第八十話 伝えなきゃならない
「んで……ラーズだったか? お前はなんなんだ?」
焚き火に薪をくべながら、トカゲ人に質問する。今は皆、焚き火の傍でまるくなっている所だ。さっきの質問にトカゲ人は苦笑しながら話をする。
「直球だね……でも、そうだね。話しておくよ」
助けてくれたんだしねと一言加えて話が始まる。
「俺っちは船乗り見習い! ゆくゆくは船長を勤めたいと思ってるんだ!」
「船乗り! それって海を渡る、船に乗る人だよね!」
船乗りと聞いていち早く反応したティナが更に質問を投げ掛けていた。その言葉にトカゲ人はコクッと頷きそのまま話続ける。
「そう! その中で一番偉くなるのが夢なんだッ! これだけは誰にも譲れないね!」
……正確には別の話に刷り変わったのだが。ティナが介入するとこれだけ会話が拗れるのか……? 俺は額に手を当ててため息をついた。
「……どうしたの? メイさん?」
「……いや……」
本人が気づいてないんだ……仕方ない。俺は更に深いため息をつき、視線をトカゲ人に戻した。
「そういえばお二人ってどうして一緒にいるですかね? 人間なんてものと……あーっと、口がすべっちまいました」
トカゲ人はティナの顔を見て、すぐに言い訳を始める。今の話を聞いたティナの顔は、何故かムッとした表情になっていた。
「ハハッ……すません。しかし、少し渡れない間に人間と魔人の関係は良くなったのねー」
トカゲ人が笑いながら言ってくる。その様子を見ても、ティナはまだムッとしている。……珍しいな、他人にこういう表情をするのは。
「……メイさんに謝って」
「……ど、どうしたんすか、そんな怖い顔になられて」
「謝れ……!」
ふるふるとティナは震えているようだ。……こんなに怒るのを見るのは久し振りかもしれない。
「な、なんなんだ!? 俺っち何か悪いことしました!?」
「人間なんかって……言わないで……! 人間にも……メイさんのように優しい人だっているんだからッ!!」
ティナはトカゲ人に一喝すると、すっかりトカゲ人は丸くなる。俺も少しだけティナを怖いと思った。……やっぱり怒らせるべき相手じゃないな。うるさいし。
「……す、すません……」
「…………」
「ま、まぁ……話がいい加減進まないから話をしようか。な? ティナも、な?」
俺はティナを諭し、トカゲ人を庇う形になる。トカゲ人がなんだか可哀想になってきたからな。少しだけ同情しよう。
「メイさんがそう言うなら……」
ティナをなんとか落ち着かせて、俺は少しだけ安堵する。……未だにティナの事が分からないな。どこが逆鱗なんだコイツ。頭を掻きながら、俺は今度はトカゲ人に目を向ける。
「んで、話を戻すが……なんでお前は倒れてたんだ?」
船乗りっつっても本当かどうかは怪しいし、仮に本当だったとしても、俺達に危害を加える可能性だってある。……そんなことはさせないが。
「俺っちはですね、獣人国からの使者の乗る船に乗ってきたんだけど……」
トカゲ人はそう言ってポリポリと頭を掻いていた。その顔は少しだけ暗い顔をしている。
「順調……とは呼べなかったけど、でも船は転覆することなく、魔人国のすぐそばまで来たハズなんだ……でも」
目を閉じながら、これまでの経緯を話す、トカゲ人。そして不意に目を開けると、睨み付けるような目付きで言葉を発する。
「……魔物……そう、魔物だ……ソイツが俺っちの船を木っ端微塵にしたんだ……」
「ふぅーん……」
「大変……!」
俺は気のない返事をし、ティナは焦ったようにして落ち着かなくなる。……ティナを見ていると、なんか忙しいヤツだなと思えてくる。
「その事を獣人国にも魔人国にも伝える為に……そうだった! 伝えなきゃならない!」
トカゲ人は体を起こし、キョロキョロと見渡して何処かへといこうとしている。
「……どうしたの?」
「早く伝えなきゃ! 港! 港は……彼処だ!! 失礼しまっす! 早く行かなきゃならないんでッ!! ありがとうございやしたッ!」
トカゲ人はそう言い残した後、風のように去っていった。その様子を見て、俺とティナはきょとんとしているしかなかった。
「行っちゃったね」
「お、おう」
しかし、どうして港の位置が分かったのか不思議に思ったが、なるほど、灯台を目印にしていたらしい。微かに遠くで光る、塔のようなものが建っているのだ。俺らも彼処に行けばいいという訳な。
「……夜なのに大丈夫かな……ラーズさん……」
「……船を沈められて生きてたから悪運は強いだろ。そんくらい大丈夫さ。多分」
根拠もない言葉を俺は言って自身に納得させた。……ま、死んでても俺には関係無いけど。




