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第八十三話 麻痺の実験

「……やっぱ海より山だな」


「いきなりどうしたの?」


 吹き過ぎる、潮風を感じ続け、俺は嫌気が差してしまい、唐突に口走っていた。ティナはやはり、頭に疑問符を浮かべて、不思議に思っている。


「山か海っつったらどっちがティナはいいんだ?」


「い、いきなり? ええと……」


 俺の言葉にティナは答えを出そうとしてうーんと悩んでいる。


「……メイさんはなんで山なの?」


「潮風の臭いがしつこくてな……」


「そうかな……? いい香りだと思うけれど」


「どこがだよ……変な……つーんとくるようななんというか……そう、変なんだよ」


 海鮮のような、海臭いというか、そんな感じなのだが、上手く伝えられない。さっきの言葉を聞いたティナはそうかな……と口に手を当てて、考えている。そんな感じで歩いていると、魔物と遭遇する。


【シーラビット】

【シーラビット】

【シーラビット】


 ……長い耳を持ち、尚且つエラもあり、更には後ろ足の跳躍で進むであろう形なのに、その足には水掻きもあるようだ。前足にはツメと水掻きがあり、引っかかれたら肉が抉れそうだ。それが三匹、横列に並んでいる。戦闘になるとすると厳しいかもしれない。


「……一人一到でやろ?」


 ティナが突然、そんな事を言い出したので、彼女を二度見してしまった。……ティナからそんな言葉を聞けるとは思わなかったからだ。戦闘力に関しては、ティナは問題ないのだが、実戦となるとまだ不安があるハズ……。


「連携も大切だけれど、こういうケースもあるから……危なくなったら助けにいくからね?」


「前文は了承したが、後の文は俺のセリフな」


「ギャアッ!」


 俺が言葉を返した後、コメットが先陣を切った。それに続いてティナと俺もシーラビットへと突っ込んだ。俺の狙う魔物は他のヤツより少し小さめのヤツだった。といっても元が俺の体の半分くらいの大きさだから、小さめといってもでかいが。


「んッとぉッ」


 そして……気づく。武器が素手だけだったというのに……!


「ぱ、パラライズ!」


 忘れていたとか馬鹿か!? 俺は動揺を隠しながら、魔法の詠唱を行い、麻痺属性を自身の手へと付加させる。そこで、ふと思い至った事があった。


「……麻痺の力……宿れ! パラライズ!」


 二度の詠唱を行い、自分の実験は最初に付加させた手とは逆の手を見て、成功したのだと驚きと嬉しさが込み上げてきた。……今、自分の両手には麻痺属性が付与されている。つまり、一度で二度美味しくもできるし、間を置いて、二度頂くことも出来るのだ。そして更には、ダウンガードの重ねがけも瞬時に行えるし、ダウンガードと併用してパラライズを唱えることだって可能になるのだ。

 この結果はかなり大きな利益をもたらしたと言っても過言ではないだろう。グッと拳を握り、嬉しさを抑え込む。そしてキッとシーラビットという兎に向かって走り出し、背中を取った。シーラビットは俺には反応できているのだが、体を反応させるのが、ワンテンポ程遅く、俺の手がシーラビットに触れる方が先だった。


「喰らいな……!」


 自分では渾身の力を込めたストレート。それを兎に入れ、仰け反らせると共に痙攣を起こしはじめていた。パラライズが久し振りに効いたようだ。なるほど、多分だけれども、敵が自分より強ければ強いほど、麻痺には掛かりにくいらしい。万能って事ではないわけだ。……しかし、何が強いってことになるのだろうか。少しだけ分からんな。レベルだと、永遠に勝てないし。それか今のはめっちゃくちゃ運が良くて入っただけか。


「ステータス依存だと信じたいな」


 ステータスの総合数値とか、もしくは攻撃力依存とか。……だとすると、相手の抵抗力は相手のステータスにもよるのかもしれないな。

 変な思考を巡らせている間に、俺は兎を同じ腕の方で殴りまくっている。地味に自分も痛いので、俺のHPが減っていない事を祈りたいな。

 十発程度を打ち込んだ辺りだろうか。そこでシーラビットは痙攣状態から立ち直り、俺に向かって跳躍で突撃してきた。前歯が異常に鋭いのを確認し、慌ててでんぐり返しのような避け方で攻撃を避ける。それを避けられて俺を追い掛けてくるのにピョンピョン跳ねるので少し、動きが読みづらい。


「……らぁッ!」


 今度は逆の方の拳で殴り始めた。しかし、仰け反るだけで、痙攣には至らず、戸惑いを覚える。……何故今度は駄目なんだ!? そう思った瞬間、ゴッという鈍い音と共に後方へ吹き飛ばされる。……シーラビットの頭突き……前歯でなかったのが救いなのだろうか、それでもかなりの痛みが体を突き抜けていった。


「げほっ……いってぇ…………」


 腹に入ったので、手で抑えながらシーラビットを見る。シーラビットはそのままの勢いで、俺に近づいて来やがる。一度、二度と距離を置き、乱暴に手の甲に噛みついた。

 ……やろう……分からないままじゃあ、何も解決しねぇ……! 俺は決意し、とある言葉を口にする。


「麻痺の力……宿れ! パラライズ! 麻痺の力……宿れ! パラライズ!」


 二度の詠唱で両手に麻痺属性を付与し、対面から来るシーラビットに向かって突っ込んでいく。……一で倒れればラッキー、二で入れればギリギリ。俺は右の拳でシーラビットを殴る。シーラビットの顔面に入り、少し深く顔が沈みこんだ。……が、痙攣は起こさない。それを見た俺は二度目の拳を再度、顔面に喰らわせる。……すると仰け反る行動と共に、痙攣を起こしはじめた。


「……うっし…………成功率は……100%じゃねぇってか……」


 これで、謎の解決に一歩近づいた。麻痺は、手で触れても効くとき、効かないときがあるらしい。恐らく、このようなデバフ系の殆どが該当するハズだ。つまり、今まで効かないと思っていたヤツも、実は成功しなかっただけであって、必ずしも麻痺にならないというわけでは無いのだ。何度かやれば必ず……いや、耐性がなければ確実に麻痺にさせることが出来るハズだ。


「それが分かっただけで進展────」


 そう口に出して、殴ろうと思った時だった。……勢いよく、何かがスイングされて、痙攣していたハズのシーラビットが吹っ飛んでいったのだ。それをやった正体は……三人の中で一番の攻撃力を誇っている魔物……。


「クソッ……取られた……」


「ギャアッ!」


 コメットだった……。既にコメットの相手していたシーラビットは絶命しており、先程テールスイングされた方も、痙攣を止め、活動を停止しているので、生命が失われたと思っていいだろう。


「あっ! 遅かった……」


「なっ……俺だけタイムアップかよ……」


 ティナも少ししてこちらに来て、どうやらこの中での勝負は、コメットが一番、ティナが二番、俺がドンケツというオチになってしまった。……やっぱ俺にチート能力をくれよ! こんなんじゃ、なんかおかしいだろ!

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