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第七十四話 ボグアリゲイタ

お待たせ致しました。

暫く空けてしまい、申し訳ございません。

「……どうするか」


 これでもティナのHPの減りには気をつけていた。

 しかし、ここまで来るのにティナのHPは全然減ってなかったように見える。

 ……つうことは、一撃であんな風になったということか。

 ティナがあれじゃ、俺は即死なんじゃないか?

 近づかなければ何も出来ないし、かといって近づけば死ぬ可能性が大きい。

 そんな事を考えていると、ワニが鬱陶しそうに頭を振るった。

 ……頭上に槍を掲げる金髪がいる。


「はぁぁぁああああああああッ!!」


 槍は仮面女の頭上で大きく回転し、ワニへと突き刺さる。

 ……が、どうみても浅い。

 再度、ワニが頭を振るい仮面女がよろめいてワニから飛び降りる。


「……っく……セレスティナ! 無事か!!」


「無事なワケねぇだろ……血ぃ出てたぞ」


 着地した仮面女に向かってそんな言葉を投げ掛けた。

 それに驚いた様子でこちらを見てくる。


「何故変態が……」


「変態じゃねぇっつってんだろ……」


 頭を乱暴に掻いてそう反論する。

 いい加減、それを定着させるのをやめてほしい。


「こんな化けもんと戦うなんざ馬鹿じゃないのか?」


「お前に……何が分かる……!」


 巨大ワニ……ボグアリゲイタを見ながら仮面女はそう言ってくる。

 それに俺は手のひらを横にして、首を振る。


「分からんけどよ……」


「だったら口を挟むな……これは……私がやらなきゃならないことだ……セレスティナには悪いことをした」


 真剣な表情からは退く意思など元から持ち合わせていないようだった。

 退いてくれた方がありがたかったけどよ。

 戦わずに済んで。


「だから、セレスティナを連れて……」


「はい、出た。それな。ここまでやっといて勝手に死なれたら困る」


 大方、ティナを連れて逃げろとかそんなところだろう。

 そんなんしたら、俺がティナにどやされる。


「それに……バトンタッチって言っちまったからな」


「……なんの話だ?」


「こっちの話だ」


 俺は小さく首を横に振り、仮面女を見る。


「攻撃は任せたぜ。仮面女」


「お、おい! セレスティナは……!」


 仮面女の制止を聞かず、俺はダッシュでボグアリゲイタに向かう。

 詠唱を行い、触れた相手の防御力を下げる、ダウンガードを唱え、右手に効果を付与する。

 大きな牙が俺に向かって襲いかかるものの、跳躍でかわしてボグアリゲイタに右手で触れる。

 どうやら背中にいるらしいな。

 後は守備力を下げていって仮面女に攻撃してもらうだけだ。


「……後は単純なさぎょ────」


 単純な作業と言い切る前に、足元がふらつく。

 ボグアリゲイタの移動……それとも何かのアクションか?

 揺れに耐えれるように、俺はしゃがみ、ボグアリゲイタに引っ付いた。

 落ちたらシャレにならん。ボグアリゲイタに踏みつけられてはい、終わりとか、そんな結末望むものか。

 ケッと唾を吐き出しそうな考えを直ぐに頭から追いやり、俺は更にダウンガードを重ねがけしていく。

 どのくらいまで下げられるかや、どのくらいの間下げれるのか、未だ不明なのだが、そんな検証をする事などほぼ不可能に近い。

 なのでダウンガードは雰囲気と勘を頼りに使っている形になっていた。

 まぁ、相手の守備力を下げるとか、物理攻撃しか出来ないヤツとかにはめっちゃありがたいけど。


「ダウンガード……」


 これで四度目、更に下げようと努力を行うが、流石に腕も疲れてきた。

 片腕だけで体を支えているようなものだからだ。依然、ボグアリゲイタは体を動かしており、一瞬でも腕の力を抜くと、地面にドン、足でグシャだ。

 ……自分で考えて震えてしまった。そんな暇あるなら守備力を下げなければ。


「ダウンガード……」


 これで六回、仮面女はどうしただろう。ここからだとよく見えない。ならば、正面から敵対しているのだろうか。

 つうか、ティナは大丈夫だろうか。岩影に隠れさせたとはいえ、確実に安全と言うわけではない。他の魔物がいないとも限らないし、何よりボグアリゲイタの流れ弾が当たらないとも限らない。

 ああ……クソッ……今更こんなん考えて……遅いんだよ、思考回路が……!

 自分にイラつきながら、そして、手の甲を噛みつき、イライラを解消させようとする。


「まさか、無事だよな……」


 何を不安しているのだろうか。それは勿論、ティナの事だ。もしも、今回は運が悪くて、ティナが……いやいや! そんなんあるわけない! ちゃんと薬草を使ってやったし、岩影にも連れて行った!


「……」


 不安が抑えきれない。自分がやったことが実は裏目に出るのではないかと、焦燥感が生まれ始めた。

 ちゃんと傍にいるべきだったろうか。ちゃんと薬草を飲み込むのを見るべきだったろうか。ちゃんとHPが回復するのをみれば良かっただろうか。

 だろうかという可能性が色々出てきてしまう。心配だ。すぐ見に行きたい。行きたいが……。

 約束した……バトンタッチだと。そんな俺が今行ってなんだ? 約束は果たせませんでした。ってか? 冗談じゃない。


「速攻で片づける……!」


 出来もしないことをまるで出来るように、難しい事を意図も簡単のように、俺は口に出した。武器もない、魔法もデバフのみ、他にあると言えば、ガラクタと己の体のみ。

 ガラクタ……ガラクタ?

 素材袋をガサガサと漁り始め、俺は使えそうな何かを探す。……なんでもいい、とにかく攻撃……武器にできるヤツならなんでもいい……例えば……そう、


「魔物のツメや牙とかな……」


 そう呟くと、ふと何かを掴んだ。それを当たり前のように取り出してみる。

 ……それは、よく見たことのある、魔物のツメ……いや、牙か? ……思えばそうだ、武器は単に鉱石から出来てるなんて訳じゃないもんな。普通に魔物の素材を使っての武器があってもおかしくないだろ。


「よっこいしょッ」


 そんな牙を、振り上げて俺は振り下ろす。一瞬、固い鱗に遮られたような感覚を味わったのだが、すぐに奥へと入っていった。……守備力はこの牙が入るくらいに落ちているらしい。これなら仮面女の攻撃でも通るだろう。


「仮面女ぁッ!! 早く仕留めろッ!!」


 腹から大きな声を出し、俺は仮面女が聞こえるくらいの声量でいい放った。これで聞こえなければ仮面女の耳が腐ってると思ってもいい。……まぁ、そんな心配はしなくても良いだろう。

 何故ならば、急にボグアリゲイタの背が傾斜を作り出し、俺は危うく落ちそうになったからだ。流石、魔物の牙だ。これでぶら下がってもなんら支障がない。……いや、撤回、やっぱ腕が痛い。


「分かって……るッ!」


 懸命な仮面女の声が小さく聞こえた。どうやら少し離れた場所で戦闘を行っているらしい。いや、当たり前か。あっちは顔面の方にいるわけだし。……顔面って上じゃね? 今、傾斜が作られているし、上を見上げるとボグアリゲイタの顔が見えるし、仮面女もいたし。


「はぁぁあああッ!!」


 重力で勢いをつけ、更に手で大きく回転させ、遠心力さえも自らの武器に付与させる。その威力は先程よりも確実に重いものとなるのだろう。しかし、ボグアリゲイタの正面というのが非常に不味い。ボグアリゲイタに食われちまう。そんな心配をしていたが、すぐに無駄だと言うことが分かった。

 仮面女がタンッと空を蹴り、ボグアリゲイタに強烈な一撃を喰らわせた為である。

 ……アイツも俺と同じパッシブ持ってるのかよ。こりゃ、正々堂々で確実に負けるわ。タイマンの時、あのアクシデントに救われていたって事か。

 ボグアリゲイタの頭部に当たったようだが、苦しげに頭を振り回す程度で終わってしまっていた。あれで相手のHPの半分以下程度まで減らせていたのなら貫かれた頭部はひしゃげ、血肉の塊へと変化させていたのだろう。しかし、先程の一撃でもHPは半分を切らなかった。


「どうやらやっこさん……かなりタフらしいな」


 っちっと舌打ちを鳴らして険しい表情になっていた。ダメージソースは主に仮面女の一撃だ。俺の百の攻撃があの仮面女の一撃にさえ劣ると言っても過言ではないだろう。ティナやコメットでさえもあの仮面女の一撃には及ばない。

 しかし、そんな仮面女も人だ。当然、疲れは出てくるし、HPも減るし、ミスもするだろう。そんな仮面女が倒れてしまって、俺は討伐することが出来るか……?


「しくじんなよ……仮面女……」


 いや、今は前の事を見なければ……ダウンガードでボグアリゲイタの守備力を下げていく。肝心のボグアリゲイタは仮面女の方向へと目を向けているらしい。体の向きが変わったのが分かった。唸り、攻撃を行い、振動が体に伝わる。振り落とされないように必死に掴まり、揺れる体を固定させる。


「……暴れん……なっ……っ……って!」


 詠唱をすることもままならなくなった。今してしまえばきっと、体を支えることが出来なくなってしまい、投げ飛ばされるだろう。そう思ったので両手でがっしりと掴んでいる。仮面女は何してるんだ……! いい加減倒してくれよ……!

 ……これがワガママなのはわーってる。クソッ……結局は待つしか出来ねぇのか……。


「っく……そ……!」


 やべ、このまま暴れられると、守備力減少の効果の延長が出来ない上に、ただの荷物になる。そんなのさせるかよ……俺は素材袋から、魔物の牙を取りだし、フックのようにして、ボグアリゲイタにぶっ刺して引っ掛ける。抜けないか少し心配だが、ないよりマシだ。先程よりも深く刺さっているハズだし、安心していいと思う。多分。


「守りを破壊する力……宿れ、ダウンガード!」


 利き腕である、右手を扱い、俺は自身の体を支える。左手に効果を付与し、その左手でボグアリゲイタに触れる。効果は多分、発動し、守備力ダウンも延長したハズだ。それに安堵し、再度ボグアリゲイタにしがみつく。グラグラと、いや、それ以上に揺れているので、気を抜くと一瞬で地面へ真っ逆さまだ。時々、比較にならないほど巨大な揺れが襲い、宙へと一瞬浮いたりして、心臓に悪い。


「……まぁ、あっちもあっちでやって……くれてるよな……?」


 まさか敵前逃亡とかはまだしてないよな? するとしたら俺に一言くらい言ってくれるよな? ……そんな事を考えたらかなり不安になってくる。いや、確かに仮面女は俺への接し方を変えたのかもしれないけども、そう見せただけで未だに良からぬことを企んでるとか……。


「……変態ッ! もう少し堪えろ!!」


「誰が変態だっつうんだよッ!!」


 ……企んで無さそうで安心した。敵前逃亡はしてないようだ。なら、俺ももう少し耐えよう。ダウンガードを再度唱え、ボグアリゲイタに付与する。もうコイツの守備力は紙レベルまでに落ちているハズだ。だから、仮面女に一発一発をかまして貰って、倒して貰いたい。


突波とっぱッ! 五月雨槍さみだれそうッ!」


 槍から放たれた一直線上の衝撃波がボグアリゲイタを襲い、更に仮面女が何発もの突きを繰り出した。五月雨槍の四発目くらいでブシュッという勢いのいい音と共に、どす黒い液体が噴き出す。それは、多分、ボグアリゲイタの血だろう。


「……よし、あとちょいだ」


 魔物の牙で体を支えながら、ボグアリゲイタの鳴き声に耐える。ドラゴンの咆哮よりも、大きな声だが、耳を塞いでいるので、まだ大丈夫だ。それでも鳴き声か終わった後には耳鳴りが頭の中を支配して、鬱陶しいが。


「────仮面女ッ! まだか!」


「今……やってる……! 少しは手を貸したらどうだ!!」


「貸してるわッ!! 武器がねぇからダウンガードしか出来ねぇんだよッ!!」


 俺だって仮面女みたいに無双したいわ! 素早さは高いと思うのに肝心の攻撃力が酷いんだよ!


「なら、スキを作ってくれ……! とっておきを出す!」


「ああ!? なんでそんなことをッ……」


 ボグアリゲイタがいきなり回転する。テールスイングによる、攻撃だ。油断した俺はその勢いに吹き飛ばされ、宙を舞った。


「っとぉ……!?」


「……」


 投げ出された俺を無視して、仮面女はボグアリゲイタの前で棒立ちになっている。……アイツ、何やってんだ!? あんな場所であんなことしてたら死ぬぞ! 俺は空に流されながら、思考を巡らす。……もしかしてスキ作れってか? あんな無防備になって、俺が出来なかったらどうすんだよ……。


「ったく……馬鹿だな……」


 こんなヤツにスキを作れとか……しかもあれ、全面的に信頼してる様なもんだぞ。……はぁ。


「わーったよ……応えればいいんだろ……」


 流れに逆らい、俺はエリアルステップでボグアリゲイタの真正面にたどり着く。素材袋から魔物のツメを数本取り出し、無造作に投げる。そのツメの多くは、ダーツの針のようにストンッとボグアリゲイタの顔面に刺さる。……そして、その中の一本だけが、左目へと刺さった。きっとそれは、俺らにとって目にゴミが入ったであろう感覚だろう。それでも、ボグアリゲイタは左目を閉じ、俺に矛先を向けてくる。


「短気だなお前……!」


 だが、それでいい。こっちに向け……攻撃を仕掛けてこい。ボグアリゲイタは俺に向けて、牙を使い、攻撃をしてくる。それをバックステップを駆使して、仮面女とは違う方向へと逃げ出す。それを追い掛けるようにしてボグアリゲイタは攻撃を続けてくる。牙と牙とが噛み合う度に鋭い衝撃が俺を襲う。しかし、威圧されてる場合じゃない。一撃も攻撃を喰らわないように、仮面女に向かないようにして、逃げに逃げる。仮面女の準備はまだだろうか。


「待たせた……!」


 そんな声が聞こえた。俺は仮面女の方に顔を向ける。すると、仮面女の槍が不気味な色の輝きを放っている。その不気味な槍を仮面女は投げるような体勢を取っていた。


「はぁぁぁああああああああッ!!」


 仮面女は雄叫びを上げ、精一杯の力を振り絞り、その槍を投擲した。投擲された槍は一直線に飛び、ボグアリゲイタの胴体を軽々と貫く。槍はかなりの距離を飛び、地面へと落ちたのはその槍が小さく見えた頃だった。槍が落ちたのと同時に、ボグアリゲイタがドスンと倒れこんだのが分かり、実感のない、勝利を勝ち取っていたようだ。


「はぁ……はぁ……私の………………仇を……!」


 仮面女が息を切らして何かを言っていたが、俺の耳には入りはしない。……ティナは無事だろうか。

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