↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
80/131

第七十八話 海

 その日の天気は荒々しかった……。

 空は泣き叫び、天からは滝のように雨粒が流れ込んだ。水の大地は上下を目まぐるしく変動させ、その上を行く乗り物を転覆させんと活動を起こしていた。


「……くそっ……! 何人か落ちた……! この嵐じゃもう……!」


 若い船乗りが、柱にしがみつきながら、そんなことを口走っていた。一瞬の出来事だったのだ。気をつけて移動を行っていたハズの船員が、水に呑まれ、海のかいなに襲われたのだ。引きずり込まれ、その者はもはや海面の下にいるだろう。この荒波の中、生存する確率はかなり低かった。


「だから……だから無理だったんだよ! こんな嵐で船を出すなんて……!!」


 まるで、爆風にあおられているように体は宙へ浮きそうな程の力を受けている。そこに、塩水の手が船乗りに牙を剥いてくる。船乗りはそれに抗いながら、しっかりと魔法が発動しているか、監視しなければならなかった。一番大きな帆に描かれた、淡い青色に光輝く魔方陣……それの監視だ。もしも消えてしまえばこの船は数分と持たずに沈没するだろう。そのもしもが起きたら船長に報告するのが彼の仕事だ。


「何が魔法船だから大丈夫だ、だ……! 乗る方の身にもなれよ……!」


 そんな悪態をついて何時間が経過しただろうか。未だに彼を取り巻くこの現状は変わらない。むしろ、酷くなってきているのだ。鳴り止まない雷に、気を抜くと飛ばされてしまうような強風。痛みを伴うほどの水の散弾。船は上下に激しく揺れ、若い船乗りは死にもの狂いに柱にしがみつく。体力も、腕の力も、何もかも限界に近づいてきた。だが、そんな彼に希望が降り注ぐ。


「……あの……光……! 灯台……! もう少しだ……!」


 いつの間にか、魔人族の住む大陸が見えてきたようだ。もう少し、そう、本当にもう少しだった。

 ────このままだったならば。


「うぁッ!?」


 突如、甲板が崩壊……そして、船乗りは宙に浮く。何が起きたのかは、検討もつかない。しかし、嫌でも知らなければならなかった。


「……なん……だ……あれ……」


 巨大な影から巨大な何かが、破壊した船を締め付けていた。船はもはや原型を留めておらず、中にいたハズの船員の生存は壊滅的だった。そして、彼もまた生存の確率は低い。ギラッと光る、何かを見た……その瞬間、水飛沫が視界を塞ぎ、大きな水溜まりに沈みこんでいった。


「……! …………!」


 死ぬ……! このままじゃ……! 死ぬ……! 嫌だ、嫌だ……! 助け……助けて…………!


「……」


 誰か────。



 ・



 ・



 ・



「……ほぉー……海ね」


「うわぁ……! 大きな川……!」


「川じゃねぇけどな」


 リューナの村を旅立ち、数日が経った。そして、一直線に来たと思ったら、なんと砂浜についてしまい、先へと進めなくなったのだ。


「……しっかし……どうしたものか」


 ここから先には進めない……というか、海だから渡らなければ進めない。つうことは、必然的に船が必要になるな。


「……」


「……どうした?」


 俺がこれからの事を考えていると、ティナが海を見て、ボーッとしていた。俺の言葉に気がついたティナはハッとなりつつも海から視線を変えない。


「ううん、まだ私にも、知らないことがあるんだなって」


「私にもって……そりゃー……って海は初めてなのか?」


「……これが……海……」


 そう呟くと、ティナは砂浜の上を歩き、海へと近づいていく。波の音が近い……。そういや、俺も海は久しぶりだな……。


「小学校以来……か……? 駄目だな……ハッキリとは思い出せない」


 記憶力には全然自信がないからいい。しかし、それでも忘れてしまっているのはなんだかな……。ふと、視線をティナに戻してみる。ティナは恐る恐る、海水に手を伸ばし触れようとしていた。


「冷たッ!」


「そりゃ、基本水だしな」


「それに、なんだか髪が変……」


「潮風か」


 ティナは髪を弄りながら、海の向こうを見ている。……海上の天気はかなり悪そうだ。ここからでも、まるで台風のように天気が荒れているのが分かる。


「海って本当にしょっぱいの?」


「俺の知ってる海ならそうだな」


 異世界でも、潮風があるのならば変わりないハズだ。……にしても、異世界でも海がしょっぱいということが常識なんだろうか。


「……う…………しょっぱいし、なんか変な味……」


「舐めたのか!?」


 まさか、本当に舐めて確かめるとは思わなかった。ティナは苦虫を噛み潰したような顔をして、体勢を直した。


「ギャアッ!!」


「うおぁ!?」


 突如、後ろからどつかれ、海水に浸かる。……コメット……てめぇ……。俺がコメットを見ると、尻尾を振りながら嬉しそうな顔をしている。


「コメットッ! こらッ!」


「ギャウッ!」


「……ふふ」


 俺は立ち上がり、コメットを追い掛ける。十数秒、コメットを捕まえるのに時間が掛かった。クソー……結構早くなってきてる。それに、避けたりするので面倒臭い。


「んで、言い残す事は?」


「……」


「黙るのかここで!」


 捕まえたコメットに説教をした後、俺らは海沿いを歩いていくことになった。こうすればいずれ港に着くことが出来るとそう思ったからである。


「……本当に大きいね……海って」


「そりゃそうだろ。海なんだから」


「どうして海って大きいのかな?」


「どうしてって……水だからな」


「……? どうして水だと大きいの?」


「……」


 ティナの質問に黙りこむ。頭が良いわけでもないし、かといって雑学を知っていると言われてもそれもない。……結局、答えられないので、


「雨ってあるだろ?」


「うん」


「あれも水だ」


「……うん。それで?」


「……それだ」


「……それ……だから?」


「それなんだ」


「……ええと……?」


 会話のキャッチボールになっていない気がする。そりゃそうだ。分からないんだから。


「そういえば、ティナもコメットも強くなってきたな」


「……まだまだだよ。もっと……もっと強くならなきゃ」


「おう、頑張れよ」


「……そういえば、なんでメイさんは自分に経験値を入れないの?」


 突然、そんな事を言われたので俺は歩きながら表情が固まった。ティナは疑問符を頭に浮かべながらその答えを待っている。


「……別に、必要経験値がデカイだけだ」


「……それにしてはまだレベル1だよ? 本当にそれだけ?」


「ああ!」


 自信満々に、俺は答える。本当にそれだけだからだ。ティナでさえ、まだレベルが20になってないんだ。そんな中で俺がレベルを2に上げるのはかなり厳しい……いや、不可能だ。


「そっか……一緒に頑張ろ?」


「……おう」


 ティナの言葉に少し戸惑いながらも頷いた。頑張ろ……ねぇ……。頑張っても頑張っても……俺のレベルは上がらねぇのにな。なんて、そんな事を伝えたとしても意味がないか。


「……あれ……? あそこ……誰か倒れてない?」


 話が終わって少し経った頃、歩いている途中でティナが指を指した。その先には……うつ伏せになって倒れているトカゲのような……ヤツがいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。