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第七十九話 トカゲ人

 ……ここは……俺っち……死んだのか……? 暗い暗い……意識もハッキリとしているのか、ぼんやりとしてるのか分からない。息は出来てるか……目は見えているか……感覚はあるか……体は動かせるか……。その全てがまだ自分には分からない。


「……ぅ……ぁぁ……ゲホッ……」


 上手く、声が出せない。でも不思議と体が温かいような気がする。そして顔に、ヒリヒリとした感覚がする。


「…………ぃ…………」


 誰かが、俺っちを呼んでるのか……? よく聞こえないけど、そうなのか? そんな感じがして、意識をハッキリとさせようとして、それでもやっぱりぼんやりとして。


「…………ゃ………………って……」


 不思議な……女性の声……かな? ……まさか、俺っちを迎えに来た声なのか!? 待って! 待って! 俺っちまだ逝けないから! 逝っちゃ駄目だから!


「………………メット……!」


 今度は男性の声だ。いやでも、逝くなら女性の方が……いやいや! 行かないって言ってるだろぅ! そう思った次の瞬間、顔に湿った感触を感じた。なんだろう、くすぐったい。くすぐった……ヒヒッ……アハハッ……! アハッ……ゲホッ……! ちょっ……息出来な……! ゲホッ……! 息……! 息が……!


「わぁッ!!……はぁ……はぁ……すぅ……はぁ……」


 苦しくなって、俺っちは無理矢理起き上がった。本当に呼吸が出来なくて死ぬところだった……。


「……良かった……目が覚めた?」


「ギャウッ」


 ……俺っち……どうやら生きていたみたいだ。その事に感謝しつつ、俺っちは周りにいる人達を確認した。


 ・

 ・

 ・


 ・


 ・



 ・



 ・



「大丈夫かな……この獣人さん」


 心配そうな顔をして、ティナは俺の背にいるトカゲ人を見てくる。今は安全な場所まで運ぼうと、ティナの提案で見晴らしの良い原っぱに移動している所だ。なんだかんだで海にも魔物がいるらしいので見えない敵より見える敵ってんで移動したのだ。


「大丈夫だろ。一応はティナが回復したんだろ?」


 俺はちらっとティナを見てそう言う。HPがあるなら、死んでも死なないからな。俺なんか出血多量で死ぬだろって程出血したけど、未だに死んでいない。この世界はHPがあれば何とかやっていけるらしい。なんともゲームみたいな世界だ。


「そうだけど……」


「自信無さげに言うなよ。それなら大丈夫だろって」


 このトカゲ人からは微かに息遣いが聴こえる。だから、今すぐ死ぬとかは無いだろう。……死ぬヤツの息遣いはどんなのか知らんけど……。


「ここら辺で良いだろ」


「そうだね。焚き火の準備お願い。私はヒールをやるから」


「へーい……」


 俺はゆっくりとトカゲ人を降ろし、仰向けにする。そのトカゲ人にティナは手をかざしてHPを回復させる。俺は道中拾った木の枝を素材袋から取り出して、乱雑に重ねる。火が傾き始めたし、このまま野宿するのもいいか。


「今日はここから辺で野宿するか」


「……あっ……そうだね」


 俺は歩き回ってソワソワしていたコメットに伏せをさせ、そのコメットを枕にする。最近、このポーズで寝るのが癖になってる。魔物枕、意外と寝つきが良くなるのだ。まぁ、コメットの機嫌が悪くなるとどつかれて咬まれるが。


「またそうやって……可哀想だよ」


「嫌ならコメットは退くさ。なぁ?」


「ギャアッ!!」


「あだっ!?」


 俺がコメットに話し掛けると、いきなりコメットが立ち上がり俺は地面に頭を落とした。意外と土が硬くて頭が痛い。コメットはタタタッとティナの傍に行ってそこで伏せをしていた。


「よしよし。大丈夫だよー」


「……ったく……」


 なんつう魔物だアイツは……。俺は地面にぶつけた頭を擦りながら、コメットを睨み付ける。コメットは素知らぬ顔で寝ていた。


「んで、ソイツはまだ目が覚めないのか?」


「……うん、傷は無いし、大丈夫だとは思うんだけれど……でも、起きないの」


 ティナは絶え間無くヒールでトカゲ人のHPを回復させ、心配しているように見えた。……その事が少しだけモヤモヤしたので、俺はトカゲ人の隣に座り、躊躇することなくトカゲ人の顔に軽い平手打ちをかました。


「なっ……! め、メイさ────」


「らぁぁあッ!!」


 素早さが高い事で行える秒間10発平手打ち! トカゲ人の顔が小刻みに揺れ、面白い。……しかし、やっていくうちに俺の腕と手が痺れ、トカゲ人の顔が赤くなっていたので止めた。


「……ぅ……ぁぁ……ゲホッ……」


「やめなさいッ!」


 ティナの叫び声と同時だった。トカゲ人から呻き声が上がったのは。ここが押し所と思った俺は、あることを行う。


「コイツの顔を舐めろ!」


「やめなさいって!!」


「いけコメットッ!」


 ティナは俺の手を抑えるのに必死だったようで、隣のコメットには手が回らなかったようだ。そして、コメットはトカゲ人の顔をなめ回す。……なんか味見しているような感じがするのは気のせいか? そういう絵面に見えなくもないので少し心配だ。


「わぁッ!!」


「うぉっと」


 いきなり大声を出して起き上がってきたのでビックリしてしまう。コメットは少し下がり、ティナは安堵したような表情でトカゲ人を見ていた。


「……良かった……目が覚めた?」


「ギャウッ」


 トカゲ人はキョロキョロと辺りを見渡しているようだ。大方、自分の置かれている状況等の確認を行っているのだろう。


「怪我は? 痛むところは? 苦しい?」


「だ、大丈夫。俺っちは無事……うん、無事なんだ」


 トカゲ人は今度は体を手で確認しながら、外傷がないかの把握だけを行い、一息ついた。


「あんらが助けてくれたのか?」


「そうなる……のかな? 私はセレスティナ。こっちはコメット。よろしくね」


 なんの疑いもせずにティナは挨拶をしていた。……警戒くらいはしとけよ……。因みにいつでも戦闘体制に入れるように俺は手だけは用意している。今使えるのが素手という武器だからな。


「……俺っちはラーズ。助けてくれてありがとう! セレスティナにコメット。そして……魔物……?」


「ん? 魔物の名前はさっき言って……」


 俺は小さく呟くと、慌ててティナが補足する。


「あ、こっちがメイさん」


「……へー……この魔物がメイさんって名前なのか」


「おいまてこら」


 突如、名前を間違えるという暴挙にトカゲ人は出た。この後、少しだけ話が拗れて、すっかり暗くなってしまったのは言うまでもない。

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