第八十五話 嵐の理由
「宿の予約は取った……薬草もまた増えたし……薬学でも習おうかね」
「ぶつぶつ言ってて、少し不気味だよ……?」
「……悪かったな……」
ティナに言われて、俺は顔を苦くする。こんなストレートに言われるとなんだか嫌だなと思う。ただ注意しただけだったのだろうが、ティナの言葉は、俺の中身を純粋に傷つけていた。
俺らは、屋台を後にし、宿屋の予約を取った後に港の様子を見に来ている途中だ。心地よくもない、不安を感じるような風が吹いており、雲行きは未だ怪しい。波を見てみると、なんとも大きいものが来たりしており、時折、下にある桟橋が波に呑み込まれているのが分かる。更に、場所によっては桟橋が波にさらわれた場所もあり、尋常ではない。一応、ここが港……なのだろうか。階段の上から俺はその光景を眺めていた。
「水が桟橋を食べてるみたい……」
「すげぇ表現だな。まぁ、否定できねぇけど」
頭をガシガシと掻いて、俺は桟橋の奥を見る。……そして、目についたのは、桟橋よりももっと奥の、黒い海の様子だった。ここからでも天気が悪いのは見えるし、何よりたまに黒い雲から光る、雷のようなものが一際目立って見えた。
「……」
これは……船が出せないのも納得だ。海が本当に荒れている。この中を進むのは明らかに自殺行為だろう。海に関して殆ど知識を持たない俺でもそんなことは分かった。
「酷いもんだろ」
俺らは誰かに後ろから声を掛けられたので、振り向いてみる。すると、そこには人目で中年男性だと分かるような、そんな人がいた。険しい目をしており、その目は海の向こうを見ている気がする。
「こんな状況が、三ヶ月近く続いてる。魚も採れない、輸出入も出来ない、こんなになってると言うのに、国はいつ動くんだろうな……」
「三ヶ月も……!」
「ま、山とか川に行けば、食料には困らないが、獣人国の道具は性能が良いからな……困ったもんだよ」
やれやれと言った様子で中年男性は俺らに言ってくる。
「獣人国の道具……?」
「なんだ、知らないのか? 獣人たちの造る武器や防具はこっちとは性能が段違いよ。だが、それなりに良い値はするがな」
そう言うと、ニッと笑ってくる。獣人国という場所は場所で、種族ごとに得意な事などが違うみたいだ。当たり前か。しっかし、獣人がもの作りに特化してるなら、他の種族は何が得意なんだ?
その後、中年男性はじゃあなと別れの挨拶をして、この場を去っていった。
「……獣人国からは装備を輸入してるのか……ってそんなこと分かってもな」
俺らは武器防具を買いに来たワケではない。……いや、買ったけども。それでも、本目的は海を渡ること……つまり、違う大陸へと向かう事だ。
「……うーん……どうしたもんかね……」
「おさまるまで待つしかないんじゃないかな?」
「ここに何年いろと」
三ヶ月もおさまらないのなら、必ず何か原因があるだろ。三ヶ月前はなっていなかったのなら、天候を改善させる方法があるかもしれない。……例えばというのが思いつかないが。
「……ま、もうそろそろ宿に行くか」
「そうだね。また明日、考えよ」
「ギャウッ」
時間が分からないが、もうそろそろ日が暮れるような気がする。それに、今日はもう休んだ方がいいだろう。新しい町には着いた事だし、ゆっくり休むというのも大切だしな。
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俺は部屋のベッドに横たわり、すぐに眠れそうな体勢を作った。ぶっちゃけ、動きたくない。
「はぁ……久し振りのベッド……」
「そうだね……すぐ寝ちゃいそう……」
欠伸を噛み殺しながら、ティナは言ってくる。その姿を横目にして、すぐに視線を逸らす。そして、体を逆へ逸らして、ティナと顔を合わせないようにする。
「……早く寝ろよ。疲れてんだから」
「メイさんも、早く寝てね?」
「わーってるよ」
「……うん、私は寝るね……また明日」
ティナはベッドに横になり、意外と早く寝息を立てていた。……俺も少しだけ休むとしよう。そう思い、俺も少し経った後、意識が遠退いていったのだった。




