第八十二話 可能性
目を凝らすと、確かに灯台のような物が見えた。
俺らは昨日の夜にトカゲ人が向かったと思われる港町に歩を進めることにしている。若干、俺のテンションは低く、逆にティナのヤツのテンションは上昇している。……あの説教のようなものが俺は苦手みたいなのだが、何故か強制力のようなものに掛かり、ティナに頭を上げることが出来ない。……これはアカン。男が頭を上げられなくてなんなんだっつうんだ。
「……俺は弟じゃねぇからな」
「突然どうしたの?」
俺の突然の言葉にティナが首を傾げて言ってくる。
「いいから、弟ではないからな?」
「うん、知ってるけど、弟みたいだから」
俺の言葉に肯定しつつも、みたいだからとティナは言ってきやがる。……いや、そういうんじゃないんだが。思ってる事が中々伝わらなくて、自分の手の甲を軽く噛む。どのように言えば良いのか……。
「だから、仮の弟的な……存在かなー」
「っざけろよ! 俺は弟じゃねぇっつうの!」
「仮のって言ったのに……何が駄目なの?」
「俺は弟じゃなくてな! 普通にお前の────!」
自分が話の流れに乗っている事に気がついて口を塞いだ。……自分が何を言おうとしているのかが分かったからだ。今、そんな事を言っても何の利益もねぇだろと頭の中で考えてしまった。
「……私の?」
「……いや……その……えと……あの……」
目が泳ぎ、焦点が合わず、ティナを直視する事が出来ない。拳をグッと握り、頭を震わせて、
「なんでもねぇ」
と吐き捨てる。その言葉を不思議に思いながらもティナは何故か俺の顔を見てくる。
「顔が赤いよ?」
「うっせぇ!」
俺がふんッと顔を逸らすと、またもティナは首を傾げた。……後ろにいるコメットはそんな会話に興味を示さず、大欠伸をしていた。……呑気なヤツ。
「……でも、大丈夫かな……」
「……? 何がだ?」
ティナが唐突に何か、心配そうな言葉を漏らしていたので、気になって聞き返してみる。
「船なんだけれど、もしかしたら出港できないかもって……」
「……どういうことだ?」
いまいち話の流れが見えてこなかったので、ティナに更に聞き出そうとする。ええと、と一息置いてからティナは口に出した。
「ラーズさんが言ってたじゃない? 魔物に襲われて船が木っ端微塵になったって」
「……そうか……その可能性もあったよな」
思えばキー人物と会っていたのではないかと今更ながらに気がついた。沈没した船に乗っていた船乗り……その情報からすると、船だと天候や魔物が心配だな。もしかしたら、魔物のせいで何日もいけない可能性もあるもんな。どうしたもんかと、手の甲を軽く噛み、とりあえず港へと向かうことにする。事実、見なければ分からないのだから。




