第八十八話 愚者
俺は何故か、魔物討伐に駆り出される事になったようで。宿屋のベッドでふて寝しながら俺は沈黙を守っていた。今、この部屋にはティナがいる。そのティナはというと、俺に声を掛けようか迷っているようだった。なので……、
「何もじもじしてんだ? トイレいきゃあいいじゃねぇか」
冗談めかして言葉を送る。しかし、ティナはそれに頷きもせず、かといって笑い出す事もなかった。……沈黙を作り続けている。それに少しだけ嫌気がさし、体勢を少しだけ起こす。
「……んだよ……そんな顔して」
眉間にシワを寄せつつ、ティナの顔を見てみると、とても心配そうな……俺の身を案じてくれているかのような顔。ティナがそんな風に気遣ってくれているのが分かったのだ。
「……」
「……」
ティナが黙りこくってんなら何も話さねぇ。そう考え、姿勢を戻そうとした途端、
「ねぇ……」
「……何だ?」
いきなり、ティナの口が動き、声を発した。その声に応じるように、俺の口も動き言葉を発する。俺の顔はティナへと向けられない。……何故か、そうなってしまっていた。
「……私も連れてって」
「駄目だ」
俺はティナの言葉を即座に否定する。何故、俺がお前の代わりにやろうとしたのかを理解してくれていない。そんなの、簡単だ。……ティナを傷つけたくはない。だからこそ、ティナの願いは俺が叶えてやらなければならない。例え、倒すべき相手が巨大な化け物相手だろうと、海を支配する魔物だろうと、俺がしょいこまななければならないのだ。
「なんで……? やりたくない貴方がいくのに、なんでやろうとしてる私はいけないの……?」
「お前は残ってろ。コメットの世話しとけって」
「答えて……! なんで連れてってくれないの……?」
「……はぁ」
なんと答えればいいか……。俺は右手の人差し指を噛みつつ、思考し始める。なんと言えば納得させられるか……なにを伝えればティナは退いてくれるか。記憶を探り、行動を見、何をどう言葉にすればいいか、それを整理していく。こんな作業、あまりやったこともなく、何を言えば良いのか、まだ分からん。それでも、説得はしなければならないのだ……。誰でもないティナの為に。
「お前は正直……邪魔なんだよ……」
「……え?」
俺の口から出た言葉は、彼女を汚すような、汚れた言葉……その汚れたものに気づかない俺は、そのまま汚い言葉を発していく。それが、正しいことかのように。
「お前が革命軍の助けになるっつったとき……あのザマはなんだ? 入っただけで、何の役にも立ってねぇじゃねぇか」
「め、メイさ……」
「それになんだ? 仮面女の時もそうやったよなぁ? 結果どうだ? お前は役に立ったのか?」
「メイさ……やめ……」
俺の薄汚れた言葉は確実にティナの内側を傷つけていく。それを俺は正解かのように錯覚、これでティナが退けばそれでいいと思っていた。
「お前は足を引っ張ってるだけだ。なんの役にも立ちはしねぇ。お前はただ、手伝うとか言って偽善者を演じて、辺りをかき回してるだけ────」
「やめてよッ!!」
ティナの大声によって、俺の言葉は続かなくなった。……そして、俺はティナになんと言っていたのかを再確認しようとする。……が、その前にティナの言葉が紡ぐのが先だった。
「分かってるの! そんなこと!! どうしてもうまくいかないのは!! 分かってる! 分かってるのよ!!」
くしゃくしゃになった顔で、顔を振り回すように動かして、聞きたくないと言わんばかりに耳を塞いで、ティナはそういい放つ。
「強くもない! 対して役にも立てない!! それどころか足を引っ張ってばかりで皆の迷惑になってって!! そんなの私が一番分かってるのよ!!」
目からは雫が落ち、声も震えていて、それで尚、大きな声を放っている。内から力強い何かを振り絞っているようで、やりきれない気持ちが伝わってくる。
「それでも! やっぱり役に立ちたい!! どんな事でもいい! 些細な事でもいい!! 役に立ちたい!! 色々な人を、助けたいのよ!! それなのに……メイさんは……なんで……」
声が小さくなったところで、ティナが何か気がついたかのように、俺の方を見てくる。
「……そっか……そうだよね……私、邪魔なんだもんね……」
「……おい?」
ティナの目から、涙が滴り、そして俺は気づく。
ティナの目には光が消えていた……。些細な変化だが、それでも、ティナの瞳には以前、光があった。それはこれまでの苦難があってなお、希望が写っていた証なのだと思う。
それが……消えた。
「…………さよなら」
ティナはゆっくり、ゆっくり……扉を開け、部屋を出る。その姿を俺は引き止める事なく、ただただ眺めていただけだった。そして、俺の考えは移行する。
「……さて、化け物狩りだ……気を引き締まっていくか……」
本来の目的を、本末転倒の様な形で成した、愚者の言葉であった。




