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第九十四話 役割

 目の前の怪物……ゲームで例えるならレイドボス。つまり、大規模戦闘のボスだと思って良いだろう。俺一人の力では足りないかもしれない。……それでもだ、討伐してやる。絶対に。

 作戦は、いつも通り相手の防御力を下げ、物理攻撃を通りやすくさせるという方法を取る。こんな奴にパラライズを入れても効かないだろうしな。


「……って、本当に作戦はこれしかねぇよな」


 そんな自分にウンザリしながらも、ダウンガードの詠唱を行った。左手に相手の防御力を低下させる効果を付属させたのを確認し、シーラウディを見上げる。相変わらず、足くねくねうねっていてキモいな。水面から身を出し、更に跳躍を行い、ダウンガードを付与する。そして、刃を突き刺そうとダガーを振り下ろした。……が、まだ弾かれる。


「っち! めんどくせぇッ!!」


 ダウンガードの詠唱を素早く終わらし、またシーラウディの足にダウンガードを付与する。すると、ズブっと刃が入り、シーラウディの防御力を貫くことに成功した。ニヤリと口元が吊り上がるのを感じ、悪い笑みを浮かべているのを実感しながら、俺はシーラウディの足に張り付いた。


「よし……これで攻撃は入るな……」


 ……攻撃は入るがどうすりゃいいんだこれ。なんにも出来ねぇよ。



「おぉーいッ! メイィー!!」


「んぁ?」


 少し、ダガーを持っている方の腕が辛いなと思っている時だった。どこからともなく、俺の名前を呼ぶ声がする。……キョロキョロと見ると船が一隻、近づいて来るのが分かる。


「んぉ!? ぁあッ!?」


 俺が張り付いていた足がいきなり動き出し、そして、水面に落ちて行く。ダガーを抜き、脱出しようと試みるが、一足遅くに水面と怪物の足に挟まれた。


「ッ──」


 ……いてぇ……!

 一瞬だけ記憶が飛ぶような経験をして、俺はハッと自分に戻る。何寝ようとしてんだよ……水中でブルブルと頭を震わせた後、水上へ顔を出す。


「……あの船……沈んでねぇ……」


 先程、シーラウディから攻撃を受けたハズの船は無傷であり、そのまま運行を続けている。すぐ近くだった為、俺は無意識に泳いでいき、甲板に跳躍で降り立った。



「……どうする。このままじゃ、ジリ貧だ」


「そうなんだよな。この状況をなんとかするには船と船、情報を伝達出来ればいいんだが……」


 ……そこには大勢の戦意喪失中の怪我人がおり、その中で一際目立つ二人がいた。一人はどこぞの馬鹿と、もう一人はハゲだ。……分かりやすく言うと、カートナードとリドルグだ。


「……何してんだ……お前ら」


「っとぉ……! やっと来たな! タコ足に引っ付いてたんで呼んだんだよ」


「お、おう……それで何してんだ?」


 俺はそう言ってその場に座り込む。ふと、二人の顔を見てみると、真剣な顔をしているかのようだ。……そりゃそうか……こんな状況だからな。


「リドルグは船の防衛、俺は作戦を建てた後、実行……そんだけだよ」


「ふぅーん……作戦って?」


 少し気になったので、カートナードの作戦とやらを聞いてみることにする。その言葉にピクッと反応したカートナードが、笑みを堪えていた。


「やってくれるか!? それなら俺らはかなり助かんだ!」


「っとぉ……早くしてくれ! こんなんじゃあ体がもたねぇ!」


 カートナードが目をキラキラさせている頭上でシーラウディの足が振り下ろされてきた。それをリドルグが大きな音を響かせて弾き飛ばしているのだから驚くことこの上ない。


「なぁ! 頼む! メイ!」


「ん、あ、あぁ……」


「うっしゃぁーっ!」


 口を開けていたら、カートナードがなんか言ってた。俺は何気なしに頷いていたらしい。まぁ、それでもいいかと話を聞くことにする。喜んでいたカートナードだったが、俺が彼の顔を見ると、真剣な顔で向き合ってくる。……それ程、大切な作戦なのだろう。


「……メイ、お前には船から船へ、伝達する役割をお願いしたい」


「……船から船へ? っつうと、海を渡れって事か?」


 俺の言葉にカートナードがゆっくりと頷く。……ハァとため息を吐いて、俺は頭を搔く。


「なんで俺が……」


 少しだけ渋ってるのを実感する。ぶっちゃけこんな役回りは勘弁して欲しいものだ。


「……素早さと跳躍力、それにメイが信頼出来るからだ。辛い役回りでごめんな……だが……たの──」


「わーったよ……ただし、貸し一つな」


 ……それに、それであの怪物が倒せるのなら、願ったり叶ったりだしな。


「……へっ……また借りを作っちまうなー」


「そんな話はいいから早くしてくれッ!! マジでヤバいんだっつうんだ!!」


 リドルグが白目で怒ってくる。それに、カートナードがハイハイとあしらって俺に話をする。


「……この船は囮の船だ。だから、この怪物の攻撃を受けている。そして、俺らがいた船は多分、遊撃隊だったんだろう。いきなりこっちに攻撃が当たって無意味になっちまったが」


「ちょっと待て。なんで船の役割の話なんかし始める?」


 俺の疑問にわりぃわりぃと謝って説明をしてくる。


「他の二隻の役割を伝えると同時に差別化してーんだよ。そういう事だから少しだけ聞いてくれ」


「……おう」


「そんで、残り二つは強襲する船……つまりつえぇ攻撃する船な。それと治療船。怪我人を治療する船だ。治療船だけは少し前に交流したらしい」


 ……強襲する船ならシュルネイルやレイジが良そうだな。……ティナがいた船は……。


「……治療船……か」


 あそこで怪我をしていた人を治療してたのか……。


「アイツ……」


「まずは強襲する船、次に治療船、そしてその後、俺らの船に来て欲しい。そしたらまた指示を出す。頼むな」


「……分かった」


 カートナードから頼まれ、俺は甲板の端へと向かう。そして一度立ち止まった。


「死ぬなよ」


「メイこそなー……頼んだぜ」


「へいへい……んで、何伝えればいいんだ?」


 俺は甲板から飛び立つ前に振り返っていた。

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