に伝えて帰るだけだ」
俺はそう呟くと、レイジから待ったをかけられる。
「シュルネイルさんにカートさんの無事を伝えてあげてください。きっと、近くにいるハズです」
「いいが……お前が言うんじゃないのな」
「僕はさっきの言葉を自分なりに整理したいんです。それから発言した方がいいと思ったので」
「……わーった。シュルネイルに言えばいいんだな」
俺はレイジから離れ、シュルネイルを捜すことにした。……キョロキョロと辺りを見渡した後、ふと目立つ緑髪が見えたのでそこへ向かう。船の尖端の部分にシュルネイルが立っていた。
「おい」
俺はシュルネイルに声を掛ける。それに気づいたのか、シュルネイルが振り返った。
「……メイ……ですか……」
「カートナードは無事な。以上。俺、急いでるんで」
めっちゃ暗そうだったので生存をいち早く伝え、俺はこの場から離れようとする。
「ま、待つですよ!」
「あ? 急いでるんだっつうの……」
頭をガシガシと掻き、俺はシュルネイルに向き合う。
「本当……ですか?」
「本当だ。リドルグの乗っている船にいる。んじゃ……聞きたい事はそれだけか?」
「……ありがとうですよ」
俺はフッと鼻で笑った後、一番外側をまわる船へと跳躍。そしてあと一歩の所で足りなかったので、着水……。
「ぶはっ! ……足りねぇのか……っち」
舌打ちをした後、目の前にあった船を跳躍で飛び乗り、着地を行なおうとしていた。
「あっ」
「えっ!? きゃぁっ!!」
豪快な音と共に、着地を行ってしまった。……誰か踏んずけたなこれ……。一瞬しか見なかったから誰かは分からんけど……つうか、知らない人の確率しかなくねぇか?
「わ、わりぃ! 悪気はねぇんだ!!」
俺はすぐさまその場をどいて、踏んづけたヤツに謝罪する。運ねぇな……こりゃ……。
「い……いえ……何度かありましたから……大丈──」
「……ティナ……!」
なんでいつも俺はティナを踏むのだろうか。これで何度目だろうか……。いや、そんな事はどうでも良いんだ。ティナと会って気まずいな……。
「ええ……っとあのな……」
「……なんだ……また貴方ですか」
「……」
ティナから他人のように振る舞いを受ける。それに少なからず傷ついている俺がいた。……こんな時だっていうのに……いや……こんな時だからなのか……? 分からない……分からねぇよ……!
「……ティナ」
「失礼します。まだ傷ついている人がいるので」
俺から逃げる様にして、この場を離れようとするティナを俺は……、
「……」
「……離して下さい」
ティナの右腕を掴んでいた。……こっちと目を合わせないので、どんな表情をしているのか分からない。……しかし、決めたんだ。カートナードの伝達を受けてくれる人を。
「……そのままの態度でもいい。ぶっちゃけキツイけど……」
「離して下さい……」
「聞いてくれ……ティナ」
「離して……!」
キッとこちらを睨みつけるようにして、ティナが振り向いた。俺は未だ手を離さずにティナの方を向いている。
「お前がこの船の、リーダーになるんだ」
「何……言ってるの? 突然……」
突然過ぎたのは分かる。俺もやっちまったとは思った。それでも、伝えなきゃならないんだ。
「……カートナードがあの化け物を倒す作戦を建てる。その情報の伝達を受けてくれ。それと、こっちの船の状況を報告。それを頼みたい」
「……なんで私に……私なんか何の役にも立たないんじゃ無かったの?」
……言い返せない。そうか……その事で怒ってたのか。出発する前の、ティナとのやり取り。それで怒ってんのか。
「……確かにな……言ったなぁ……はは……まいったなぁ……」
「……」
どう繕っても、どうしても、許して貰えるビジョンが見当たらない。……いいか……そっちは。俺は決意を固めて、ティナに向かって言う。
「ごめんな……って軽いよな……だからさ」
一息置いて、言った。
「許さなくていい。こんな俺を……でも、頼む……リーダーになってくれ」
……つくづく俺らしくない。やっぱり、あの化け物と出会ってから変になったか? ……それとも、ティナを守りたいからなのか? ……きっとそれもあるんだろうな。でも、今はきっと……。
「なんでそこまで……」
「化け物をぶっ潰してぇのさ。あの、ムカつく化け物を……!」
どこからそんな気持ちが出てきたのか分からない。ティナを守るだけのハズが、化け物を倒す事が目的になってしまっている。自分でも分からない、感情をティナに向かってさらけ出した。
「……そ」
「そっけねぇ返事だなー……んで、頼めるか?」
「……ふふ、分かった。やってみる」
ティナが小さく笑い、肯定してくれた。……よし、これで準備は整った。
「早速、こっちの状況を報せるね。まず、船の揺れで転んで軽傷を負った人が過半数。あの敵の攻撃を見て、怯えてる人も同じくらいいる。……それに、治療船って言っているけれど、この船じゃなくて、それぞれ別の船に駆けつけた方がいいと思うの。あっ、これは提案ね」
「……ぉぁ……ぉ……ぉぅ」
予想以上に膨大な情報量が来るもんで、頭がパンクしそうなんだが……。
「それで……って……メイさんが大丈夫じゃなさそう……」
「……すまん……苦手なんだ……覚えるのが……」
暗記とか、勉強とか、超面倒だし! それの名残りでものを覚えるのが苦手になってしまっているのだろう。
「うん、それだけ伝えて貰える?」
「……分かった。ありがとな」
俺はティナに微笑み、そして甲板から飛び立とうとする。
「あっ……待って」
「なんだ? 忘れそうで怖いんだが……」
真面目にさっきまで覚えていたのが頭から抜けそうで怖い。俺がティナに目を向けていると、ティナは少しの間目を閉じ、そして目を開き、口を開いた。
「無事でいて……」
「……当たり前だ」
そう言い残して、俺は甲板から飛び立った。




