第七十六話 自分の身よりも
「……リューナちゃんは、何処に行ったのかな」
ふと、座っているティナがそんなことを言ってきた。先程から明るい顔をして何か吹っ切れたような雰囲気だ。
「なんか、あのでけー魔物んとこにいたぞ」
「そっか、私たちも……ッ!」
ティナは立ち上がろうとしたのだろう。立った瞬間に足元がふらつき、倒れないように俺は咄嗟に支えた。
「何回お前は転ぶんだよ……」
「ち、違っ……転ぼうと思って転んでるわけじゃ……」
「もうちょい休め。俺が呼んでくる」
それに結構な時間、仮面女はボグアリゲイタの所にいるようだ。いつまでたっても来る気配がない。俺はコメットにこの場を任せて、仮面女の元へ向かった。
仮面女はボグアリゲイタの死骸付近にいるハズなんだ。そう記憶しながら俺は、ボグアリゲイタの周りを簡易に捜索する。
「おーい、仮面女ー」
気のない呼び掛けをかけながら、俺は仮面女を捜す。それでもなんというか、気配がしない。人の気配というかそんなものをか感じないのだ。一種の勘だけども。
「……っかしいなぁ……素材目的じゃ無かったか」
そこら辺で鱗でも剥いでるのかと思ったのだが、どうやら大きな間違いだったらしい。……ならば、何処に行ったんだ? ふと、辺りを見渡しても仮面女のいる気配すらない。いないもんだと決めつけて魔物の死骸の側へ近づいていく。
「……しっかし……少しためただけでこんな威力出るもんなのか……?」
貫かれた胴体を見て、俺は唸っていた。レベルの差や、戦闘技術の差がかなり開いてるとは思っていたものの、ここまでされると流石に退くからだ。どす黒い血溜まりが出来ており、嫌な臭いが辺りに漂っていた。しかし、本当に仮面女は何処に行ったのだろうか。遠くには行ってはいないと思うが、ちょっとばかし心配だ。
「おーい。仮面女ー」
無意識に、ボグアリゲイタの顔の前にまで来ていた。ここまで歩いて、仮面女のいる様子が見当たらない。また、キョロキョロと辺りを見渡してもやはりいない。
「……いねぇのかー」
呼び掛けが段々と雑になってきているのを自覚する。この辺りにいないなら、呼び掛けても無駄だしな。……そんな事を考えていながら、ボグアリゲイタを見ていると、ピクッと何かが動いた気がした。
「……ッ」
その事に気づいて俺は身構える。……大丈夫か? もしもこの魔物が動いたら、俺一人で対応出来るか? 仮面女は何処か行ってしまっているし、なんなら逃げることも視野に入れて……。
そんな事を考えていると、ボグアリゲイタの口がゆっくり、ゆっくりと開いていった。
「……おま……なにしてんだ……?」
牙の隙間から、出てきたのは血塗れで出てきた仮面女の姿だった。輝くような金髪は血で塗れ、気の強そうな顔も黒ずんだ顔になってしまっていた。そして、手には大事そうに何かを包んでいるように思える。
「……私の目的は終わった。さて、セレスティナの元へ行こう。報告しなければならないからな」
「目的……ねぇ」
自分の身よりも大切なものってなんなんだ? かなり疑問を持ちながらも、俺と仮面女は待っているであろうティナの元へと向かっていった。




