表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/131

第七十七話 鈴の音

 仮面女は何を持っているのだろうか。ふと、そんな疑問が頭に過った。とても大切そうに抱かれたそれは、仮面女の隣に居ようが、少したりとも見ることさえ出来ない。

 ……結構小さいもんなんだな……。

 俺はチラチラと仮面女の腕の中身を気にするように歩いていた。


「リューナちゃん!」


 仮面女を見ると、急いで駆け寄ろうと立ち上がる。しかし、痛みがまだ退いていないのだろう、立ったまま痛みを堪えるようにして、その場で立ち止まってしまった。そんなティナのもとへと仮面女はゆっくり歩いて近寄っていく。


「……すまない。私がもっと強ければ、怪我を負わせずにすんだのに」


「い、いいのいいの! それより、見つかったんだね……」


「……ああ、やっと……やっと会えた」


 仮面女はいとおしそうに、手に抱いていたもの────銀色の鈴を撫でていた。その鈴から透き通るような音が鳴り、そして何処からかまるで共鳴するようにして鈴の音がまた、鳴り響いた。


「……セレスティナ、そしてメイ……ありがとう……これで何もかも、吹っ切れた……」


「……何がっつうのは聞かねぇけども……大切なもんなんだな」


 俺は言動に気をつけて返答を行う。ティナは事情を全て知っているんだろうな。そう思い、ティナの方を見ると、仮面女の事を潤んだ瞳で見ていた。


「ああ……私達の母の……遺品だ……」


 うわっ……スゴく重かった。だから聞きたくなかったんだよ。俺は頭をかきむしりながら、仮面女の話を聞いていた。


「母は、私が十の頃、私に弟たちと妹たちを託して何処かへ行ってしまったんだ……何日も、何年も……」


 鈴を儚げな表情で見ながら、俺にそう言ってくる。


「……別に話したくねぇなら話さなくても……」


「……いや、話したいんだ……聞いてほしいんだ……駄目か……?」


「……いや」


 そんな風に言われたら流石に弱る。だから、俺は何も言わないように、仮面女の声に耳を傾けるようにして聞くことにする。


「私達の母は、とても素敵だった……優しくて、分からないことも教えてくれて、そして、私達を愛情を注いで育ててくれて……」


 思い出に更けるようにして、目を細めながら言う。


「そんな母だから……最後まで私達を…………」


 グッと拳を固めて、仮面女が悔しげに話す。その様子をティナが同情するような眼差しで見ている。俺は、静かに仮面女の言葉を聞く。


「……この鈴が、母と私達を結んだ最後の物だったんだ……」


 そう言って、金色の鈴と、銀色の鈴を取り出してくる。片方が鳴るともう片方も鳴る。綺麗な透き通るような、澄んだ音色で、聴いていてもうるさくは感じない。逆にとても心地のよい音だった。


「本当に……ありがとう」


 実感のない、感謝の言葉を受け取って、俺達は村へと戻ることになった。

 結局、母の形見である、銀色の鈴を取り戻したかったが為に、ボグアリゲイタを倒したらしい。……しかし、何故あの魔物の胃袋の中にあったんだ? それを疑問に持ちながらも変に突っ込まずに歩いていった。


 村に戻ると、餓鬼どもがグッスリと眠っている最中だった。魔物が来たりとかはしなかったようで、一安心だな。俺らは起こさないように、仮面女の家へとも戻る。


「ティナ、怪我は大丈夫か?」


 さっきまで立つので精一杯だったのだから、心配してしまう。そんな言葉にティナはクスッと笑う。


「大丈夫。心配しなくても、ね?」


「ゆっくり休んでくれ。私の為に負った怪我なのだから、そうしてほしい」


 ティナのその言葉に仮面女が心配して言った。仮面女の言葉にティナはふるふると横に首を振る。


「役に立たなかったけど……ね」


 力になれなかったと、悔やみながら俯いて仮面女に言った。その言葉を仮面女が否定する。


「セレスティナが居たからこそ、私は迷いなくあの魔物に立ち向かえた。セレスティナがいなくても、この戦いは勝ちを得られなかったんだ」


 微笑みながら、仮面女はそう言った。ティナはそれに驚いて、俺の方を見てくる。


「だから、言ったろ。手伝われた側は、そんなこと思ってねぇって」


「……そう……なんだ……」


 ティナは今にも泣きそうな顔で呟いた。その姿を見て、まだティナの事を理解できていない自分に気づく。やはり、他人を理解するというのはとても難しいようだ。今、ティナになんと声を掛ければいいのか、全然分からない。だから、ポンッと頭に手を乗せる。その様子を仮面女は温かい目で見ていて、俺は少しこっ恥ずかしいと思いながらそっぽを向いて、女の小さなすすり泣きが響いていた。



 ・



 ・



 ・


 ・


 ・

 ・

 ・


「結局こんな長居しちまったな」


 約一週間くらい滞在しただろうか、俺とティナとコメットは、今まさに旅立ちの瞬間だ。そして見送りに餓鬼どもと、仮面女が村から出てきていた。


「本当、ありがとう、リューナちゃん」


「ティナも、また来るといい。メイは変態な行動を慎んでくれ」


「俺がいつ取ったんだこのアマッ!」


 ニヤニヤと仮面女が俺に皮肉を言ってきやがる。俺に対する反応とティナとの反応が全然違うじゃねぇか。餓鬼も餓鬼で俺らに群がってきていて邪魔ったらありゃしねぇ。


「離れろ! お前らッ!」


「残念だなー」


「またですね」


「まったねー!」


「……また」


「また会える日まで……待ってます」


「またねぇー」


「……またです」


 餓鬼どもも最後まで自分の言葉でお別れの挨拶をしてくる。


「…………おう、またな」


 少しだけ、何か引っ掛かるような感情があったものの、その感情を表に出さずに素っ気なく挨拶をする。


「んじゃ、またな」


「また、会おうね!」


「ギャアッ!」


 最後に俺らは仮面女に挨拶をして、行こうと思った時だった。


「待て、メイ、ティナ」


 ふと、俺らを引き止める。仮面女の方に俺らが向くと、仮面女の掌には金と銀の鈴が置かれていた。


「……これを持っていくといい」


「でも……これ、リューナちゃんのお母さんの……」


 そうだ、この鈴は母の形見とか言ってたろ。それをなんで差し出してくるのだろうか。


「いいんだ。私達には、もういらない……こうして、皆で生きていられる。それだけで、もういいんだ。だから、この鈴はお前たちに持っていて欲しい」


 ニッと笑い、仮面女……リューナは言ってくる。


「……わーった。……ありがたく、貰うわ」


「うん……ありがと、リューナちゃん!」


 俺は金色の鈴を、ティナは銀色の鈴を手にとる。綺麗な音色が共鳴して、まるで合唱を行っているようだ。


「……願わくは、いつまでも鳴り続けますように」


 リューナの言葉を背に、俺らは歩き始める。その歩調と共に、俺とティナを繋ぐ音色が高らかに鳴り響いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ