第八十六話 三年
漆黒に染まる。聴覚、視覚、嗅覚、触覚……四つの感覚が全て、曖昧になっている気がする。……全てが、気がするのだ。俺は……何かすべきだった気がする……。何か、目的があった気がする……。その何かが、その目的が、分からない……知っていたハズだった? いや、知らなければならなかった? そもそもどうしてこんな場所にいるんだ? そもそもここはどこだ? そもそも俺はなんだ? 俺は何で何が何を何で何が何で何を何が何で何を何して何をして何が何を………………。
ぐるぐるぐる……ぐわんぐわん……そんな擬音が鳴り響く中、気がした意識が、消えていくような、そんな感覚に陥った……。
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「うっ…………おぇ…………」
起きた瞬間に、目眩と吐き気が全身を支配した。もうすぐで吐きそうな感覚、起き上がり、立ち上がり、廊下へと出ようとした所で、足がふらつき、もつれ、倒れこんでしまう。痛みを感じないほど、目眩というか、痺れが全身を駆け巡っていたようで、思い通りに体が動かない感じがする。
「……三年……」
ふとそんな言葉を口にする。重要な数字だった気がする。未だに頭が縛られるような感覚に陥り、片目を瞑ってしまう。気分を落ち着かせようと、倒れた体勢のまま、深呼吸……結果、
「うぇっほ!? ゲホッ……ゲホッ!」
むせた。
俺は咳を出すだけ出して、苦しさとおさらばした時にグッと立ち上がる。幸い、体はまだふらつくものの、立てる事は出来そうだ。少しの痺れ、少しのだるさ、少しの視界の霞みに頭の霞み。それらを残したまま、俺は窓の方へと向かった。吐き気はいつの間にか何処かへと行ってしまったようで、今はスッキリという言い方も変なのだが、先程よりはラクになった。
「……まだ夜じゃねぇかよ」
太陽も出ていない、真っ暗な空。真っ暗なだけなのは太陽のせいだけではなく、海から流れてくる、黒い雲も関係しているだろう。俺は、ティナを横目に見やる。……何事もなく、すやすやと気持ち良さそうに眠っている。そんな様子に少しだけ笑みを浮かべてしまった俺は自分の手の甲をおもっきし噛み、思考を正常にした。
……思えばティナは幸せなのだろうか?
ふとそんな事が頭に過った。他者を思いやる感情……そんなもの、無かったと思いたかったのだが、色々とわからなくなってしまった。コイツと関わってると、人を疑うことが馬鹿馬鹿しくなってくる。……いっそ、何処かへ行ってしまおうか……? そうすれば、そんなこと考えなくなるハズなのだが……。
「どうしてこんな……不思議だ」
……考えとは裏腹に、ティナと一緒にいたい。そんな考えさえ、生まれてくる。だからなんでこんな考え出るんだ……?
俺は順調に、『俺自身』が分からなくなっていた。
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「……ぅー」
ベッドの上で唸りながら、俺は頭を掻きむしっていた。眠れん、そして、考えが頭から消えん。こんなキャラじゃあないだろう。そんな事を考えつつも、俺の思考はエスカレートしていた。挙げ句には、殺人衝動、自殺願望等も出てくるワケで……。本当、何考えてんだって話になるわけだが、自分でも何を考えているのか分からない。
「……! ……!」
叫びたい。全てを吐き出して気持ちラクにしたい。カラオケあればと思うが、ない。ここはファンタジーの世界なんだ。あるわけない。どんどんと意味不明なストレスが蓄積していくワケで……解消しなければならない。これじゃあマジ破裂する。
「あークソッ……!」
自分で考えを深めていくと、どんどんドツボにハマっていくのが、今分かった。その考えを全て投げ出せればラクなのに、投げ出せない。頭に湧いていくモヤモヤが、全く以て晴れない。
ふと、窓をチラッとみると、少しだけ、ほんの少しだけ明るくなっているのが分かった。夜明けだ。ずっと考え事をしていたので、夜が明けてしまった。
「……はぁ」
何してんだ俺……唸るだけ唸って朝になっただけじゃねぇか。時間を無駄にするのは相変わらず変わってないようだ。俺は伸びをして、軽いストレッチ。外を見ても、雨が降っている気配は……ない。
「気分転換に走るか」
汚れきって、ボロボロなプライベート私服……それを着ながら、俺は外へと向かっていった。外へ出ると、コメットが起き、すぐにどついてくる。舐めるとかでいいだろと思うが、最近これが普通になっているので何も言わない。準備運動を軽く行い、港町内を軽く走る。体を動かして尚、考えは消えないという事件。
「……何も考えずにー……っつうのが理想だったんだけどな……」
汚れた服でかく汗を拭いながら、そんな事を呟いていた。因みに、俺の後ろからはコメットが走ってきている。俺が速度を落とすとコイツにどつかれるという謎の現象が起きる。
「考えない事は難しいか……」
速度を少しずつ緩めながら、思考をしようと試みる。
「ギャアッ!」
「いだッ!」
しようとした瞬間どつかれた。見事に膝かっくんのような形になり、前のめりに倒れ込む。……分かっていたハズなのに、何故速度落としてんだ俺は……。
「どつくなっつうの……」
「ギャウッ」
「分かってるのか……?」
本当に頭がいいのか悪いのか分からない魔物だ。言うこと聞くときは聞くし……いや、俺の言うことだけ高確率で聞かないなコイツ。本当に重要な場面くらいでしか話を聞いてくれない。
「はぁ……まぁいいか」
頭を掻いて、ゆっくりと歩き始めた。今いるのは、港町の出入口付近だ。雲は怪しく、空模様が悪いので、朝なのか夜なのか分かりづらいが、明らかに周囲が見え始めてきたのできっと多分、朝になったのだろう。汗も少しだけ掻き、怪しく吹く風が少しだけ心地よく感じる。
「……」
そして、ふいに考えてしまうのだ。自分の存在意義についてを。もうそんな歳、卒業したとは思ったのだが、存外抜けてはいなかったらしい。おかしな話だが、ティナを見ていると、自分の事……相手の事について、考え直してしまうのだ。……やはり不思議なのだ。ティナの何を見て、何がそうさせたのだろうか。理解が出来ない。
「……出来たら、悩まねぇしな……それに」
三年……自分の事と同様に、ふと出てきたその数字だけが気になる。この三年でイベント発生か? それともイベントクリアしなきゃならないとかか?
「クソー……なんなんだよ……」
悩みの種が増えすぎて、更には芽さえも出てきそうだ。……不安は尽きない。そもそも何故このタイミングなんだ? 始めっから覚えとけって話よ。自分自身にイラつきながらも、荒っぽい歩き方を自覚している。
「……本当……なんの数字だ……?」




